天国~heaven~
夏目 漱一郎
第1話新しい企画
高層ビルが建ち並ぶビジネス街の一角にあるビルのフロアに、その会社はあった。
「お前達、もっとマシなイベントは考えつかないのか!」
委託でイベントやアトラクションを企画・運営を主な業務としている会社【サンライズ企画】…その企画課長、
基本的に矢崎は穏やかな性格であり、今日のように怒鳴り散らす様な事は滅多にない。冷静沈着で部下からの信頼も厚い筈の彼がこんなにも苛ついているのは、今回の企画の依頼があまりにも突然のイレギュラー的なものだった事に起因する。
発注元は親会社の得意先に当たるランクAの会社。断る事が出来ないのは勿論その開発スケジュールはかなり無茶なもので、約束の期日を守る為に矢崎はこの一ヶ月間休みを取得する事もなく働いていた。
この企画が完成しなければ、この会社のいくつかの契約はご破算となり、会社、さらには親会社にまで大きな損失を与えることになる。
壁に掛けられた時計は、午後10時を過ぎていた。
部下達は既にもう帰社していて、一人残ったオフィスで矢崎は書類整理を済ませると、ふぅっと大きな溜息をつき椅子から立ち上がった。
企画提出の期日は、刻一刻と近づいてくるが現状はまだこれといったアイデアすらまともに上がってこない。中間管理職である矢崎は、役員との取り決めで毎日最上階の役員室へと出向き進捗状況の報告をする事が義務付けられていた。
その度に、偉そうにソファにふんぞり返って座っている重役からネチネチと執拗に説教を受ける。あの人達はあれをストレス発散の手段にしているんじゃないだろうかと思う位、直接仕事と関係のない細かい部分までその範囲は広く渡る。
一ヶ月以上に渡る休みの無い労働による疲労、そして中間管理職ならではの精神的な過度のストレスにより矢崎は、心も体も既に限界を迎えていた。
ビルの窓から見える景色は、普通であれば美しい夜景に見える。しかし今の矢崎の目にそれは絶望的なモノトーンの情景にしか映らなかった。
「ああ、いっそのことこの屋上から飛び降りて死んじまった方がいいのかもしれないな俺なんて…」
あながち嘘とも思えないそんな台詞を、矢崎は窓の外を眺めながら呟いた。
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