第11話 トラウマ
翌日、オフィスに向かう幸也の足取りは重かった。山田課長の叱責、前澤健太との再会、そして過去のトラウマが彼を苦しめ続けていた。仕事でもミスが続き、山田課長の怒りを買うことが増えていた。
「高橋、これは一体何だ!こんなミスをするなんて、何度も言っているだろう!」山田課長の怒声がオフィスに響き渡った。
幸也は下を向きながら、「すみません…次は気をつけます…」と小さく答えたが、その言葉には自信がなかった。
その日の午後、幸也は再びミスを犯してしまった。山田課長がすぐに幸也のデスクにやってきて、怒りを露わにした。
「高橋、またか!いい加減にしてくれ!」山田課長の言葉に、幸也の心は再び押しつぶされそうになった。
会議室でのミーティングが終わった後、幸也は一人でデスクに座り込み、涙をこらえていた。その時、菜々子が再び声をかけてきた。
「高橋君、少し話さない?」菜々子の言葉に、幸也はうなずいた。
二人は休憩室に行き、コーヒーを飲みながら話を始めた。「高橋君、何かあったんじゃないの?顔色が悪いし、最近元気がないように見えるよ。」
「実は…昨日、昔の知り合いに会ったんだ。彼とはあまりいい思い出がなくて…」幸也は話を始めた。
「そうだったんだ…辛いことがあったんだね。でも、高橋君はここで頑張ってる。それだけでもすごいことだよ。」菜々子は優しく言った。
「ありがとう、小向さん。でも、どうしても過去のことが頭から離れなくて…」幸也は心の内を打ち明けた。
「過去は変えられないけど、未来は変えられるよ。私たちがいるから、一人で抱えこまないで。もし困ったことがあったら、私たちに話してほしい。」菜々子は優しい笑顔で言った。
「ありがとう、小向さん。本当に感謝してる。」幸也は少しだけ心が軽くなった気がした。
それから数日が過ぎ、幸也は仕事に戻っていたが、過去のトラウマが頭をよぎるたびに集中力が途切れがちだった。山田課長の叱責は続き、そのプレッシャーに押しつぶされそうになることも多かった。
ある日の午後、幸也はまたミスを犯してしまい、山田課長の怒りを買った。「高橋、君のミスはもう限界だ。これ以上続くなら、プロジェクトから外すことも考えなければならない。」
幸也は頭を下げながら、「申し訳ありません、次は絶対に気をつけます…」と答えたが、その言葉には自信がなかった。
その日の帰り道、幸也は再び駅で健太と再会した。健太は幸也の顔を見て、少し驚いた様子だった。
「またお前か。どうした、そんな顔して。」健太は冷たい言葉をかけたが、その目には一瞬の優しさが宿っていた。
「俺、今の仕事でうまくいってないんだ。ミスばかりで、上司にも怒られてばかりだし…」幸也は正直に話した。
「そうか…まあ、俺も昔は色々あったからな。」健太は少し黙ってから続けた。「施設にいた時、お前に暴力を振るったこと、ずっと後悔してるんだ。あの時は、自分の苛立ちや不安をお前にぶつけることで、自分を守ってたんだと思う。」
「健太…」幸也は驚いた表情で彼を見つめた。
「俺はあの頃、自分の感情をどう処理していいか分からなかった。でも、お前にそんなことをして、後悔してるんだ。」健太は続けた。「だから、お前が今、辛いことがあるなら話してくれ。少しでも力になりたい。」
幸也はその言葉に胸を打たれ、涙がこぼれ落ちた。「ありがとう、健太。お前がそう言ってくれるだけで、救われた気がするよ。」
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