第4話 魔力異常の洞窟・3 休憩所


 一行は洞窟の前に着いた。


 入り口は大きいが、すぐ小さくなっているのが見える。

 小さくなっていると言っても、立って歩くには十分過ぎる高さに見える。

 この高さで、奥まで続いているのだろうか?

 腰を屈めて歩くのは大変だ。


 南向きで日が当たっているおかげか、話に聞いていたような光は分からない。

 入り口の前は魔力の噴出で吹き飛んだのか、周りは土と石だらけで、植物がない。

 だが、少し向こうは木が鬱蒼と生えている。


「やあ、これは酷い有様ですね」


 がらり、とシズクが抱えていた棒と枝を下ろす。


「草1本も生えてないね。全部、吹っ飛んじゃったんだ。

 爆発したばっかの時は、こうなんだね・・・」


 アルマダも周りを見渡して、溜め息をつく。


「ふう。これが魔力異常の洞窟ですか。

 ここは、とても美しいとは言えない有様ですけど」


 クレールがぷんぷんしながら、


「中に入れば美しいんです! 本当ですよ!」


「これは失礼しました。疑っているわけではないのですよ。ここは、です。

 ただ、爆発したすぐ後の入り口は、こんな状況なのかと驚いただけです」


「むーん・・・」


 マサヒデは2人の顔を見て、くす、と笑い、


「じゃ、シズクさん、カオルさん、さっさと作っちゃいましょうか」


「は」「はーい」


 周りを見渡して、少しましな所に歩いて行き、座って地面にバツ印を書いていく。

 カオルを見上げて、


「カオルさん、柱はこのくらいで良いでしょうかね。

 あと、上で横に結んで、板を乗っけてしまえば」


「宜しいかと」


 マサヒデは頷いて、


「じゃあ、シズクさん、この印の所に棒を突き刺して下さい。

 あまり深く挿し込まないで下さいよ」


「分かってるって・・・はいよっ!」


 どすん!


「はいっ!」


 どすん、どすん、と印の位置に棒が挿される。

 棒を握ってぐいぐいと動かしてみるが、しっかり突き刺さって問題ない。


「うん、流石です。しっかりしてますね」


「ふふーん」


「じゃ、後は棒を横に結んで、板を乗っけるだけですね。

 アルマダさん、シズクさん、頼みますよ」


「え、私ですか?」


「何を驚いてるんです。アルマダさんが一番背が高いんですから。

 シズクさんも、アルマダさんと同じくらいだし」


「背は」


 言いかけて、アルマダがぴたりと口を閉じた。

 ラディの方が高いが・・・


「お任せ下さい」


 と、棒を受け取って、上に横で結んでいく。

 ちょいちょいと結んで、数分の作業だ。


「よいしょっ」


 かたん、かたん、と結んだ棒の上に、シズクが板を並べていく。

 簡単なものだ。


「こんなもんかな? 棒の余りあるし、斜めに入れておく?」


「別に良いんじゃないですか? ここに住むわけでもありませんし。

 余った板と棒は、南側に適当に立て掛けて置きましょう。

 日が差して暑いですから」


「そうだね」


 かたん、かたん、と板と棒を立て掛け、拠点が出来上がる。


「よし、出来上がりですね。

 じゃあ、騎士さん達が来る前に、薪でも拾っておきますか。

 すぐにマツさんが連れてくるでしょう」


「そだね。すぐ向こうは何ともないし」


 カオルも頷いて、


「居ないと思いますが、何か動物でも居りましたら、狩っておきましょう」


「じゃ、ラディさんとクレールさんはここで待ってて下さい。

 4人ですから、すぐ集まりますので」


 そう言って、マサヒデ達は後ろの森の方へ入って行った。

 クレールとラディは屋根の下に入って、ちょこんと座る。


 ラディはローブを脱いで地面に広げ、カオルのモトカネを置く。

 肩に掛けた銃を下ろし、横に置いた。


「・・・」


 じっと腕を組んで、鋭い目でモトカネを見つめる。

 ラディの様子を見て、クレールが小さく笑い、


「くす。ラディさん、見たいんですね?」


「はい」


「これ、小太刀じゃないですよね?

 カオルさんがいつも持ってるのより、少し長いです」


「はい」


「カオルさんは小太刀を使うのに、なんでこれを選んだんでしょう?」


「持ってみて分かりました。軽いのです」


「ああ、それでこれを選んだんですね。

 でも、長いと抜きづらいんじゃないですかね?

 短くしちゃうんでしょうか」


 ラディはじっとモトカネを見て、


「・・・それはないかと」


「どうしてそう思うのです?」


「カオルさんでも抜けるのでしょう」


「抜けるから、これを選んだって思うんですか?」


「おそらく」


「ふうん・・・」


 ちら、とクレールが森の方を見て、ラディの横にぴたりと身を寄せる。

 にやにやしながら、口に手を当てて、


「ちょっとだけ、見てみませんか?」


「・・・」


「私も見たいんです。刀って、綺麗ですもん」


「後にします」


「ちょっとだけですから」


「駄目です」


「ラディさんも見たいですよね? ね?」


 ぐっと目を閉じて、上を向き、やっと絞り出した、という感じで、


「・・・後で、見ます」


「じゃ、私だけ見ちゃいます。ラディさんは目を閉じてて下さいね」


「駄目です!」


 手を延ばしたクレールから守るように「ば!」とモトカネを奪い、抱きかかえる。


「うわあ!」


 ラディの大声に驚いたクレールが、背を仰け反らせた。

 は、とラディがクレールと自分の声に驚いて、


「あ・・・申し訳ありません」


「・・・きゅ、急に大声を出さないで下さい・・・」


「し、失礼しました。大きな刃物ですから・・・

 それに、目に見えないような小さな汚れでも、刀は簡単に錆びや瑕が出来ます。

 ちゃんと扱いを知りませんと・・・」


 言いながら、言い訳じみている、と思い、ラディはしゅんとしてしまった。

 肩を落としたラディを見て、クレールは何か申し訳ない気持ちになってしまい、


「あの、ラディさん、ごめんなさい・・・」


「いえ、大声を出した私が悪いのです」


 それきり、2人は黙りこくってしまった。

 しばらくして、ラディがモトカネをローブの上に下ろし、くるくると巻いた。

 腰のベルトから、弾薬のポーチを外して八十三式の横に置く。

 ポーチを外したラディを見て、


「あれ? 銃は持って行かないんですか?」


「はい」


 クレールがにやにや笑いながら、からかうように、


「もしかしたら、魔獣か何か居たりしてー」


「もし何か居たとしても、狭い場所で銃を撃つのは危ないです。

 銃弾が跳ね返って、マサヒデさん達に当たってしまったら大変です」


 あ、とクレールの顔から、にやにやした笑いが消えた。

 真剣な顔になって、八十三式を見つめる。


「それは怖いですね・・・銃って、鎧も貫いちゃいますもんね。

 跳ね返って、自分や仲間に当たっちゃったりしたら大変ですね」


 ラディは頷いて、


「それに、音もあります」


 何故、とクレールが顔を上げる。


「音? ぱあん! ていう、あの銃の大きな音ですか?」


「はい」


 ぱん、とクレールが小さな手を叩き、


「あ、分かりました。洞窟の中って音が響いちゃうから、耳がやられちゃう?」


「その通りです。もうひとつ、出来たばかりの洞窟でそんな大きな音を立てたら」


「まさか、崩落したりとか・・・」


 こくん、とラディが頷き、


「そうです。なので、中に銃は持って行きません。

 代わりに、今日は薬やら包帯やらをこちらのポーチへ入れて来ました」


「では、マサヒデ様とカオルさんも、銃は置いて行ってもらった方が良いですね。

 万が一ですけど、何か居て、うっかり抜いてしまったら」


 ラディはこくんと頷いて、


「大変な事になるかもしれません」


「魔術が使えない場所だと、銃は強いと思ってましたけど・・・」


「場所次第ですね。ここでは使えないです」


 ラディとクレールは、ぽっかりと開いた洞窟の大きな入り口を見つめた。

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