2話 初戦闘
村を出て、王都の冒険者ギルドへ向かう。この町からの道のりは徒歩で約半日。
しかし、セーブも出来ない、死んだら終わりのこの状況。日暮れまでには到着したい。
街道は王都まで続いているので、道に迷うことはなく、順調に進んでいると、しばらくして街道から少し外れた、小高い丘にそびえ立つ大木の下で、緑色の小人が三匹。なにかを襲っているのが目に入った。
「あれはゴブリンか?とりあえず【鑑定】」
ゴブリン レベル5
HP50 MP5
攻撃力30 防御力20
少し近寄ると、ゴブリン共へ奮闘する鳥型モンスターがいた。どちらも戦闘に夢中で、俺に気が付かない。ゲームの時よりゴブリンの顔がグロいな……
大木を見上げると鳥の巣があった。そして大木の根本にあるのは、
「あれって卵か?」
どうやら落ちた卵にゴブリン共が目をつけたらしい。それに気づいた親鳥が助けに降りてきたのだろう。飛び回り嘴や爪でゴブリンを攻撃し必死に牽制している。しかし、あの高さから落ちて割れない卵とは、どれだけ硬いのだろう?
「ギギ、ギギギ」
「「ギ」」
何やら一匹のゴブリンが、他の二匹に指示を出しているようだ。指示をうけた二匹が親鳥のヘイトを稼ぐ。その隙に指示を出したゴブリンは、こっそりと忍び寄り、卵を抱きかかえた。
「キュイーー!キュイ~~~」
それに気づいた親鳥は、慌てて追いかけようとしたが、高度が低く二匹のゴブリンに背後から棍棒で殴られた。翼を痛めたみたいで、飛び上がれないようだ。流石に、この状況を見過ごすのは気分が悪いな。試しに助けてみるか
――ピコン
そう思った瞬間、眼の前にウインドが現れる。
【特殊クエスト発生 ゴブリン達から卵を守れ 成功報酬 シークレット YESorNO】
とりあえずYESだ
丁度、能力確認のため戦闘がしたかった俺は、YESを押して抜剣し近寄った。
「お!おお!思っていたより、かなり速いな!」
襲われている親鳥に駆け寄っるも、その自分の一歩一歩の軽さと速さ驚く。ステータスをAGIに振り直したので、まだ思考と動作が噛み合わない感覚。早く慣れなければ今後の戦闘が不安だな。
あっという間に目の前に背を向けたゴブリンが二匹。足元には止めを刺されそうな親鳥。素早く剣を振るい一匹目の首を跳ね、二匹目の胴を裂く。
一一ザシュ、ザシュ
「キュ……イ……?」
「大丈夫か?」
――キュポン
そして腰のハイポーションを手に取り、口で蓋を抜いて親鳥に振り掛けた。
ゲームと同じエフェクトが出て、非ぬ方向に曲がっていた翼が、傷跡も消えて元に戻った。
「キュイー!」
「助太刀するぞ」
「キュイーーー♪」
――バサッバサッ
「わかった、さっさと追わないとな」
何故か、親鳥の気持ちがわかった。もしかして言語理解は、全ての生き物に対応しているのか?いや、後で検証しよう。今は卵を救い出すことが優先だ。
俺は、上空へ飛び立った親鳥の後を追いかけ、森の奥へと突き進んだ。
「キューーーーー」
今迄とは違う鳴き声。うん?見つけた、ここだと?
上空で旋回する親鳥の真下にたどり着くと、そこはゴブリンの集落だった。そこへ入っていく卵を抱えたゴブリン。他のゴブリン共は上空で鳴いている親鳥を見上げていた。おっ!これはチャンスか?
「ギッギッギッギッギッ」
集落にたどり着いたゴブリンは、卵を掲げ親鳥を煽るように仲間達と笑っていた。隙だらけだな。俺は先ほどより、速度を上げて、集落に突貫した。そして、
――シュ
「ギ?ギ~~~~~」
卵を掲げていたゴブリンの腕を切り飛ばし、その切り離した腕ごと卵を抱えて走り去る。
上空を見て嘲笑っていたゴブリンは驚いた後、悲鳴を上げた。
「卵は救い出した。逃げるぞ~~~」
「キュイーーー」
俺は踵を返し、走りながら上空の親鳥へ叫ぶと返事が返ってくる。すると親鳥が急降下し、俺の右肩に止まった。
「流石に数が多かったし、卵の安全が優先だからな」
「キュイ」
「うぁ~気持ち悪いな、これ邪魔だ」
あの数に囲まれながら、卵を守るのはキツい。
くっついていたゴブリンの両腕を取り払って、卵についた返り血を拭いながら撫でる。すると温かさと鼓動が感じ取れた。良かった、無事だった。
「「「ギッギッーー」」」
振り返ると集落からゴブリン共が湧き出て、俺達を叫びながら追ってくる。
「おお!うじゃうじゃ追ってきたな。しっかり捕まってろ。速度を上げて逃げ切るぞ」
――ドンッ
「キュイ?キュイ~~~~~!!!」
まだまだ全力では無かったので、俺は親鳥に断り走る速度を上げたが、耳元で親鳥が驚きの鳴き声を上げた。
「いや、うるさいよ。耳がキーンってするだろ!」
速度を上げたため、あっという間に森から抜け出て、大木の丘に戻ってこれた。
「ほら、卵を持って巣に帰りな」
「キュイ。キュイキュイ」
「礼はいいよ。兄弟って、そっか。卵は巣に他にも何個かあるのか?」
「キュイ。キュイキュイ?」
「いや、ゴブリン共が来るから迎え撃つ」
「キュイー」
「駄目だ、お前は巣で守りを固めろ」
「キュイ……」
「大丈夫さ。そう心配するな。もしヤバそうなら卵を安全な場所へ運べ。それくらいの時間は稼ぐぞ」
「キュイ、キュイキュイ」
「ああ、きたな。ゴブリン如きに遅れはとらんさ」
そういえば、ゴブリンが発した言葉の意味は解らなかった。言語理解の効力無しか。
おそらく助けたから親鳥の好感度が上がり、テイムの様な感じなのかもな。
そういえば従魔を使役していたプレイヤーはいた。一匹ならモンスターを仲間に出来るクエストの話は聞いた覚えがある。もしかしてこの特殊クエストは……
そんな事を思い出していたら、
「「「ギギギギギ」」」
ゴブリン共が森から出てきた。そして、
「グォーーー」
一体だけ、一際大きいゴブリンが出てきて大声で叫んだ。あれが集落の長か?
「念の為に【鑑定】っと」
ゴブリンジャイアント レベル20
HP200 MP20
攻撃力100 防御力50
なるほど、そこまで大規模な集落ではなかったが、上位種がいなければ、集落は形成されなかったはずだ。放置していたら、まだまだデカい集落になっただろうし、こいつも、新たな上位種などに進化していたかもな。
全部ゲーム時代のテキストに書いてあったことだが、それはこの世界でも同じなのだろう。なら、人への被害が出る前に、奴らを潰すほうがいいだろう。
「グォグォグォ」
「「「ギッギッギッ」」」
なんだろう。言葉はわからない。だがその表情で、こちらを仲間達と嘲笑っているのがわかる。
「雑魚のくせになんかムカつくな。魔法試し打ちの的になってもらうぞ。ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター」
俺は魔法の試し打ちをすることにした。
右手に剣を握り、左掌を前に突き出し風の初級攻撃魔法を詠唱短縮で連続発射。
すると風の刃が、数匹のゴブリン共を切り裂いた。
「グォ!グォグォ」
「「「ギギギ」」」
それを見たゴブリンソルジャーは驚いた後、何やら指示を出したらしい。固まっていたゴブリン共は、それぞれ離れて広がった。思ったより頭がいい。ならば、
「ウインドタイフーン」
次は、中級攻撃魔法を試す。大きな竜巻が起こり、ゴブリン共を巻き上げていく。竜巻の中で無数の風の刃に切り裂かれたゴブリン共の死体がドサドサと上空から落ちてきた。
しかし流石上位種。身体に傷はつくが浅く、致命傷にはなっていないようだ。巨体で重いから踏ん張って耐え抜き、強風に巻き上げられることも無い。
「雑魚は一掃出来た。後はお前だけだ。色々と付き合ってもらうぞ」
「グォ?」
俺は剣先を向けゴブリンジャイアントに言う。
タイフーンはやりすぎだった。こいつ以外全滅させてしまった。これでは色々と試せない。
とりあえず基本のおさらいだな。俺は剣を鞘に収め、先ずは素手での力勝負と格闘術を試すことにした。
「こいよ」
――クイッ
「グォ―――」
――ドスンドスンドスン
挑発すると煽られていることがわかったらしい。少し逃げ腰だったゴブリンジャイアントは、怒りに任せてこちらに向かってきた。
「先ずは力比べといこうか」
「グオッ」
――ガシッ
力試しに手四つで組む。相手は必死形相で潰しにかかってくるが、俺は余裕の表情で返す。
「グォ?グォ!グォ~~~」
勝てないと悟り、手を離して後ろに引くジャイアント。すると今度はショルダータックルで迫ってきた。
「ほい」
――ドカッ、ズズズズズーーー
衝突する直前、俺は素早くしゃがみ足を引っ掛ける。すると、顔から倒れこみその勢いのまま地面を一直線にえぐっていった。
「ペッペッ……グォ………」
「おい、まだまだ色々と付き合ってもらうぞ」
「グォ!」
口に入った土を吐き出しているまだ倒れているゴブリンジョイントを無理やり引き起こし、それからしばらく、俺の格闘術スキルの実験台兼サンドバッグになってもらった。
「キュイ………」
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