第11話 魔力異常の洞窟・10 異常


 カオルは右手に縄を巻き、左手に松明を持ち、さっと穴に跳び込んだ。

 とん、と壁に足を着いて、ひょいと松明を投げ落として下を見る。

 明かりが下へ落ちて・・・


「ん?」


 くい、と松明が横に逸れ、穴の真ん中辺りへ飛んで行ったかと思うと、ぱっと火が消えてしまった。


(これは?)


 松明の明かりは、闇の中で真っ直ぐ落ちて行ったのに、急に真横に曲がってしまった。何かいるわけではなさそうだし、ぶつかった音もしなかった。


 松明が横に飛ぶような強い風が吹いているなら、風の音もするはずだが、それもない。これは一体?

 カオルは縄にぶら下がったまま、少し考えて、ひょいと穴を登って行った。



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 穴を飛び出ると、向こうからアルマダ達が歩いて来ている。

 カオルはゆっくり歩いて、マサヒデ達の所へ戻った。


「どうでした」


 マサヒデ達がカオルに顔を向ける。


「良く分かりません。起こった事を申し上げます。

 落ちた松明が急に横に飛んで行って、穴の真ん中辺りまで飛び、消えました」


「横に飛んだ?」


「はい」


「そして、真ん中辺りで消えた?」


「はい」


「ふむ? 風でも吹いていたんですか?」


「いえ、そのような強い風が吹いているなら、大きな音がするかと」


 マサヒデは頷いて、


「ああ、そうでしょうね。ここまで聞こえるでしょう。

 という事は、風の魔術の塊のようなもの、では、ないですよね」


 と、マサヒデがラディに顔を向ける。

 ラディは頷いて、


「ここに充満しているのは、金の魔力です」


「ですよね。クレールさんも同じ事を言っていました」


「という事は、風ではない、ですか」


 ラディが首を傾げる。


「私は魔力異常の洞窟に初めて来るので分かりませんが」


 シズクも首を傾げながら、


「ねえ、カオル。火が消えちゃったんだよね?」


「はい」


「もしかして、私が投げ込んだ石も消えたのかな?

 火が消えたみたいに」


「石が? まさか」


 ふ、とマサヒデとカオルは小さく笑ったが、ラディは顎に手を当てる。


「かも」


 ぽつりとラディが小さな声で呟いた。

 マサヒデはラディの顔を見上げ、


「そんなのあるんですか?」


「金の魔術は、何と言いますか・・・変な動きの物が多いですから」


「ふむ?」


 マサヒデが首を傾げる。

 そんな魔術はあるのだろうか?


「ラディさんは、心当たりはないですか?」


「いえ・・・私は治癒以外は疎くて」


 アルマダの騎士にも魔術を使える者がいるから、聞いた方が良いかも知れない。

 マサヒデも穴に跳び込んで、自分の目で見た方が良いだろうか?

 そうこう考えていると、アルマダ達がやってきた。


「どうですか。あの穴は」


 松明を持って穴に飛び込んだカオルが見えていたのだろう。


「アルマダさん。あの穴、ちょっと良く分からない事がありましてね」


「と、言いますと」


「先程、カオルさんが飛び込んだのは見えていましたよね」


「はい。松明の火で」


 と、アルマダ達が頷く。


「底がどのくらいか、カオルさんが下に松明を投げ込んだんです。

 そうしたら、松明が急に横に動いて、真ん中辺りで消えてしまったそうで」


「風ではないですよね。音がしません」


「ええ。水脈に落ちたなら、ぱっと消えて、横に曲がっていくのは見えないはず」


「ふむ・・・」


 アルマダは後ろの騎士達に振り向いて、


「風ではない。水でもない。ここにあるのは、金の魔力でしたよね。

 誰か、そんな魔術の心当たりはありますか?」


「いえ」「分かりません」「ありません」


 騎士達が首を横に振る。


「ううむ、皆さんも分かりませんか。

 マサヒデさん、外にいるクレール様に聞いた方が良いかもしれませんね。

 しかし、一度確かめてみましょうか」


「確かめる、と言いますと?」


 アルマダは穴の方を向いて、


「真ん中辺り、と言っても、この穴、かなり広いです。

 皆で離れて並んで、松明を投げ込んでみましょうか。

 そうすれば、どこで消えるのか、はっきり分るでしょう」


「なるほど」


「穴の縁まで行くと危ないですし、少し離れて、カオルさんに見てもらいますか」


 アルマダがカオルの方を向くと、カオルがこくん、と頷いた。

 アルマダも頷いて、


「では、皆さん、穴の方へ行きましょう。

 足元に気を付けて、離れて並んで」


 皆で穴の近くまで歩いて行き、3間ほど離れて並ぶ。

 カオルが縄を腕に巻き、ひょいと飛び込む。


 マサヒデは松明に火を付けて、左右を確認する。

 皆が火の着いた松明を持っている。

 アルマダが頷くのが見えた。


「カオルさーん! 投げますよー!」


「はーい!」


「では、皆さん、1、2の、3で投げますよ!

 1、2、3!」


 ひょいひょい、と皆の松明が投げ込まれる。

 少しして、


「ああーっ!」


 と、穴の中からカオルの声が聞こえた。


「どうしました!?」


 ぱ! とカオルが駆け上がって来て、マサヒデの前に走って来た。


「ご主人様! この穴、おかしいですよ!」


 皆がぞろぞろと集まってくる。


「カオルさん、落ち着いて。何があったんです」


「あの、松明が落ちて行きました。投げ込まれた松明です」


「ええ」


「そうしたら、松明が全部真ん中に集まって、消えました!」


「真ん中に集まった?」


「はい! こうやって、全部の、離れて落ちた松明が集まって!」


 と、カオルが右手と左手の指先を合わせる。


「なにそれ?」


「はて?」


 と、シズクが眉を寄せる。

 アルマダも首を傾げる。

 魔術を使える騎士とラディは顔を見合わせている。

 マサヒデも腕を組んで、ううむ、と少し唸って、


「何かこう、引っ張る魔力の塊のような物が出来ているんでしょうか?

 皆さんは分かりますか?」


 と、魔術を使う面々に聞いてみるが、やはり首を横に振る。


「マサヒデさん。我々では、ここで唸っていても、さっぱり分かりません。

 そろそろ戻って、待っているクレールさんに聞いてみましょう。

 外も日が沈みかかっているのでは?」


 マサヒデは頷いて、


「む、そうですね。クレールさんに聞いてみましょうか。

 ふう、洞窟の中にいると、時間が良く分からなくなりますね」


 と、ぐるりと周りを見渡す。

 薄明るいが、ずっと同じ明るさだから、時間が良く分からなくなる。


「あーあ、私も見てみたいなあ」


 少し拗ねたような顔のシズクを見て、ふ、とマサヒデは笑い、


「シズクさんじゃあ、縄が持たないですからね。

 穴を覗こうとして、足元が崩れたりして、うっかり落ちたりしたら大変ですし」


「分かってるよお」


「じゃあ皆さん、戻りましょうか」

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