第19話 観光のお誘い


 工房を出て、アルマダ達の所へ歩く。


 魔力異常の鉱石から打つと、どんな魔術を帯びた物になるのか分からない。

 鉱石の質か、形か、作り手か、打ち方か。一切が不明。


 では、鉄が出なくても、金銀が出た場合。

 宝飾品にしたならどうだろう?

 宝石ならどうなるだろう?

 杖の先に着けたら、恐ろしい杖になるだろうか?

 持ち手の部分の装飾に使えば、どうなるのだろうか?

 女性陣の宝飾品にしたら?


 刀でも、鎺(はばき)などに使えばどうなるだろう。

 目貫に使ったらどうなるだろう。

 柄頭や、鍔(つば)を作るのに使えばどうなるだろう。


 謎だらけだ。



----------



 町の門を出て、少し歩くと、すぐあばら家が見えてくる。

 周りに騎士達が馬を引いて出している。

 餌を食べさせているのか・・・


(む?)


 と、マサヒデが足を止めた。


 あれは、先日、アルマダと捕まえてきた馬だろう。

 どれも体格が大きく、逞しい。


 見ていると、手前の栗毛の馬が顔を上げ、こちらを向いた。

 次いで、他の馬も顔を上げ、騎士達も顔を上げ、マサヒデに向かって手を振った。


 馬を驚かせないよう、手前のサクマにゆっくり近付いて行き、


「おはようございます」


「や、マサヒデ殿、おはようございます!」


 マサヒデは馬を見上げて、


「先日、アルマダさんと捕まえてきた馬ですね?」


「そうです。皆、穏やかな性格でして。

 大人しく言う事も聞いてくれます。

 やはり図体が大きな分、余裕という物があるのでしょうな」


 少し警戒しているのか、草を喰むのをやめて、マサヒデをじっと見ている。

 ゆっくり近付いて、首を撫でてやる。

 撫でてやると、落ち着いたのか、すぐに草を喰みだした。

 他の騎士たちも、ゆっくり馬を引いてマサヒデの所に集まってくる。


「ううむ・・・やはり、度胸があるのですね。

 すぐ隣に見知らぬ者が来て、撫でているというのに、余裕があります」


「ええ。皆そうですよ」


 と、サクマが皆の馬を見回す。

 皆、大人しい馬ばかり。

 マサヒデ達の、黒嵐、白百合、黒影、皆が大人しい。

 黒嵐は、クレールが言うには怖かったそうだが。


「ふふ。そう言えば、私達の馬も、皆が大人しいですよね。

 アルマダさんのファルコンだけが、ひねくれ者なんですね」


「ははは!」


「そうそう。今日は、皆さんに良い所へのお誘いがあるのです」


「ほう? 良い所へのお誘いですか」


「ええ。きっと楽しめますよ。

 アルマダさんも誘いたいので、中でお話しましょうか」


 マサヒデの後に続き、皆が馬を引いて入ってくる。

 アルマダが素振りをしているが、


(おや?)


 と、マサヒデは小さく首を傾げた。

 騎士達の馬がいない。

 さすがに数が多いだろうし、売ってしまったのだろうか?


「おはようございます!」


 と、声を掛けると、アルマダが素振りを止め、こちらを振り向いた。

 は! とマサヒデの顔が締まる。


 ただの素振りをしていたのではない。

 アルマダの目が違う。

 間違いない。アルマダは、はっきりと掴んだのだ。

 自分の本性を引きずり出し、乗りこなそうとしている。


「やあ、マサヒデさん、早いですね」


 に、とマサヒデは笑い、


「おはようございます。

 アルマダさん、本日は観光名所へ行きませんか」


 後ろの騎士達の方を振り向き、


「皆さんも一緒に。どうです」


「は?」「観光名所?」


 皆が訝しげな目を向ける。

 マサヒデはにこにこしながら、


「まあまあ、細かい所はこれから話します。

 皆さん、きっと興味が沸きます。行きたくなりますよ」


 と、マサヒデが焚き火の跡に近付いていくと、


「あ、マサヒデさん、もう中に入っても平気ですよ。

 床は皆で直しましたから、大丈夫です」


 と、アルマダが手拭いで汗を拭きながら、あばら家の縁側から中へ上がって行く。


「おお、そうですか」


「折角屋根があるのですからね。

 床が抜けないか、冷や冷やしながら寝るのもなんですから。

 畳はボロですが、ちゃんと床板は変えてありますので」


 マサヒデも付いて上がって行くと、部屋の隅に寝袋が丸めてある。

 少しして、リーが湯呑に水を入れて持ってきて、皆の前に並べた。


「で、マサヒデさん、観光とは?

 この辺に観光するような名所なんてありましたか?」


 にやり、とマサヒデが笑い、


「ところで、先日の地震、覚えていますよね」


「ええ。かなり大きく揺れましたね。

 ははは! クレールさんが飛んで来て、慌てて無事かって」


「あれ、ただの地震ではなかったんです」


「ただの地震ではない? と、言いますと」


 マサヒデは湯呑を取って、水を飲む。


「地下から、溜まった魔力が噴出したんですよ」


 あっ! と騎士達が声を上げた。


「ということは!」「洞窟が!?」


 にこにこ笑いながら、マサヒデが頷く。

 各地で旅を続けていた彼らには、どういう場所か分るのだろう。

 洞窟と聞いてアルマダも驚き、


「もしかして、魔力異常の洞窟が出来たんですか!? この近くに!?」


「その通りです」


 ううむ、と唸って、アルマダが顎に手を当てる。


「魔力異常の洞窟・・・魔獣が湧いたんですね。

 なるほど、分かりました。財宝を取りに行くんですね」


 ぶは! と騎士達が水を吹き出し、マサヒデも、ぷ! と吹き出した。

 マサヒデより遥かに世慣れているアルマダも、知らなかったとは。


「わははは!」


 と、騎士達がげらげらと笑い出した。

 マサヒデも笑ってしまう。


「ははは! アルマダさん、魔獣もいません! 財宝もありませんよ!」


「え?」


 拍子抜けた顔で、アルマダがげらげらと笑う皆を見回す。

 マサヒデも笑いながら、皆に言われた事を思い出す。


「良いですか、アルマダさん。普通に考えてみて下さい。

 自然に出来た場所です。誰かが運び込まねば、財宝なんてある訳ないでしょう」


「む・・・そういえば・・・」


「もし魔獣がわんさか居たら、財宝を持って隠しに行こう! なんて考えます?」


「確かに・・・いや、その通りです。

 しかし、魔力異常となると、魔獣はいるのでは?」


「まず、居ません」


「居ないんですか?」


「野生の生き物が、どかん! と爆発しそうな所に居着くと思います?」


「いや・・・居着きませんね」


「爆発した後だって、魔力の異常で一杯です。

 となると、普通の動物は近寄りませんね。

 では、餌が無い所ですから、肉食は居ませんよね」


「ふむ、そうなりますね」


「草食の魔獣はどうでしょうかね?

 出来たばかりの洞窟、中に餌になる植物は?」


「ない、ですね・・・」


「じゃあ、魔獣は?」


「居ません・・・ね」


 げらげらと騎士達が膝を叩いて笑う。


「ははは! そういう事で、魔獣の心配はまず無いという訳ですよ!」


「む・・・」


 ふふ、と笑いながら、マサヒデはアルマダに向かって前屈みになり、


「しかし、財宝の代わりになるものは、あるかもしれないんです」


「財宝の代わり? 何があるんですか?」


「魔力がこもった、鉱脈です。

 もし、そんな鉄があれば・・・金銀宝石の類の鉱脈があったら!」


「ああっ!」


 アルマダが大声を上げた。


「精錬されていない、そのままの鉱石でも、宝石以上の値で売れるそうで。

 まあ、鉱脈があれば、の話ですけどね。

 鉱脈が無くたって、観光地として大儲け、という訳です」


「ば、場所は!? 土地は!?」


「洞窟が知られる前にと、既にマツさんが買い上げました」


「手が早いですね!?」


「クレールさんの話だと、こういった洞窟の中は、小さな魔力の結晶の砂が舞って、薄く光って、それはもう美しい場所だとか」


「ううむ、なるほど。それで観光地、名所となる訳ですね」


 マサヒデは皆をぐるりと見て、


「どうです、皆さん。今日は休んで、少し観光に行きませんか?

 マツさんとクレールさんが風の魔術で運んでくれますから、すぐです。

 四半刻もかからないそうですよ」


 おお! と皆が声を上げた。

 アルマダも喜び、


「行きますとも! 私、魔力異常の洞窟って、見た事がないんですよ!」


「ふふふ。トモヤには悪いですが、美しい洞窟を見に、観光と行きましょう。

 まだ中にも入ってませんから、ついでに地図を作りつつ、鉱脈も探しつつ」


「鉱脈があると良いですね・・・ううむ、楽しみになってきました」


「では、昼餉を済ませたら、魔術師協会に来てもらえますか。

 鎧ですと飛んで運ぶのに大変ですので、今回は着込みと得物だけで。

 出来たばかりの洞窟ですし、足はしっかり固めて行きましょうか」


「分かりました」


「では、私は訓練場に稽古に行きます。

 あと、今、カオルさんは道場へ行っています。

 稽古ではないので、すぐ帰ってくる予定です。

 帰るのは昼は過ぎるかもしれませんが、カオルさんが戻り次第、という事で」


 マサヒデは立ち上がり、出て行った。

 アルマダが子供のように目を輝かせ、いそいそと荷物の袋に手を突っ込む。

 年かさの騎士達が、それを見てくすっと笑った。

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勇者祭 16 研師 牧野三河 @mitukawa

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