第2話 二人目のドッペル


【Doppelgänger:2】



 

「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」


 俺に向かっていきなりそんなことを言ってきたのは、パーティリーダーのマヌッケスだった。

 マヌッケスはいつも俺にいじわるをしてくる、いじめっ子タイプのリーダーだ。

 だけど、今日はこともあろうか、俺を追放するとか言い出した。

 ちょっと待ってくれよ、俺は明日からどうやって暮らせばいいんだ。


「おい待ってくれ。なんで俺が追放なんだよ?」


 俺は一応、抗議する。

 まあ、マヌッケスに逆らっても無駄だ。

 こいつには力では敵わないし、一度決めたことを変えない石頭だからな。


「理由……ですか。言わないとわからないのですか? あきれましたねぇ。まさかそこまで無能だとは……」

「あん?」


 いきなり俺に侮辱の追撃をしてきたのは、パーティメンバーのマルコだ。

 マルコはおかっぱ頭の偏屈な変人だ。


「あなた、自分のスキルが最弱だってわかってますか? とんだゴミスキルですよ、スキル【拡大】は……」

「はぁ……? そのことかよ……」


 マルコの言った通り、俺のスキルは【拡大】

 あらゆるものの大きさを、大きくすることができる。

 それだけ聞いたら、そこそこ使えるような気がするだろう?


 だけど、まあ、俺も自分で認めるが、このスキルはあまり使えない。

 【拡大】には魔力を消費するんだ。

 しかも、拡大するものの価値が高ければ高いほど、多くの魔力が必要になる。

 

 だから、例えば食料を拡大しようとすると、かなりの魔力が必要になる。

 たしかに食料を拡大して増やすことができれば、それなりに有用だっただろう。

 だけどそれにはあまりにも魔力消費が大きすぎて、正直実用的じゃない。


 他にも、金塊なんかを拡大で大きくできればどれだけよかっただろうか。

 だが金塊ほどの価値のあるものを拡大しようとすると、それこそ天文学的に膨大な魔力を必要とするのだ。

 残念だが、俺は大魔術師でもなんでもないから、魔力は人並み程度しかない。

 だから、俺が拡大できるものといえばせいぜい石ころや、木の枝くらいの、価値のないものに限るのだ。

 つまり、奴の言う通りのゴミスキルだ。


「この世界では、一人一個しかスキルを持てない。それなのに、そのたった一個のスキルが、まさかこんなゴミスキルだなんてね……。ほんと、才能のない人間ですよ、あなたは」


 確かにマルコの言う通り、俺には才能がない。

 だがその分、俺は人一倍の努力をしてきたつもりだ。

 あらゆる雑用をこなしたし、知識だってたくさんある。

 このパーティの役に立っていたどころか、俺がこのパーティの頭脳だ。


「待て待て待て。そのことはすでにお前らも理解してくれてたはずだよな? たしかに俺のスキルはゴミだ。だがその代わりに、俺は知能や雑用で役に立ってきた。だから俺たちはこれまでうまくやれてたはずだよな?

 それなのに、今更追い出すなんてひどくないか? 俺たち、これでも同じ村出身の幼馴染だろ?」


 俺たちは同じ村から都会に出てきた。

 だからこそ、ゴミスキルの俺でも、パーティに所属することができていた。

 その点は、マヌッケスたちに感謝している。


「うるせえよ! 確かにお前は雑用なんかは得意だったな。だけどよ、最近あまりにも偉そうで、ムカつくんだよ! ろくなスキルが使えないくせに、あれこれ命令しやがって!」

「そ、それは……お前らが考えなしに突っ込むからだろ……」

「黙れ! もうお前の指図はうけない! お前の代わりに新しいメンバーも用意しているんだ。お前がいなくても問題ない」


 別に俺は指図していたつもりはないんだが……。

 ただ、こいつらは陣形を無視して戦うのだ。

 こいつらはなまじスキルが優秀なせいで、座学を全然やっていない。

 だから戦闘にかなり隙がある。

 俺は自分なりにそこを知識でカバーしてやってたつもりんなんだけどな。

 他にも、毒のある食べ物を食べないように、俺がいつも教えてやってたんだ。

 それなのに、それを偉そうだとか言われてもな……。


「新しいメンバーは【魔法】のスキルを持っている。すごく優秀な女だ。お前と違っていろいろ使えるだろう。だからお前は用済みだ。さっさと田舎へ帰れ!」

「そうか……。まあ、そこまでいうなら仕方ない。俺より優秀な人間だというなら、大丈夫なのだろう……」

「うるせえよ! 死ね!」

「ただ、最後に一つ言わせてくれ。嘆きの森にはいかないほうがいい。あそこにはいろんな罠が仕掛けられているからな」


 嘆きの森にいくときは、俺がいつも罠を見破って、先に解除してやっていた。

 そのくらいは、スキルがなくても可能だ。


「だまれ! お前のいうことはもうきかないね」

「まあ、いい。くれぐれも気を付けろよな」

「死ね! 自分の身を心配したほうがいいんじゃねえのか? 間抜け」


 どうやらもはや何を言っても無駄なようだ。

 俺は大人しく、パーティを出ていくことにした。

 一人荷物をまとめて、宿を出る。


 さて、これからどうしたことかな……。

 いきなり仕事を失って、行く当てもない。

 冒険者になるのは、無理だろうな……。

 俺のステータスとスキルじゃ、ソロ冒険者は無理だし、雇ってくれるようなところもない。

 唯一の仕事を失ったのだ。

 こんな俺じゃ、いまさらどこも雇ってくれないよな……。

 せめて俺にスキルやステータスで、少しでも才能があればな。


 この世界では、いくら努力して役に立っていても、こうして一瞬で職を奪われる。

 スキル強者のいうことは絶対なのだ。

 俺がどれだけ頑張っても、マヌッケスのような才能のあるやつには逆らえない。

 あいつと戦っても俺に勝つ術はない。

 だから、マヌッケスの一声で、俺はあっさりと職を失う。

 それほどまでに、この世界では、スキルや才能は絶対なのだ。

 

 いくら努力しても、無駄なのだ。

 俺には才能がない。


「はぁ……もうマヌッケスの言う通り、田舎に帰ろうかな……」


 だけど、田舎に帰るための旅費すらない。

 俺はこのまま野垂れ死ぬのだろうか。

 さすがの俺も落ち込んで、下を向いてとぼとぼ歩く。


 いくあてもなく街をさまよう。

 街にはたくさんのホームレスがいる。

 あいつらみんな、俺のように才能のないやつらだ。

 俺もいずれ、あんなふうになるのかな……。


 そうして街を歩いていると、――ドン。

 突然、人とぶつかってしまう。

 下を向いて歩いていたから、気づかなかった。


「すみません」

「いえ、こちらこそ」


 顔を上げて、俺は驚いて、持っていた荷物を落としてしまった。

 お互いに、驚愕の声を上げる。


「「はぁ……!?」」


 なぜなら、そこにいたのは、俺と全く同じ顔の人物だったからだ。

 顔だけでなく、荷物や服装までも一緒だった。

 意味が分からない。

 俺は幻覚でも見ているのだろうか……?

 追放されたショックで、頭がおかしくなったのか……?

 それか、鏡……?

 いや、道の真ん中に鏡なんかないよな。


 どういうことなんだ。

 お互いに顔を見合わせて、困惑の表情を浮かべる。

 どうやら向こうも俺と同じく、わけがわからないという感じらしい。


 とりあえず、こいつは俺なんだろうか?

 なにか話しかけてみようか……?

 もしこいつが俺なんだったら、同じことを言うはずだ。

 もし他人の空似なのだったら、違う名前だろう。

 それにしても、これほどまでに似た人間に出会うことってあるのか?

 もしかして、俺の隠された兄弟?

 俺に生き別れの兄弟なんていたのか?


「あ、あの……」

「は、はい……」


 驚いた。

 声までそっくりだ。

 

「一応きくけど、名前は……?」

「俺は……ドッペル・ニコルソン。17歳だ」

「俺も……ドッペル・ニコルソン。17歳だ」

「どうやら俺たちは……」

「ああ」


「「同じ人間らしいな……」」

 




=============

 ドッペル・ニコルソン

 男

 17歳


 Lv   1

 HP   11

 MP   11

 攻撃力   1

 防御力   1

 魔法攻撃力 1

 魔法防御力 1

 敏捷    1

 運     1


 スキル

 ・拡大

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