第19話 稽古代・1


 昼前になって、稽古が終わった。


 クレールとラディは参加はしなかったが、驚きと尊敬の目でクロカワを見ている。

 カオルもシズクも大感動して、クロカワの手を取って、


「先生! ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 と、頭を下げ、クロカワも喜んでいる。

 マサヒデは3人を見ながら、稽古中にクレールに預けておいた金の袋を取り、銀貨を3枚出してちりん、と袂に入れ、


「先生、ありがとうございました。こちら、稽古代です」


 と、袋の方を差し出した。


「ああ、そうだったね。ありがとう」


 と、何気なくクロカワが受け取って、


「お!?」


 予想以上の重さで、袋を落としそうになる。

 慌てて袋を開くと、ぎっしり詰まった金貨と銀貨。

 とても稽古1回の代金ではない。

 橋の下へ向かうマサヒデに走り寄り、


「ちょっと、マサヒデ君!?」


「は?」


「なにこれ!? いくらあるの!?」


「さあ・・・分かりませんが、金貨90枚くらいでしょうか?

 銀貨、銅貨も混じってますけど。

 すみません、今は手持ちがこれしかなくて」


「君、君、こんな大金、どうしたの!?」


「ああ、先程お話した300人組手、あれ、放映されたんですよ。

 おかげで、町に人がなだれ込みましてね。

 その際、随分と町の利益が上がりまして、ギルドや町長からお礼にと」


「ええ!? お礼で!?」


「はい」


「一体いくらもらったの!?」


「金貨を大袋で3つです」


「はあ!?」


「陛下が御前試合と銘打って良い、とお言葉を下さいまして。

 予想以上に盛り上がってしまいましてね。大変でしたよ。ははは!」


「君、君、それ笑い事じゃないよ!? 御前試合!? 金貨、大袋で3つ!?」


「ええ。頑張った甲斐がありました」


「・・・」


「ほんの一部で申し訳ないのですが、よろしいですか」


「い、いいよ、うん・・・ありがとう・・・」


「じゃあ、ちょっと先生が集めた得物を見せてもらいますね」


「どうぞ・・・」


 金の袋を握って棒立ちになったクロカワを置いて、マサヒデは橋の下へ歩いて行った。



----------



「これはまた・・・」


 色々な武器が、山積みに置いてある。

 短い物から長い物、杖や弓、鉄砲も見える。

 地味な物。派手な物。

 これは使えそうな物を探すのも大変そうだ。


 いくつかある鉄砲はどうなのだろう?

 これは、マサヒデにもラディにも分からない。

 鉄砲屋に持って行って、聞いてみるしかないだろう。


 杖は、クレールやマツなら分かるだろうか?

 ラディは、杖の目利きも出来るのだろうか?


 前に突き出ている刀を拾って抜いてみる。

 明らかに数打ち。とても使える物ではない。

 納めて、山の上に乗せる。


「ふうむ・・・」


 中身はどうあれ、派手な拵えの物もある。

 銃もいくつかあるし、売ればかなりの額になるはずだ。

 全部売れば、クロカワに渡した額以上にはなる。

 銘刀が1本でもあれば、倍も軽く超えるだろう。


 とりあえず、馬車に積み込もう。

 使えるかどうか、後でじっくり見ていけば良い。

 マサヒデは橋の横の土手を上がり、


「おーい! シズクさーん!」


 と、クロカワと話すシズクに声を掛けた。


「はーい!」


 どすどすと音を立てて、シズクが駆け寄って来る。


「この橋の下に、先生が集めた得物がありますよ。

 結構な量がありますから、上に上げて、置いてもらえますか。

 私は馬車をここまで持ってきますから、積み込みましょう」


「ん、分かった!」


 マサヒデはすたすたとラディの所に歩いて行き、


「銃がいくつかありましたよ。

 私、銃はさっぱりなので、良し悪しが分かりませんが」


「破損が無ければ、手入れ次第で使えるかと思います」


「おお、そうですか。

 じゃあ、気に入った物があったら、ラディさんの分はそれにしましょう」


「はい」


「そうだ、杖もありましたけど、ラディさんって、杖も分かります?」


「杖は、先に着いている石の質次第です」


「じゃあ、宝石屋さんに持ってけば分かりますかね?」


「石によって特性も変わりますし、使い手次第ですね」


「ラディさんも使います?」


「私は必要ありません」


「そうですか。じゃあ、クレールさんに合う物があれば、後は売りましょうか」


「それで良いかと」


「あ、もしかしたら、握りの所だけ良い品とか、そういうのがあるかも。

 そういうのがあれば、先の石をクレールさんの好みと入れ替えるというのは?」


「ああ、それは良いですね」


「とにかく量が多いので、分かる物は道々馬車の中で見てもらえますか?

 とりあえず適当に、良い、悪い、分からない、で分けて下さい」


「はい」


 マサヒデは指を立て、


「あ! と思っても、詳しく見てたら、いつまでも終わりませんよ。

 帰ったらいくらでも見れますから、とにかく分けるだけにして下さい」


「う、はい・・・」


 マサヒデは隣のクレールに笑顔で向いて、


「クレールさん。実は、クロカワさんに稽古代を払わないといけないんですけど」


「え? お金はさっき・・・」


「実は、もう一つあるんです。私とクレールさんの馴れ初めが聞きたいって」


「え、ええー! そ、そんな・・・私、一杯泣いちゃって・・・」


 クレールが顔を赤くして俯き、両手を頬に当てる。


「お願いしますよ。私が馬車に荷物を載せている間だけ。

 後は、私が引き受けますから」


 む、とラディがマサヒデを見て、


「マサヒデさん、クレール様を泣かせたんですか?」


「嬉し泣きでしたから。ね?」


「ええ・・・まあ・・・はい・・・色々と・・・」


 マサヒデは真っ赤な顔のクレールの横に座り、耳に手を当てて、


(マツさんの身分の事は、適当に誤魔化して下さいよ)


 こく、とクレールが頷く。

 マサヒデはラディの方を向き、


「なんなら、ラディさんも一緒に聞いてて構いませんよ。

 馬車に来て得物を見てても構いませんが」


「えっ・・・ううん・・・」


 顔を真っ赤にして、頭から湯気が出そうなクレール。

 山盛りの武器。

 どちらも捨てがたい・・・


「あ、じゃあ、帰りの野営の時に聞かせて下さい。私、武器を見ます」


「ははは! 今だけです。どっちか選んで下さい!」


 今だけ・・・となると、選択肢は一つしかない。

 武器は後で見れる!

 ここは我慢しよう!

 今、聞くしかない!


「聞きます! クレール様、私にもお聞かせ下さい!」


「は、はい・・・」


 マサヒデは金袋をぎゅっと握ったクロカワの所に歩いて行って、


「先生、私は馬車にあの得物の山を積みます。

 もう一つの稽古代は、クレールさんから聞いて下さい」


「え? 稽古代?」


「クレールさんとの」


「ああ、ああ・・・そうだったね」


「ふふふ。またお会いする機会がありましたら、私の方からも。

 クレールさんからは夢物語かもしれませんが、私は恥ずかしい話でしたから」


「ええ? ちょっと、マサヒデ君、何それ、気になる」


「両方から聞けば余計面白いと思いますし、ちょっとだけ、クレールさんには知られたくない所もありますから。今回はクレールさんから」


「分かった。楽しみにしてるよ。祭が終わった頃、また道場に行くから。

 あ、そうだ。ここまで来たんだから、ついでに道場に行くよ。

 僕も、それなりに技を磨いたし。カゲミツ様とまたお手合わせしたいね」


「ああ、じゃあ、途中まで馬車に乗っていきますか?」


「いいの?」


「勿論ですとも」


「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」


「では、私は馬車を持って来て積み込みますので。

 残りの稽古代は、クレールさんからもらって下さい」


「うん、分かった」

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