第4話 初めての銃 前
結局ホルスターは必要がなかったが、
「これは買っておいた方が良いな」
と、小さな箱型の筒がついたベルトを持って来た。
「ご店主、これは?」
「銃を貸せ」
マサヒデが懐から銃を出し、店主に手渡す。
店主が握って、ボタンを押すと、すとん、と弾倉が店主の手に落ちる。
「こいつを入れておくんだ」
と、言って、弾倉を筒に入れる。
「ああ、なるほど」
店主が弾倉を出し、親指で押して、かちん、かちん、と弾を抜いていく。
抜き終わってから、
「この弾倉は、こうやって1発ずつ弾を込めねえといかねえ」
かち、かち、と1発ずつ抜いた弾を入れていく。
「いざやり合うって時にこんな事してたら、隙だらけも良い所だからな。
撃ちきった時の為に、代えの弾倉を入れておくってわけだ。
特に、この銃は入る弾数が少ねえからな」
「なるほど」
「まあ、このベルトの部分はいらねえだろうが、この弾倉入れは買っておけ。
帯に挟むにしても、弾倉はこの形だ。するっと下から抜けちまうもしれねえ」
店主はベルトから弾倉入れを引き抜いて、ベルトを通していた輪を指差し、
「こいつを上から引っ掛けるような奴に変えて、帯に挟んでおけ。
そうだな、金具だと、動いた時に帯に引っ掛かるかもしれねえな。
硬い革で引っ掛けを作れば良いだろう」
「む、分かりました」
「それと・・・」
店主が棚から平たい革の道具入れを持って来た。
マツモトが持っていた物だ。
「これが、銃の手入れ道具だ」
「む、見た事があります。あ、そうだ。取扱説明書はありますか?
最初は、分解して組み立て、という練習をひたすら繰り返すんですよね?」
店主はちょっと驚いて、
「ほお? 良く知ってるな」
「ラディさんが、マツモトさんからそう教えてもらった、と聞きました」
「お前さんは、そんな練習しなくて良いぞ。
掃除が出来れば、それで十分だ」
「え? やらなくて良いんですか?」
店主はマサヒデの刀を指差し、
「あんたは、その刀でやり合うんだろうが。
どうせ、離れた相手の牽制とか、馬に当てて相手を落とせばって感じだろう?
どうだ? そんなもんじゃねえか?」
「その通りです。馬上で使おうかと」
「じゃあ、別にラディちゃんみたいにならなくて良いぞ。
そりゃあ上手いに越した事はねえが、銃の練習で刀の腕が鈍っちゃあな。
そんな時間があるなら、木刀でも振ってりゃ良いんだ。
使った後に手入れが出来る、くらいになれば良い」
「分かりました」
と、マサヒデが頷く。
「よし。じゃあ射撃場に行って撃ってこい。
弾の入れ方は、さっき見てたから分かるよな。
短銃の構えはこうだ・・・」
と、マサヒデに構え方を教え、カウンターに回り、椅子に座る。
「良いか、馬で使おうとするからって、最初から片手で撃つなよ。
そいつはかなりがつんとくるから、慣れねえと手を痛めるぞ。
まずは両手で撃って、慣れてから片手だ。
片手で撃つだけなら、あんたならすぐ出来るだろ。当たるかどうかは別だがな。
扱いで分からねえ事があったら、これ見ろ」
ばさ、と、取扱説明書をカウンターに投げ置いて、
「これが弾だ」
どん、と取扱説明書の上に弾の箱を置く。
「さっさと・・・」
と、マサヒデの着込みを持ち上げようとして、
「う!?」
と、店主が驚いた。
「な、なんだこりゃ!?」
「ああ、それ魔術で軽くしてもらったんですよ。
硬さはそのまま。凄いでしょう?」
「おい、ラディちゃんも同じの着てるよな。もしかして、あれもか?」
「そうですよ。女性に着込みは重いでしょうし、あれも軽くしてもらいました」
「そうか・・・重くねえなんて言ってたが、本当に軽かったんだな・・・」
と言って、ばさっと着込みをマサヒデに投げた。
「ふう、俺ともあろう者が、ビビっちまった。
さ、撃ってこい。弾代は買い取り分から差っ引いとくぜ」
マサヒデは着込みを着て、カウンターから取扱説明書と弾を取り、
「後でもう1人、ミナミ新型を持った者が来ます。
そちらにもよろしくお願いします」
「ああ」
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射撃場の机の上で、取扱説明書を開く。
(む? 安全装置がふたつなのか。この握りの所と、これ。
なるほど、事故防止に配慮されているのだな)
かち、と安全装置を外す。
(で・・・弾倉の取り外しは、これ)
さ、と弾倉が落ちる。
(で、押し込めば良い、と)
かしゃ。
「ふうむ・・・」
弾倉の押し込み以外の操作が、片手で出来てしまう。
良く考えられた物だ、と感心してしまった。
「さて、と」
かなりがつんとくる、と言っていた。
威力が高い分、反動も大きい。自然な事だ。
(ええと、こう構える・・・少しだけ前。で、引き金を)
ばぁん!
「おっとお!?」
驚いて、大きな声が出てしまった。
思わず、後ろを振り向いてしまう。
正面から大きく手首に衝撃が入るが、しかし、想像以上ではない。
(確かにがつんとくるが、流せない程ではないかな)
ばぁん! ばぁん! ばぁん!
ころん、と最後の薬莢が転がり、小さく金属音を立て、薬莢にぶつかって止まる。
(ふむ?)
続けて撃って、右手の銃を見ながら、首を傾げる。
確かに反動は来るが、この程度なら普通に流せる。
狙う時は真っ直ぐで、上に跳ねるから、手首、肘、肩と流せばいけそうだ。
この程度なら、慣れれば、肩で後ろに抜くだけで流せるだろう。
(やってみるか)
片手で銃を上げる。
(お、さすがに重いな)
両手で構えた時と違い、ぐっと重さがかかる。
なるほど、慣れないうちは、片手で正確な射撃は難しそうだ。
手を引いて、両手の上に乗せてみる。
ちょうど2斤(1.2kg)くらいだろうか?
重さ自体は、刀とそう変わらない。
しかし、特に正確な射撃をしたい訳でもない。
馬上で戦いになった時、相手の馬を止められれば良い。
「よし、やるか」
がつんとくると聞いていたので、慣れるまでは、と狙いもせず適当に撃っていたが、片手で構えて、今度は的を狙ってみる。
「・・・」
ばぁん!
手を跳ね上げて流したが、そこまででもない。
(む、いける)
マサヒデは頷いて、手を引いて的を見る。
当たってはいないが、そう外れてもいないだろう。
少し練習すれば、当たりそうだ。
よし、と構え直した所で、自分が半身になっている事に気付いた。
馬上では、半身になれないではないか。
上半身は捻る事は出来るが、下半身は鞍で止まる。相手は動いている。
前、左右の相手に対応するには、殆ど腕だけで収めなければ・・・
マサヒデは半身をやめ、身体を的の正面に向け、腕を上げた。
ばぁん!
「う?」
少し右肩が後ろに持っていかれたが、これなら流せない事もなさそうだ。
弾薬1箱を撃ち切る前に、ちゃんと当てる事も出来るかもしれない。
最後の弾。
ばぁん!
「ふむ・・・」
的を掠めたのか、くらくらと的が揺れる。
と、右手の銃の上のスライドが下がったまま。
「ん? ん?」
弾を入れれば戻るだろうか?
弾倉を取り出し、かち、かち、と弾を詰め、押し込む。
「んん? あれ?」
こと、と机の上に銃を置き、取扱説明書をぱらぱらとめくる。
「ああ・・・安全装置が入るのか。
弾倉を入れたら、上を引っ張って・・・」
銃を取り、ぐ、と上のスライドを引っ張って離すと、かしゃん、と前に出た。
「お・・・ううむ、なるほど」
撃ち終わった、と分かりやすくなっているのだろう。
(よし)
同じ体勢で、ばぁん! ばぁん! ばぁん! と撃ち続ける。
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裏の射撃場で派手な銃声が次々と上がる。
店内では、カオルが店主に扱いを聞いている。
「ご店主、弾を撃ち切ったらどう入れ替えるのでしょう」
「ここ、この弾倉の後ろの出っ張り。これを前に押して、右側から弾倉を押す」
「ふむ」
かち、と弾倉がスイングアウトされる。
「で、この棒を押すとだ」
かちゃ、と弾倉に入れられた弾が浮く。
「下を向ければ、空になった薬莢がばらばらと落ちてくる。
で、新しい弾を入れるわけだ。
入れたら、弾倉を元に押し込めば撃てる」
「なるほど。馬上でこれは出来ますか?」
「慣れれば問題ねえよ」
「そうですか」
「今、トミヤスさんが後ろの射撃場で撃ってる。
撃ち方はトミヤスさんに教えてもらえ。
さ、あんたも行ってきな。これが弾だ」
どん、と店主が弾の箱を置いた。
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