第4話 小向菜々子

ある日、研修の休憩時間に幸也は廊下で一人の女性と出会った。彼女はにこやかに微笑みながら話しかけてきた。


「こんにちは、新入社員の小向菜々子です。よろしくお願いします!」


菜々子は明るく、気さくな性格で、誰にでも親身になって話しかけてくれるタイプだった。どこか幼馴染の美香に似ているが、美香とは違い、社交的で人懐っこい雰囲気があった。菜々子の外見は柔らかな茶色の髪に明るい瞳、そしていつも笑顔を絶やさない優しい顔立ちだった。


「えっと、こんにちは。僕は高橋幸也、よろしくお願いします。」幸也は少し緊張しながらも、彼女の明るさに少し救われた気がした。


「初めての仕事って緊張するよね。でも、大丈夫だよ。みんな最初はそうだから。何か困ったことがあったら、いつでも言ってね。」菜々子はそう言ってにこやかに笑った。


その言葉に、幸也は少しずつ心を開いていくことができた。菜々子の明るく前向きな性格は、幸也にとって新鮮だった。自分に持っていないものを持っている彼女に憧れを感じるようになった。


「菜々子さんは、どうしてこの会社に入ろうと思ったの?」幸也は勇気を出して質問してみた。


「私、家が近いし、この会社の製品が昔から好きだったんだ。それに、製造業ってものづくりの基本だし、やりがいがあると思ってね。」菜々子は笑顔で答えた。


「そうなんだ…すごいなぁ。」幸也は感心しながらも、自分がここでやっていけるのか、ますます不安になった。


その日の午後、再び研修が始まったが、幸也の頭の中には菜々子の言葉が響いていた。彼女の明るさや前向きな姿勢に触れ、自分も少しずつ変わっていけるのではないかという希望が芽生えた。


しかし、現実は厳しかった。研修が進むにつれ、仕事の内容はますます難しくなり、幸也は新たな知識を吸収しなければならなかった。特に、製造業における品質管理の手法についての講義は、幸也にとって大きな挑戦だった。


「これが私たちの会社の品質管理の基本です。しっかり覚えてくださいね。」講師の言葉に、幸也は必死にノートを取りながらも、頭がパンクしそうだった。


研修の終わりが近づくと、最後に上司の山田課長が登場した。山田課長は中肉中背で、鋭い目つきを持ち、常に厳格な印象を与える人物だった。性格は真面目で責任感が強く、仕事に対しては徹底的にこだわりを持つタイプである。幸也はその威圧感に圧倒され、緊張が走った。


「皆さん、今日から私が直接指導します。これからは実際の業務に取り組んでもらいますが、覚悟して臨んでください。」山田課長は鋭い目で新入社員たちを見渡し、続けた。「特に、品質管理のプロジェクトに参加するメンバーは責任感を持って取り組んでください。」


幸也はその言葉にますます不安を感じた。自分が本当にこの環境でやっていけるのか、プロジェクトに参加して貢献できるのか、心配で夜も眠れない日が続いた。


「山田課長って怖いよね。でも、彼の指導は的確だから、頑張ってついていこうね。」菜々子はそう言って励ましてくれた。


「うん、ありがとう。でも、本当にできるかな…。」幸也は不安な気持ちを隠しきれなかった。


新たな挑戦が始まり、幸也は自分の成長と向き合う日々が続く。しかし、彼にはまだ乗り越えなければならない課題が山積みだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る