フェイタルフェイト15/31

 福祉事業団体フリーボートの仕事はいろいろと大変だ。

 

 毎日、宇宙船に乗って自由気ままな宇宙旅行と思っている人もいるのではないだろうか。

 かくいう私もそう思っていた……。

 だがそれは誤解である。


 例えば、活動レポートは毎日かならず提出しなければならない。

 それに何にお金を使ったのか、領収書はあるのか、結構大変なのだ。


 少しでもお金の使い方に嘘があると、国から監査をされるしで決して適当にやってはいけないのだ。


「……うーん、アイちゃん。この寿司屋の領収書。おかしくないか? 桁がちょっと多いというか……」


『マスター。本マグロの値段としてはそれ位が打倒です。まあ彼女たちはたくさん食べましたね。大将さんもニコニコでしたよ?』


「まじか……。確かにあの店は最高だったけど。個人的には遠慮したいかな」


『そうですね、庶民的な価格ではないのはたしかです』


「次は例の空飛ぶ寿司『スシペロー』にでも行きたいところだ。俺としては庶民派の寿司屋の方が気分的に良いしな」


「イチローさん、私はスシペローも好きですよ。子供の頃の外食だと一番好きでした。

 たくさん食べると小さなおもちゃのカプセルとかもらえたんですよ」


 ミシェルさんは領収書を数えながら返事をする。


「へぇ、なるほどね、それなら子供達を連れて行くのも楽しそうだ。アーススリーの子達、元気かな……」


 アマテラスのブリッジに静かな時間が流れる。


 …………。


 俺はふとモニターに目を移すと何か違和感を感じた。


「なあ、ミシェルさん、脳波パッシブセンサーだっけ? 反応が明らかに少ないような……というか20個しかないんだけど……あ、いま19個に減った!」


「おかしいですね。それほど調整はしてないんですけど……」


「ふむ、しかし、さっきは1000以上あったよね。明らかに脳波の数が減ってる。……うーん、アイちゃんとしてはどう思う?」


『マスター。これは……異常事態だと思います。過剰に表示されるなら誤作動と思われますが。明らかに……これは人間の数が減っています!』


 …………。


 緊急事態。


 つまり、地上で何かが起きた。危険を知らせる信号弾はない。

 それをする暇すらなかったのだろうか。


 その時、湖の方から煙が上がる。

 そう、あれはレッドドワーフの揚陸用舟艇が着陸していた場所。


「大変だ! アイちゃん、どうしよう! 彼等を助けないと」


『はい、まずは我々としてはフリーボート本部に状況報告を、そしてできるだけ安全を確保することですが。

 マスター……言い方は悪いですが、私としては彼等を見捨てて、アースイレブンから撤退を進言します。状況があまりにも不明ですので……』


 たしかに、アイちゃんとしては俺達の命が最優先だ。

 だが……。


「もちろん、そんなことできる訳が無いじゃないか。

 撤退するにしても何が起きているかは把握しないとだし、生きている人達もまだ居るんだ、助けられるなら助けたい。それにマードックさん達も居る」


『はい、マスターはそういうと思っていました。ですが我々は地上での任務を遂行できる装備がありません。福祉事業団体は警察でも軍隊でもないのですから』


 たしかに俺達は軍隊ではない。地上に降りるのはリスクでしかないだろう。

 それにこんな辺境の惑星、いくら超光速通信でも届くのに数日はかかるだろう。


 それゆえにアイちゃんはこの惑星から離れることを進言しているのだ。


 その時、倉庫から緊急通信が入る。サンバ君のようだ。


『ぐへへ、船長さん、話は聞きやしたぜ!

 こんなこともあろうかと、シースパイダーは陸上戦に特化した機体に進化したっすぜ!

 下手な戦車よりも頑丈っす。いえ、最新の装甲モジュールのおかげで現行の主力戦車並みに頑丈っすよ!』


 話を聞いていたのか……。

 いや、まあ基本的にはブリッジの音声は彼等にもフリーパスにしている。

 秘密の会議以外は常にそうしてはいるので聞こうと思えばいつでも聞けるのだが……。


「……しかし、本当にご都合主義だよな。だがサンバ君でかした!」


『ぐふふ、かつてのコジマ重工の創設者は言ったっす『こんなこともあろうかとに答える技術を!』つまり我々の技術はあらゆる不測の事態に対応することがモットーですぜ!』


 なるほど、それは頼もしい。

 さすがはコジマ重工。


 いや、この場面ではサンバ君の機転に感謝だ。


「よし、ならば俺は地上に降りる。アイちゃん、いいよね?」


『ふう、だめですと言っても意見は変わらないのでしょう?』


「そういうこと、でも無謀なことはしないよ。危なくなったら逃げるさ。俺だって死にたくないからな」


『はい、マスターの命はマスターだけの物ではありません。そのことを決して忘れないでくださいね』


「もちろんだ! 俺はヒーローになりたいなんて思ったことは……あったけど、それは子供の時だけだ。大丈夫、俺は大人だ!」


 そう、俺はヒーローじゃない。だけど人並みの感情はあるのだ。

 せめて親しくした人達を助けられるなら助けたい。ただそれだけだ。

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