第17話 男の正体・1
マサヒデ達は休憩所のケバブの屋台に近付いて、
「皆様、交渉は私にお任せ下さい。
先程お話した地域では、カモる事は悪い事ではなく、常識なのです。
騙された方が悪い、そういう所ですので」
と、カオルが振り向いて、言った。
皆が頷いて、カオルの少し後ろで見ている。
屋台には火に炙られた大きな肉があり、主人がくるくると肉を回している。
屋台を見てみれば、確かに、値段が出ていない。
適当な値段をつけているのだ。
「すみません、5人分」
「いらっしゃい! 5人分、銀貨1枚だよ!」
ぷ、とカオルが吹き出し、
「ははは! あなた、馬鹿にしないで下さい! ふっかけても分かりますよ!」
「じゃあ、いくらならお買い上げに?」
「銅貨5枚で」
え、そんなに安く? と驚いて、皆がカオルの背中を見る。
屋台の主人は、お前常識あるのか? とへらへら笑い、
「そんな値で売ってたら、私共のキャラバンはやっていけませんよ!」
「そうですか。では、あちらで」
くる、とカオルが振り向いて歩き出すと、
「待ってッ! 私、この国が大好きだから、優しくします!
親切にして、5人分、銅貨70枚で!」
「10枚にして下さい」
「65枚!」
「15枚!」
「じゃあ、思いっ切り負けて50枚!」
「馬鹿にしているのですか? 20枚」
「ううん、姉さん、40なら!」
「25枚」
「30枚!」「30枚!」
「買いました。銅貨30枚」
「姉さん、やるねえ」
がさがさ、と紙袋に主人がケバブを5個入れて、カオルが受け取る。
じゃら、と銅貨30枚。
「銅貨30枚。ご確認を」
「バイバイ、サンキューね!」
すたすたとカオルが歩いて行き、皆が付いて行く。
「カオルさん、すごいじゃないですか!
半額以下になりましたよ!」
カオルがふふん、と自慢気に顔を上げ、
「こういうものです」
クレールが顔を上げ、
「あ、お昼用にも買っておきましょう!
帰りにまだここにいるか分かりませんし、私が買ってきます!」
「分かりました」
と、カオルが金袋をクレールに渡した。
マサヒデがクレールの隣に立って、
「1人では危ないかもしれませんから、私も行きますよ」
「ありがとうございます!」
「カオルさん達は、先に食べてて下さいね」
と言って、マサヒデとクレールが屋台に戻る。
クレールが屋台を見上げ、
「すみません、5人分下さい!」
主人がにこにこしながら、
「おうおう、お使いか! 偉いねえ!
5人分だね。銅貨15枚だよ!」
「えっ・・・」
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複雑な顔をしてマサヒデとクレールが戻ると、カオル達がケバブを食べている。
にこにこしながら、カオルとシズクが話している。
マサヒデ達が気まずい気分で近寄って、
「お待たせしました」
カオルが笑顔で振り向いて、
「クレール様、大丈夫でしたか?」
「あ、えっと、はい・・・」
「また、ふっかけられたでしょう」
クレールは下からカオルを覗くように、
「あの、銅貨15枚でした・・・5人分」
と言って、気まずそうに目を逸した。
ぴし! とカオルが固まり、げほっ! とシズクとラディが吹き出した。
「そう、でしたか」
「あはははは!」
「ぷっ」
と、シズクとラディが笑い出す。
「あの、マサヒデ様、食べましょう」
「そうですね・・・」
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食事を終えて、半刻程進んだ所で、カオルが手を上げて馬を止めた。
マサヒデも馬車を止める。
目を細めると、遠くに小さく橋が見える。
「・・・」
カオルが懐から遠眼鏡を出して、橋の方を覗き、きりきりと倍率を変える。
「む・・・あれか」
「いましたか」
「ええ。いました。仰られた通り、一目で分かりますね。
橋の手前、街道のすぐ脇。
あれは・・・獣人族、ですね・・・にしては、随分と小柄です。
男。身長、5尺半。あの動きは猫族ですね。顔は人族と変わりません。
もう1人は大柄、こちらも男。身長、6尺やや足らず」
「ふむ」
「道着に袴です。朝稽古でもしているのでしょうか。
ふむ・・・あれは、古武術? にしては・・・いや、合気柔術でしょうか」
「ちょっと見せて頂けますか」
「どうぞ」
マサヒデが遠眼鏡を受け取り、覗き込んで、
「ぷっ!」
と、吹き出した。
「どうなされました?」
カオルがマサヒデに顔を向けると、
「ははははは!」
と、げらげら笑い出した。
なんだなんだ、と馬車からクレール達が顔を突き出す。
「マサヒデ様? どうされました?」
「マサちゃん?」
「マサヒデさん?」
胡乱な顔をする皆に、
「ははは! 皆さん、安心して下さい!
保証しますよ、あの方は、絶対に危険な方ではありません!
いや、ある意味危険かもしれませんね! ははは!」
「ご存知の方なのですか?」
「ええ! 良く知ってます! さあ、行きましょう!」
ぱしん、と鞭を入れて、マサヒデが馬車を走らせる。
カオルも白百合を歩かせて、並んでいく。
がらがらとしばらく馬車を走らせていくと、男がこちらを向いた。
もう1人の大柄な男の方も、こちらを見る。
「おっ」
マサヒデがにやにやしながら見ていると、男が道の方に出て来た。
こちらに手を振っている。
「すみませーん! ゆう、う・・・うん?」
「先生! ご無沙汰しております!」
馬車を止めて、マサヒデが御者台を降りて頭を下げる。
胡乱な顔で男が近付いてきた。
お? と気付いて、マサヒデを見て、
「あれ? もしかして、シロウ君?」
「先日、父上から名を頂きまして、今はマサヒデと名乗っております」
マサヒデが頭を上げると、
「おお! 名前もらったんだ! マサヒデ、いい名前じゃない。
ううん、久しぶりだねえ! 2年? 3年ぶりだっけ?」
「3年になりますか。お元気そうで何よりです」
2人の様子を見て、皆が周りに集まってきた。
もう1人の大柄の男も後ろに立ち、マサヒデ達に頭を下げた。
「ご主人様、こちらは?」
マサヒデはにやにや笑いながら、
「カオルさんも、見た事はなくても聞いた事はあるでしょう。
武神精錬館、旅の小兵の男と言えば・・・?」
「ああっ!」
カオルが驚いて背を仰け反らせ、次いで90度に頭を下げた。
クレール、ラディ、シズクは顔を見合わせた。
この小さな男は一体、何者だろう?
がば! と頭を下げたカオルの後ろから、
「あの、マサヒデ様、こちらは」
「クレールさんは、魔術師だから、知りませんかね?」
「さあ・・・」
と、クレールが首を傾げる。
「こちらは、ユウゾウ=クロカワ先生っていう、すごい武術家の先生です」
「あ! あ! 申し訳ありません! 失礼しました!」
クレールが慌てて頭を下げた。
シズクもラディも知らないようだ。
とりあえず、マサヒデの知り合いらしい、という事は分かったようだ。
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