無能は楽しく生きたい
@7576
無能の僕は周りを捨てて地味に楽しく生きる。
「無能君はどうだった? つってもそんなステータスじゃまともな職につけるわけねーよな! 神、いや世界に見放されてるゴミなんだよ! お前はよ!」
ぎゃはははとまるでゴブリンのように笑う男どもととそれを遠巻きでみるだけのクラスメイト達。
僕は中学3年生のどこにでもいる無能だ。
「うん、無職だったよ」
ドカッ!
「痛い!」
蹴られた。
「ばいばーい、さっさと荷物をまとめてかえるんでちゅね〜義務教育は終了でちゅよ〜高校は職のない奴は入れませ〜ん」
ぎゃはははとまたそんな風に嗤われた。
全くこんなことをされてももういまは何とも思わないよ。
ようやくここからこのクソみたいな世界で唯一の楽しみを味わえるんだから。
僕は荷物をまとめて学校を後にした。
名門で有名な中高一貫の国立学校だった。
名門といっても僕の場合は寮生活でそれはそれは悲惨な毎日だった。
それでも転生してこの世に生まれた僕は孤児だったから色々と現代日本で親のいない子供への支援というものを受けながら冒険者を目指すならこの学校は都合が良かったのだ。
勉強は流石に人生二週目ならなんとかなったから。
寮生活で国立で優秀な人材を育てるという前世にはなかったダンジョン冒険者というものの育成をメインにした学校。
その中でクラスにもつけないとなると高校にも行けないということになる。
学問の自由はどこにいった。
レベルアップのチャンスもないダンジョンに関係ない通信制の高校などなら入学の可能性はあるという程度なのだが、そこで生活するのはさらに惨めだ。
一生クラス持ちには敵わないだろう。
ダンジョンに潜らないなんてそもそも僕の夢に反する事だ。
僕の夢は成功者になる事だ。
成功といってもお金持ちとか最強とかじゃない、僕は小市民だから老後までお金に不自由せず楽しく自由に過ごせる事、これが僕の目指す成功だ。
二週目の人生で楽しくスローライフを過ごす。
その夢は今までかなり困難だった。
孤児で無能で学校でいじめられていたから、孤児をいじめから助けてくれる大人とは出会わなかった。
まぁここまで生きてこられただけでもありがたいことではあるから恨みはしないけど。
そんな現状だけれど悲観はしてない。
だって冒険者になる時がついにきたから。
義務教育終了の時点で僕への孤児としての支援は無くなり自分で稼ぐしかなくなった。
こんないじめが横行してさらには一貫校として僕みたいな無能を輩出しても学校として不名誉なことは何もない。
哀れな才能を持たなかったものが諦めきれずも挑戦を続ける、なんて美談にされて僕はこのまま底辺冒険者落ち、多くの無能がそこで亡くなってるデータもある。
それでも無能の数は少なくネットで騒がれるのは何年後だろうか。
現代日本と言ってもいまだSNSはなくガラケーの時代だった。
まぁ前世よりマシなのかな、命をかけて稼ぐ場所があるのだから、と思ったけれどどうだろう。その分今世では社会的弱者への扱いが酷い。前世の平成でもそうだったのだろうか。僕は前世ニートではあったがそう言った社会の闇は知らなかった。
それに社会の闇の一角がネットで話題になって叩かれるなんて時代にはまだ残念ながらなってないのだ。
この世界にはダンジョンがある。
そしてそれはつまり前世風に言えばステータスがあってクラス、スキルのシステムがある。
クラスは神からの祝福でありスキルは魂に刻まれる力と言われてる。
僕の2度目の人生には原子、素粒子、質量や重力といった物質の理と同じく、ダンジョンや魔法があるファンタジーな世界だった。
それに加えてファンタジーのくせに現代だった。
法律があって、ダンジョンに入るには厳正な登録が必要で、色々問題はあっても世界的に見たら優秀な法治国家として不正は許されない。
つまりチートは許されない。
普通転生したら異世界で中世風で貴族の息子とかに生まれて内政して成り上がりだろうと……いや、これは言いすぎた。
僕は転生者だ。
前世の記憶がある。
それも引きこもりニートでネット小説を読んでいて転生物には一家言ある厄介な奴だった。
僕は転生したとわかった時は、それはそれは小躍りした。あと自分を客観視できて子供ながらあまりのキモさにびっくりしたのは忘れたいし反省した。
確か小学3年生ぐらいのときのことだ。
これで勝ち組だと、前世知識で子供の頃から努力して成功を掴み取ると、そう決意していた。
そんなどこにでもいる普通のやつでどこにでもいる哀れな転生者だったのだ。
結果として僕は無能だった。
そもそも勝ち組とか負け組とか心底くだらないものに囚われていたのだ。
成功というものは人それぞれ異なっているんだから。
そしてこの世界にはいわゆる勝ち組と思えるものが浮かばなかったのだ。
何せダンジョンがあって魔物がいるのだ。
魔物との生存競争、それによってこの世界の社会は前世よりもかなしいかな酷いものだ。
僕にとって身近な例だとダンジョンに潜った中学生や高校生が年に2千人程度亡くなってる。
それでも世間の反応は病気や交通事故と同じような反応だ。
悲しみはするがそれが不幸なことだったと気にすることもなく当たり前だと思っている。
日常的にダンジョンがある世界だ。
前世と変わらずに第二次世界大戦とかもあったようなので魔物と闘い人類同士でも争ってることになる。
よく核戦争になってないものだと思ったよ。
人を散々殺すくせに滅びは避ける。
人間の狡いところなのかもしれない。
話を戻して、何が酷いかってまずこの世界の高校入学にはほとんど職が必要だ。
つまり剣士とか盗賊とか魔法使いとかのクラスシステム上の力が必要になる。
学力だけではなくスキルやステータスの力が必要とされる世の中なのだ。
クラスはステータスさえ満たせば好きなものを選択可能だがそのステータスは当然個人差があるものだ。
レベルアップでステータスポイントを割り振れるものなのだが、現代社会の法的なもので義務教育中の子供は無断でダンジョンには入れないことになっていて、レベルアップする機会は授業で魔物を倒す数回だけとなる。
なんたる理不尽か。
お分かりかな。
無能な僕は数回のレベルアップではクラスを選択できるほどのステータスにならずここにいる。
ゲームでお馴染みの雑魚の魔物を倒してのレベリングは危険だからと許されなかった。
それに前世の感覚的には無職だろうがスキル習得はできるしクラスに縛られない方が自由に自分のスキルを選べて楽しいと思うのだが……まぁこの感覚が異常なのはもうわかっている。
クラスメイト、学校の先生、誰にも理解されなかった。
初期でクラスを持てないものは圧倒的に弱者、無能という扱いである。
今世のクラスはただ得意不得意を与えるシステムといえる。
剣士なら剣の扱いが上手くなって習得可能なスキルが剣士っぽい感じになるらしい。
代わりに魔法使いや盗賊など他クラスの覚えられるようなものが覚えられなくなるんだとか。
みんながみんなそういうクラスについているため、仕事勉強全てにおいてクラス本位の社会のようで、それはそれは僕から見ると酷いものだ。
無職だとそういうボーナスを受けられないから弱いとされている。
デメリットも受けない点はなにも評価されてない。
まぁクラスについて特化させたら強いのはわかるが世の中上には上がいて別に一流を目指してるわけでもないのにみんながみんなクラス固定ってどうなんだと思うのだが。
同レベルで見比べた時にもクラスありの方が強いなら現代社会においてはほとんど強制しなければならなかったのだろう……多分そうしなければ第二次世界大戦や魔物との戦いで国が滅んでいたのだろう。
今だって他国では戦争してる国や事実上の侵略も普通にあるわけで平和な日本といえど国力を上げないと行けないわけだ。
それで本当に国力が上がってるのかは僕は信じられないけどね。
この世界ではクラスを持っているものが優遇されそれによって発展してきた世界なのだ。
技術的には前世の平成の終わり頃。
そろそろスマホが出てきそうな時代。
そう言う大雑把な技術や学校の見た目は同じでもその核となる社会が異なっていた。
そういうわけでクラスに付かず好き勝手なんて事は許されない、そもそも無能は異常な事らしい。
大人からも冒険者の道は諦めろと言われた。
だから結局僕は異世界からの転生者ということなのだろう。
僕みたいなクラスにつけない人間はダンジョン冒険者として低級ダンジョン潜るか、冒険者をやめるならばどこか安月給で働くしかない。
クラスについてスキルを持った人達の仕事量に無能は勝てないから……。
ただそうすると、冒険者を諦めたらダンジョンという経験値稼ぎとスキル習得機会も無くなってなおさらクラスを持った人間に敵わなくなるのだが……。
そんな異世界人、あるいは少数の弱者の僕からしたらこの世界での勝ち組がそんなにいいものだとは思えなかった。
クラスやスキルに縛られ、人をそれらによって差別することが当たり前の世界。
そこでたとえば成功者になって大金持ちとかハーレムを築いたとするがそんなものに寄ってくる女や金銭には興味はない。
一度僕死んでるし……また死ぬことへの恐怖はそこまでないのもあるだろう。
悪いことをして死ぬ方が怖くなった。
前世での恥ずかしい記憶は僕に一生恥ずかしい気持ちにさせるし後悔だって当然ある。
また新しい後悔はしたくなかった。
失敗してもいい、それが恥ずかしい後悔にならないように生きていきたいのだ。
僕も転生に気づいてすぐは強くなって勝ち組になろうと思っていたが結局転生特典もなにもなく無能であり、その力はなかったからこそこのことに気付かされた。
これは決して僕に現状、力がないことからのルサンチマン的な感情のすり替えではない。
そもそもスキルやクラスはよくわからないシステムで与えられたもののようにも思う。
言ってしまえばダンジョンに潜って命を賭けて魔物を倒しさえすれば誰でも手に入る力だ。
僕のいた前世にはなかったものだからこそそう思うのだけれども、そんなものの力で優劣がつくこの異世界。
そこでの勝ち組になんの意味があるのだろうか。それは楽しいものではない……宝くじに当たったように強力なスキルを手にして権力者になるなんて話は今世でもあるが、現実はすぐに食い物にされているのがいい例だ……。
ようは何が言いたいかと言うと、宝くじに当たる程度のものなら僕も嬉しい。
お金だったらいくらでも欲しいよ……でも力や金銭のために前世のモラルまでは捨てたくないって話なのかな。
もっと簡潔に言えば僕は小市民が良い。
どう言えば伝わるのかは僕自身わからない。
なにせ今世においては僕のこの気持ちへの共感者はいまのところゼロだ。
今後も期待はしていない。
けれど僕はそう思うのだ。
まぁ力がないからこそ気づけたものだろう。
そして僕を蹴り飛ばし嗤っていたクラスメイト達は気づかず囚われている者たちだった。
冒険者育成を主としつつも優秀な人材を育てることを目的として設立されたという有名な国立の中高一貫校、そこで冒険者としてあるいは社会に出てクラスやスキルで成功を目指している者たち。
彼らはいずれ一流と呼ばれる冒険者や官僚、大手企業の会社員となるだろう。
そんな一流とされている中高一貫校でこれならば、なおさら僕はこの世界で勝ち組を目指す意味を失った。
このファンタジー世界に生まれ直したならせっかくなら強くなることではなく生きてて楽しいと思えるスキルやクラスになりたいとそう思うようになったのだ。
残念ながら今のところ無職ではあるが、別に不貞腐れることはないだろう。
無職でもファンタジーの代名詞、魔法は覚えられる。
クラスによる恩恵はなくても別にデメリットもないのだ。
スキル習得を好きにできるのだ。
いくつかのスキルはもう習得しているし、これから目当てのものをさらに習得していくつもりだ。
今世では魔法が使えるようになるのだ。
魔法は使えるようになりたいじゃないか。
この世界には魔術、超能力、神術と大きく分けて三体系の魔法に分類されるものがある。
最高のファンタジー要素だ。
異界から生物を召喚したり空を飛んだり目からビームを出したり手からは炎を出したりすることができるのだ。
クソみたいなこんな学校という世界、クソみたいな奴らとはようやくこれで縁が切れる。
義務教育を終えれば冒険者としてダンジョンに潜ることができるのだ。
中卒底辺冒険者として僕はこの現代ファンタジーの異世界を生き始めるのだった。
たださ、僕を無能にした神様ってやつだけは絶対許さないから、なんとかして復讐ってやつをしてやりたいよな。
少しは強くなって無職広めちゃおうかな。
なんてね。
ステータス
Lv 3
クラス なし
能力補正値
筋力 1
敏捷 1
耐久 1
精神力 5(+1)
魔力 1(+1)
神力 1(+1)
EXスキル(下界人は閲覧不可)
ー『神性からの観測』(転生刑執行)ー
能力補正値-90%
スキル
『体操』 体を操る
『状態異常耐性』 状態異常に耐性を持つ。
『精神力強化』 精神への能力補正
クラス習得必要ステータス例
剣士 筋力8 敏捷5 耐久8
盗賊 敏捷12
魔法使い 魔力10
神術使い 精神力10 神力18
超能力使い 精神力 18
無能は楽しく生きたい @7576
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます