鬼畜王子に襲われたヒロインを助けたせいで、主人公が強制変更されたかもしれない

中村 青

第一章 海辺の町「ザッケル」

第1話 俺って多分、悪役だよね?

「やっぱこれって、異世界転生だよなー……」


 圧倒的に溢れるファンタジーな世界。

 石造りの神殿や自然溢れる美しい世界観。何処までも果てしなく続く壮大なフィールド、空高く飛ぶドラゴンは反則だと声を大にして叫びたかった。

 あまりにも素晴らしい光景に興奮が収まらない。胸が高鳴って収まる気配がないよ、コレ。


 スキルだってそうだ。以前の自分からは想像できない身体能力ステータスに詠唱で化学反応を発生させる超常現象。


 こんな非現実な状況に興奮しないわけがないでしょ?


 それにその他大勢 モブ だった俺にこんな甘酸っぱい青春イベントが起きるなんて、あまりの感動に涙が溢れて止まらない。

 ついでに手足の震えも止まらなくて、自分でもどうすればいいのか分からなくて困っています。


「サキ、どうしたの? さっきから挙動不審だけど?」

「どうもしてないよ、これが俺の正常運転さ」


 これが正常運転だなんてどんな不審者だ ——と、一人でノリツッコミしたが、引かずに笑ってくれるのも見た目のお陰だ俺の実力じゃないと重々承知である。


 おそらく——いや確実に、転生前の俺ではゴミ屑のように蔑んだ目で嘲笑されてお終いだったに違いない。


 それほどにこの人物の容姿は素晴らしかった。

 180オーバーという長身にも関わらず、小さな顔に中世の石像を連想させる素晴らしい筋肉達。

 整った眉に彫りの深い目鼻立ち。周りは色素の薄いアルビノが多い中、俺だけが黒髪に漆黒の瞳と浮いた存在だったが、注目される視線も悪くなかった。



 佐伯 理玖さえき りく、通称サキ。

 転生してから10日ばかり経ったが、未だに女神からの神託は授けられていない。


 だって普通、転生したらチートとか与えられるんじゃないの?

 スキル無双とか原作周知とか、貴族転生とかさ?


 まぁ、この見た目だけでも相当得してるとは思うけど、せっかくの転生なんだからもう少し旨みがあっていいと思うんだけど、ねぇ?


「さっきからブツブツと、誰に話しかけているの? 倒れた時の後遺症が今になって出てきたの? それとも変なキノコでも食べて幻覚でも見てるのかしら?」

「随分と辛辣だね、セシルは。まぁ、その毒舌も君の魅力の一つだけどね」

「ふふ、相変わらず気持ち悪い返しをするのね、サキは」


 え、これって気持ち悪いの? どう返すのが正解だったの?


 何にせよ、こんな美少女と一緒にいられるのなら、毒舌の一つや二つミジンコレベルの擦り傷だ。せっかくならもっと罵って欲しいくらいだ。


「ところで、あなたがこの街に来て10日が経つけれど、どう? 少しは何か思い出したかしら?」


 そう、彼女の言うとおり俺はこの海辺の港街【ザッケル】で目を覚ました。


 転生した俺にこの身体の記憶なんてあるはずないし、身分を証明するものも何一つ所持していなかった。

 冒険者にしては軽装だったし、目立つスキルもない。浜辺で発見されたから、航海中に遭難したと考えるのが妥当だろうか?


『これが本当に異世界転生なら、おそらくこの身体の持ち主は瀕死状態、もしくは死後だと考えるのが妥当だろう。ギルドに掛け合って捜索依頼が出ていないか調べてもらったが、何の情報も得れなかった。天涯孤独の身だったのか、もしくはその程度の身分だったのか——』


 いやいや、この逞しい筋肉美は一日にしてならず。

 数日過ごしてみて分かったのだが、この世界の貧富の差は相当で、低階級の人間はその日を生きるのに精一杯だった。


 つまりこの身体の主は、筋トレをする余裕のある優雅な暮らしをしていたことになる。


『食う物にも困っていなくて、鍛える時間もあった……。普通に考えたら金持ちのボンボンか冒険者なんだけどなァ』


 何か一つくらい特徴的な武器とか特殊技能とか、個性を持っていて欲しかったねー。


「ねぇ、サキは……これからどうするの?」

「どうするって、何が?」


 どうするにしても天涯孤独な俺に当てはないし、知識も後ろ盾もない。

 このまま冒険に出たところで無事に生きていける確証はゼロに等しい——が、このまま村長の家に世話になり続けるわけにもいかないのも事実だ。


 ちなみにザッケルの村長はセシルのお爺さん。

 彼女自身かなり美人で毒舌ツンデレでキャラも立ってるし、村長の大事な孫娘という肩書きもある。


 もしこの世界がゲームやマンガの世界なら、この子もこの世界の重要人物の一人に違いないだろう。


 昨晩もなんとかの聖女という二つ名があると自慢していた気がする。興味がなかったのでうろ覚えだが。


「村長……何か言ってた? この役立たずの薄鈍がーとか、木偶の坊とか」

「ウスノロ? デクノボウ? 何それ。美味しいもの?」


 異世界だと言葉のチョイスって難しい。日常常識もそうだが、こういった会話が成り立たないって意外と地味にストレスだ。

 俺は誤魔化すように笑って、話を逸らした。


 それよりも村長だ。もしかして相当ご立腹なさっていらっしゃる? 居候の身としては、非常に気になるところなんですが?


「ううん、おじいちゃんは何も言ってないけど……その、ほら、数日前から別のお客様も来てるから、サキも居心地悪くないかなって思って」


 毒舌饒舌なセシルの言葉に歯切れがなくなった。

 あー、あの客か。王都から来たっていう金髪碧眼の美青年。


 大勢の従者を引き連れて白馬に乗ってきたから、本当に存在するんだアイドル王子と、腹を抱えて笑ったもんだ。きっと彼がこの世界の勇者的存在なのだろう。


 記憶喪失の見知らぬ男と王都からやってきた皇太子。もちろん村長達の態度も分かりやすく差別されていた為、接点もなかったし問題はないのだが……。


 天使のように微笑みながら毒を吐くセシルの表情が曇り始めたので、空気を読むように言葉を選んで発した。


「……そうだなー、いつまでも世話になっているわけにもいかないし、そろそろ出ていかないといけないよなー」


 いや、本音を言えば本当は出たくない。

 元々面倒臭がりな気質だった俺にとって、居候という立場はかなり魅力的だった。


 だって、イケメンというだけで女性達がチヤホヤしてくれるし、ダラダラしていても衣食住に困らない。なんて最高、ひゃっほーい……だけれども。


 きっとこの言葉が聞きたくて、セシルは話を振ってきたに違いないから。


「そうなの? それじゃ私も一緒に行くよ! サキ一人じゃ何かと困るでしょ? これでも私も治癒魔法くらいはできるし」


 ほらね、やっぱり。

 彼女にとって俺は、地獄から抜け出すための唯一の蜘蛛の糸だから。


 やっぱ辛かったよね、は……。


 一見完璧な金髪碧眼の王子は、見た目に反して思いっきり変態思考アブノーマルな趣味をお持ちだった。


 昨晩は首輪と猿轡を着けてペットプレイ。その前は媚薬を盛って執拗に焦らしプレイだったかなー。縄で縛られて、痛そうに泣き叫んでいたこともあったな……。


 女性の尊厳皆無の一方的な快楽に、胸糞悪くなるのを覚えたほどだ。いくら身分の高い人間だからって、やって良いことと悪いことの判別くらいは持っていてほしい。


『俺も衝撃的だったもんな。其れ相応の立場だったら助けてやりたかったけど、反抗したところで刑罰事案だろうし』


 でも、もっとショックだったのは——セシルが他の男に痛ぶられ抱かれている光景を見て、身体に興奮を覚えたことだ。


 こうして天真爛漫に毒を吐く君も十分魅力的なんだけど、他の男に嫌々ながら汚されていく彼女も艶やかで綺麗だった。


「——サキ? どうしたの?」

「え、いや、何もないよ。たしかにセシルが一緒に来てくれたら嬉しいけれど、村長が許さないでしょ? 今朝もロバート様がセシルを仲間にして連れていきたいって話していたら、是非って喜んでいたし——」


 ロバートの名前を出した瞬間、セシルの顔から血の気が引いて蒼白に怯え始めた。


 おいおい、仮にも王都から来た皇太子様だ。そんな態度をとったことがバレたらマズいんじゃ?


「いや、嫌だ……、あの人達が出て行った後もあんな地獄が続くなんて絶対に嫌!」

「セシル、ちょっと落ち着けって。そんなに大声を出したら、暴言を吐いたってバレてしまうって」

「ねぇ、サキ! 今すぐにでも街を出よう? お願い、私と一緒に……ねぇ?」


 助けてやりたいのも山々だが、それはシナリオを大きくぶち壊しかねない選択だろう。


 これは俺の推測だが、金髪碧眼の変態王子はこの世界の勇者で、超絶美少女のセシルも重要人物の一人だと思われる。


 だからこれはイベントの一種なのだろう。きっとこの世界はハーレム系鬼畜エロゲーの世界に違いない。


 そんな重要なイベントをモブである俺が壊すわけにはいかない。重要な生態系を乱すのと大差ない過ちになりかねない。


 だって俺は、黒髪黒眼、ガタイのいい筋肉質な——NTR属性に萌えるマゾ野郎。


 きっと俺の立場はロバートと敵対する当て馬悪役ってところだろう。あまり目立ちすぎると惨殺されかねない立場に違いない。

 あ。今、ヒュンとなったわ。



 つまり、そう……俺も命は惜しい。


 どんな理由があって転生されたのかは知らないが、せっかくイケメンに生まれたのだ。それを大いに堪能してから死にたい。俺はまだ宝刀の試し切りすらしていないのだ。


 それに俺……セシルには申し訳ないが、金髪変態クソ野郎ロバートに抱かれている彼女を想像しただけで興奮を覚える。だから仲間愛人になって情事を続けるもの、俺としては有り——……



「セシル、こんなところで何をしているんだ?」


 凛と通る声が呼び止めた。

 威厳のある声色に、俺もセシルも体が硬直して動かさなかった。

 こうして目の当たりにするのは初めてだけど、やっぱり凄いね血筋のあるお方は。


 あんな変態行為をするお人には見えないわー。


「ろ、ロバート様……? なんでここに?」

「君の姿が見当たらなかったから探しに来たんだよ。さぁ、純潔の聖女セシル。魔王討伐の為に僕に力を貸してくれ」


 うわ、これが主人公補正か? ロバートの背後に後光が見える。眩しくて直視できやしない。


 それにしても、どの口が純潔って言ってるんだろうねー。毎晩毎晩、彼女のことを嬲るように痛めつけておきながら……。確かに貫通はしていなかったけど、それで守られるもんなの? 純潔ってさー。


 とはいえ、俺の背後に身を隠してガタガタ震える姿を見て、流石に良心が痛んだ。

 このまま差し出すのが正解なんだろうけど。むしろ渡さないと打首レベルで大変な事態になりかねないけど。



「あのー、ロバート様。一つ申し上げてもよろしいでしょうか?」

「何だ、貴様は。下民が一丁前な口を叩くでない」


 うわー、下民だって?

 聞きました、奥さん?この人、民を人間だと思っていないクズ野郎ですよー?


 ヤダねー、ヤダねー。俺ならこんな奴の下で生きたくないね。


「セシルは貴方と一緒にいたくないんだって。だから彼女のことは諦めてくれないかな?」


 だって変態行為を強要してくるクソ野郎だもんね? 嫌われても仕方ないよ。


 だが返事よりも先に大剣が大きく掲げられ、そのまま断つ勢いで振り下ろされた。


 おいおいおい、背後には愛しのセシルちゃんもいるっていうのに、コイツ……一ミリも躊躇いを見せなかった。


「皇太子である僕の申し出を、断るって言うのか?」


 おー、かなりご立腹状態。

 空気がピリピリしているのが分かる。思わず固唾を飲み込む。思うように息も出来ない。


 これが主人公か……やっぱ纏っているオーラが違うね。


「さ、サキ……! 私達、どうなるの?」


 うーん、それは俺が聞きたいけれど……なる様になるんじゃないかな?


 ただ、相手はこの世界の重役を担っている主人公様で、片や何者でもないモブだけど。


「ごめんね、セシル。俺は君が泣いている姿に興奮するようなクズ野郎だけど、やっぱいざとなると、守りたくなるのが男の性みたいだ」

「何……? サキが言ってる意味、全然分からないんだけど?」


 分からなくていいよ。できれば一生悟ってほしくないな、切実に。


 まぁ、そんなことよりこの緊迫した状況からどうやって逃げ出そうか?



 絶体絶命から始まる異世界転生——……。


 ねぇ、女神様、今からでも出てきてくれてもいいんだよ?



———……★


コンニチハ、中村青です。

1話から長々4800文字、お読み頂きありがとうございます! ちなみにこの話は以前公開していた小説のリメイク版です。

色んな属性のヒロインが虐げられるのを寝取り幸せにしていくお話——の予定です。


陰でコソコソ新作書いているので、お待ち頂く間にコチラをこっそり公開。


次回は6時45分公開予定です。

続きが気になる方はフォローをお願いします。


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