小森vs光龍――①

 カレンと颯がオルトロスと戦いを繰り広げる少し前、ゴブリンロードを倒した小森は崩れ落ちたビルの合間を縫うように歩いていた。


「うおっ、眩っ!」


 小森の前にそびえ立つ50階は優に超えるであろう、一棟の巨大ビル。

 建物の周りをまるで蛇がとぐろを巻くように囲う猛烈な光に、思わず小森は目をつむった。


「チッ! 確かにこれじゃ、近づけるのも近づけねえ。今まで討たれなかったのも無理ねえな」


 小森は目を細めながら辛うじて開けると、その魔物の姿を視認する。

 大蛇のような光はよく見ると、四足がついていた。

 その足から伸びる五本の鋭利な爪。頭には二本の角のようなものが生え、口元の細長い髭を風にたなびかせる。

 全身が光で神々しく輝く、ビルよりも大きい龍の姿をしたモンスター。


――間違いない……!

 小森はすぐに理解した。


「お前か? 有楽町で暴れてるXランクの魔物は」


「何だぁ!? 人間ごときが俺様に何の用だ?」


 下町にいるやからのような口調で話す光龍。


「あぁ、いいいい。そう言う強い言葉使って、俺強えですみたいな態度取るの。まあ、いいや。すぐに魚みてえに三枚におろしてやるから」


 小森が空間魔法でひずみから、神器――天叢雲剣を取り出し構える。


「ヒャッハー!!」


 その時だった。心の底から興奮しているような狂乱の叫声と共に、空からモヒカンの男が小森の前に降ってくる。


「二人だけで闘るなんてつれねえなぁ!? 俺っちも混ぜてくれよ!」


(こいつ……)


 小森は自身の眼前に降りたったハイテンションな男を見て、考える。

 恰好は金色のモヒカンに襟元にトゲのついた革ジャンとハーフパンツ。


 一見するとふざけた見た目をしている彼だが、足元にあるスケートボード。

 それに小森は着目した。

 何故ならそのスケートボードは風の魔力を纏い、地面から少し浮いていたのだ。


(風の魔法でボードを浮かし、その上に乗って自身も空中へと飛び戦う……。見た目に反して、意外とできるな……!)


 モヒカンの男に対しての小森の評価は上々だった。


「風が俺を呼んでいる……! テンション、上げていこうぜ!!」


 スケートボードと共にモヒカンの男が凄まじいスピードで上昇し、ビルに鎮座する光龍目掛けて一直線に突っ込んでいく。


「くだらん、貴様ら人間ごときが……! 俺様に触れることすら敵わん! 即死浄化魔法――ルーメン・モルス」


 光龍がまるで猛烈な日差しを放つ太陽以上に、より一層強く光り輝いた。


「うげぇ! 何だ、この光は……!」


 その光に照らせたモヒカンの男が思わず叫ぶ。

 次の瞬間だった。男の姿が突然消え、革ジャンとハーフパンツの服だけがヒラヒラと空中を舞うのだ。


(まさか、今の魔法は……!)


 眼前の光景を見て、小森は驚きを覚える。

 光龍の放った浄化魔法――ルーメン・モルス。

 それは光に触れた生命を跡形もなく消し去る最上級の光魔法……!


「貴様もだ。光に呑まれ、天へと帰るがいい」


 ルーメン・モルスの光が、小森の体を照らした。

 光に呑まれ、小森の姿が見えなくなる。


「そろそろ魔力も溜まった頃合い。空に飛んで、人間どもに浄化の光を浴びさせるとしよう……」


「誰が帰るって?」


 刹那、ほとばしる青い稲妻が光龍の左足に直撃する。

 その雷のそばには、いびつな形をした青銅の剣を握る小森。


「バ、バカな!? お前は今、俺の浄化魔法を浴びて死んだはず……!」


「効かねえんだよ。即死だろうが、何だろうが。俺のスキルは、ありとあらゆる不利な事象を否定する」


 光龍の足に張り付く小森は、突き刺した天叢雲剣を稲妻と共に振り下ろし光龍の左後ろ足を斬り落とした。

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