Xランクと3種のSランクモンスター

 佐倉健は日冒専属の冒険者だ。

 歳は三十代半ば。ランクは颯と同じ、上から二番目のSランク。

 有楽町で発生した魔物のスタンピード。その実態の調査と報告、そして討伐の任務を中道直々から指名されていた。


 よく言うなら真面目、悪く言うなら愚直と言っていいほどの堅物な人間の佐倉は、この任務にとても誇りを感じていた。

 仲間たちと共に自分は有楽町、いや日本を救う英雄となるかもしれない。

 身の引き締まる思いで佐倉はこの地に立っていた。

 そして、他の仲間たちはと言うと……。


「カレン、お前いつの間に制服に着替えたん? コスプレか?」


「違います! これは学校指定の制服です。私服は汚したくないから、替えてきたんです! それにあなたの格好こそ何ですか?」


「えっ、俺?」


「よれよれのTシャツに、ダボついたズボン。ファッションに疎い大学生みたいな格好のあなたに、見た目をとやかく言われたくありませんね!」


「うん、何で? 服なんて別に、チ〇コと乳首隠れてたら何でもよくないか?」


「信じられない……。女性に向かって恥ずかしげもなく、よくそんな下劣な言葉を浮かべられますね!」


「アハハ! 二人ともいつの間にか、仲良くなってるみたいだな」


「「よくない!」」


 自分とは違い、まるで緊張感のない彼ら。

 その様子を見て佐倉は少し、憂いを感じる。


「みなさん、話したいことがあります」


 後ろを振り返り、重い口を開く佐倉。


「ここ有楽町で発生中のスタンピードについてです。みなさんほどの実力者ならすでにご存じかもしれませんが、スタンピードはダンジョンから外に出た魔物が町で暴れまわる状態のことです。これを止めるにはダンジョンの破壊。つまりそのダンジョンのボスモンスターを討伐すれば、このスタンピードは終わります」


 一般的にダンジョンの中にはボスモンスターと呼ばれる、ダンジョン内で一番強いモンスターが存在し、それが討たれるとダンジョンは消えるのだ。


「知っているよ。で、今回出たボスモンスターがXランクっていうことでしょ。そいつ、どこいんの?」


 ケロっとした顔で佐倉に聞いた小森。


「あの光です」


 そんな小森の言葉に佐倉は2時の方向を指さし答えた。

 それはビルの周りを照らす猛烈な強い光だった。


「うおっ、まぶし。太陽……、じゃないよな」


 光を見て小森も思わず、そんな言葉が出る。


光龍こうりゅう――。今回、あなたに討伐してもらいたいXランクのモンスターです。名前の通り光龍は全身から強い光を放ち、その光は何者をも寄せ付けない」


「確かにあんだけピカピカだと、目ぇ開いて満足に戦えなさそうだな。じゃあとりあえず俺は、あの光目掛けて歩けばいいってことか?」


「はい、お願いします。あと、光龍とは他にSランクの強力なモンスターが三体、この有楽町で確認されています」


「三体もか?」


 佐倉の言葉に反応する颯。


「手下のゴブリン族を束ね、支配するゴブリンの王――ゴブリンロード。双頭の魔犬――オルトロス。最大限まで成長したスライムの姿――スライムキング。彼ら三体には特に気をつけてください」


「わかった、警戒しとこう」


 引き締まった表情で颯は返事をした。


「まあでも言うて、Sランクでしょ? 三人はさ。まだここに取り残されてる一般人の救出にあたってよ。俺一人でサクッと光龍のほうに行ってくるから」


「えっ、大丈夫なんですか? あなたもXランクですが、光龍もあなたと同じXランク……」


「大丈夫だ、佐倉」


 その時、颯がきっぱりと言い切った。


「彼はわたしたちとは次元が違うんだ。ここは素直に彼にまかせて、わたしたちはわたしたちのやるべきことをやろう」


 颯が佐倉に言ったころにはすでに、小森は見えなくなるほど前へと進んでいっていた。



***



「相変わらず、醜い姿だな……」


 小森の前に立ちはだかる一匹の巨躯な魔物。全身が緑色の肌に、この世の者とは思えない醜悪な顔を持った二足のモンスター。


「知ってるぜ、人間。お前、冒険者っていう奴だろ?」


 流暢な人語を話すこの魔物の名は、ゴブリンロード。

 先程、佐倉が警告した有楽町を徘徊する三種のSランクモンスターの内の一角。


「まあ、リハビリ相手にはちょうどいいだろ」


 小森は体をほぐすように肩を回す。


 日本最強の男とゴブリンの王との戦いが今、始まろうとしていた。

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