第10話 前澤健太
プロジェクトの進行が佳境に差し掛かり、幸也は連日のプレッシャーに押し潰されそうになりながらも何とか耐えていた。だが、ある日、大きなミスを犯してしまう。
その日の朝、幸也は部品の発注を担当していた。プロジェクトの進行には欠かせない重要な部品だったが、幸也は急ぎすぎて注文内容を確認せずに送信してしまった。数時間後、部品が届くと、全く違う仕様のものが届いていた。
「これじゃ使えないじゃないか!」現場監督が怒り狂った声を上げた。
「す、すみません…」幸也は顔を青ざめながら謝罪したが、その場ではどうしようもなかった。
その日の午後、山田課長が幸也のデスクにやってきた。彼の鋭い目つきが幸也を捉え、冷たい声で言った。「高橋、君はこのプロジェクトの重要性を理解しているのか?これ以上のミスは許されない。」
「すみません…本当に申し訳ありません…」幸也は何度も頭を下げたが、その言葉には力がなかった。
幸也は自分の失敗に打ちひしがれ、オフィスの片隅で一人で泣きそうになっていた。頭の中には過去の失敗やトラウマが浮かび上がり、心の中で自己否定が繰り返される。
その日の夜、幸也は仕事を終え、重い足取りで帰路についた。自分の無力さに打ちのめされ、心の中には暗闇が広がっていた。そんな中、駅のホームで誰かに呼び止められた。
「高橋…だよな?」振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。前澤健太だった。
「お前…健太…?」幸也は一瞬言葉を失った。
「久しぶりだな。元気そうじゃないか。」健太は冷たい笑みを浮かべていた。
「どうして、ここに…」幸也は困惑しながら答えた。
「偶然だよ。仕事の帰りに寄っただけさ。」健太は軽く肩をすくめた。
「お前…俺に何の用だ?」幸也は心臓が早鐘のように鳴るのを感じた。
「別に。たまたま見かけただけだ。昔のことは気にするな。」健太の言葉には、昔の冷酷さが滲んでいた。
「俺は…お前に会いたくなかった。」幸也はつい口をついて出た言葉に自分でも驚いた。
「そりゃそうだろうな。でも、俺はもう昔のお前を知らない。俺だって変わったんだ。」健太はそう言って去って行った。
その夜、幸也は家に帰ってからも健太との再会を考え続けた。過去のトラウマが再び頭をもたげ、心の奥底に眠っていた恐怖と不安が甦ってきた。どうして自分はこんなにも弱いのか、どうしてあの頃から変わることができないのか。幸也は自問自答を繰り返した。
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