俺を振った幼馴染を痩せて復讐するためにイケメンになる。そして俺は、学校一の美少女幼馴染の秘密を知った。

新垣翔真

第1話 デブ、振られる

 どきどきする。春の放課後の告白なんて生まれて初めてだ。しかも、別クラスとはいえ学校一の美少女である幼馴染の宮本冬美に。高校生になったら告白しようと考えてはいたのだが、いざ実行するとなると恥ずかしいやら緊張するやらで額には汗が浮かんでいる。


 俺は、お世辞にもイケメンとは言えない。むしろ逆だ。顔自体は作りがいいと言われるが、身長百七十八センチメートルに体重百キロの、顔も脂肪でぱんぱんで膨れ上がってブサメンと言われる部類だ。だから、これは決死の告白。


 冬美はそんな俺を嫌わず中学まで隣同士の家から学校に通い、帰りも一緒だった。冬美が美人ということもあって、小学生から恋心を募らせていたのだ。冬美も同じ気持ちとは限らないが、手ひどく振られるということは……。


「ごめん、あなたと付き合うなんて考えられない」


 ざくっ、と言葉が心臓に突き刺さり、頭と手先が冷える。ここまではわかっていたことだ、あとは謝って元通りになれば……。


「だいいち、孝之とわたしとじゃ釣り合わないと思わない? 孝之はその……太ってるし、わたしは痩せてるし。もうちょっと考えてから告白して。それじゃ」


「ちょ、ちょっと待って……!」


 冬美は無表情で振り返らず行ってしまった。校舎裏から玄関がある表のほうに角を曲がっていくのを見て、俺は後から震えが襲ってきた。


 冬美がそんなことを思っていたなんて。じゃあ、今まで迷惑だと思って一緒に学校に行き帰りしていたということか? デブの俺に気を使って、小学生までは一緒に遊んでいたと? そんなの、あんまりだ。裏切りに等しい。


「……う……。ぐすっ、ひっぐ」


 どんな醜い顔をしているんだろう、俺は。脂肪がぐにゃぐにゃと曲がってそこを涙が伝っていくのがわかる。相撲取りみたいな図体で泣いて情けない。振られたよりも、それが勝ってきた。だから冬美もこんな俺が嫌いなんだろう。


 でも、と思う。


 冬美の言い方はあんまりじゃないか? いくら俺が醜いといっても、もっと言い方というものがあるだろう。ごめんなさいだけじゃだめだったのか? 俺をいたずらに傷つけて得をするものなんだろうか。そうは思えない。


 そう思うと、ふつふつと悲しみが怒りに変わってくる。逆恨みなのはわかっている。俺が冬美の隣に立つにふさわしくないのもわかる。それでも、一度つけられた心の傷はそう簡単には消えない。


 そうだ、復讐しよう。痩せてイケメンになって、女子からモテるようになれば冬美も考えを改めるはずだ。そのためなら俺は、なんだってやってやる。


 俺はスマホを取り出した。遠山高校に入学して一か月。友達と言える男がいる。影山友樹ゆうきといって、デブの俺を遠巻きにしないさっぱりとした少年だ。あいつなら力になってくれるはず。


「……あ、もしもし友樹? 頼みたいことがあるんだけど……」


 春をちょっと通りすぎて初夏に入りかけのこと。これが俺の運命を大きく変えることになろうとは、今の俺には考えもつかなかった。

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