第5話 銃のプロフェッショナル・1
マサヒデとソウジが訓練場ではしゃいでいた頃。
マツモトは大急ぎで仕事をこなし、残った分は後回しにして、早退願いを出した。
棚を開き、中に入っている箱を開ける。
箱には冒険者時代の使い込まれた装備品が、綺麗に畳まれて入っていた。
畳まれた古いローブの上に置かれた短銃と、使い込まれた革の手袋。
そっと取り出して、机の上に置く。
机の裏に隠してある短銃を取り出し、並べて机に置く。
「・・・」
2丁の銃をじっと見つめ、隠してあった短銃を元に戻す。
引き出しを開け、メンテナンス用品を出す。
流れるように分解して、一つ一つ、綺麗に部品を磨く。
定期的に整備されているマツモトの短銃は、綺麗な物だ。
かちかちかち、と流れるように組み上げて、すっと構える。
撃鉄を起こす。かちり。
引き金を引く。がちん。
「うむ・・・」
箱を開け、油紙に包まれた箱を開ける。
指先で、銃弾をひとつ摘んで、じっと見つめ、戻す。
頷いて、銃のシリンダーをスイングアウト。
左の手の平に、6発の銃弾の底部が、中指に綺麗に並んでいる。
親指で、ひとつずつ、ゆっくりと弾を込める。
弾を入れるたび、重さでシリンダーが回っていく。
かち、かち・・・
くい、と手首を回し「かしゃん」とシリンダーが入る。
「・・・」
もう一度、シリンダーをスイングアウト。
エジェクターを押し、込められた弾丸がからりと手の平に落ちる。
中指に合せ、並べる。
かちちちちちち。
かしゃん、とシリンダーを入れる。
3秒超。
もう一度。もう一度・・・
何度か同じ動きを繰り返し、ふう、と深くため息をついた。
(鈍ったものだ)
シリンダーをスイングアウト。
エジェクターを押す。
左手の平に弾丸を並べる。
反時計回りにシリンダーに合わせて左手を回し、さらりと弾丸が入る。
ふう・・・と、もう一度、ため息をつく。
ホルスターを出す。
上着を椅子に放り投げ、ホルスターを着け、銃をしまう。
久しぶりのホルスターに、少し違和感を感じる。
銃を抜く。
しまう。
椅子から放り投げた上着を取り、着る。
銃を抜く。
しまう。
「うむ・・・行くかな」
革手袋を取り、ポケットにねじ込んで、マツモトはギルドを出た。
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職人街、ホルニ工房。
「ううむ・・・」
ここに、あの脇差を鍛えた刀匠がいる。
そして、ここに八十三式がある。
顎に手を当て、もう一度、看板と店構えを見る。
とても、あの脇差を鍛える程の刀匠がいるとは思えない。
鉄を叩く槌の音が聞こえる。
市井に埋もれた名人・・・
がらり。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは。冒険者ギルドのマツモトと申します」
「あら、ギルドの方ですか。何かご入用でも」
「いえ、今日は個人的な用でして。ラディスラヴァさんはご在宅でしょうか」
「ラディですか? おりますよ」
「おお、おりますか! 先日、ラディスラヴァさんが珍しい銃を手に入れたと、トミヤス様からお聞きしまして」
う! とラディの母は目を開く。
あの超高額な銃・・・
「あ、ああー! あれ、ですか・・・はい」
「私も若い頃は冒険者でして、銃を使っておりました。
よろしければ拝見したい、と思いまして、足を運んだ次第です」
「そうですか、では、呼んできましょう」
「お願いします」
店に並ぶ商品を見る。
ナイフ、剣、槍の穂先。いかにも冒険者向きの物ばかり。
どれも頑丈そうな作りだ。確かに、良い腕をしている。
刀は1本もない。
本当に、趣味で打った物だったのか・・・
「お待たせしました」
ラディが銃を背負って出て来た。
にこ、とマツモトが笑う。
「おお、ご無沙汰しております」
「この銃を見たいとか・・・」
「ええ。私の現役時代、銃を使う冒険者達では、この銃は皆の憧れの的でして。
もちろん、私もその1人でした。
それで、よろしければ、是非見せてもらいたいと。どうでしょうか」
「どうぞ」
肩から銃を下ろし、マツモトに差し出す。
「ありがとうございます」
手に持って、改めて驚く。軽い。
「ううむ・・・」
レバーを上げる。軽い。
ボルトを引く。軽い。
全てが軽い・・・
「素晴らしい・・・八十三式・・・素晴らしい出来だ」
「すぐそこの鉄砲屋に、射撃場があります」
「射撃場?」
「はい。弾代を払えば射たせてもらえます」
「撃っても良いのですか?」
「はい」
「なんと! では、お言葉に甘えて、試し撃ちさせて頂きます」
「ご満足するまで、撃って来て下さい」
「おお、そうだ」
す、とマツモトが懐から銃を取り出す。
「こちら、私が現役時代に使っておりました物。
礼の代わりに、と言ってはなんですが、良ければ撃ってみませんか?
もちろん、弾代は私が持ちますので」
短銃・・・
銃に興味を持ち始めたラディの好奇心が、さわさわとくすぐられる。
「ありがとうございます。ではお母様、出掛けて参ります」
「はーい。マツモト様、ラディをよろしくお願いします」
「それでは失礼します」
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