フェイタルフェイト14/31
「うわー……ワイバーンのやつ、何羽食ったんだよ。えぐいなー。しかし空中でも捕食できるとは実に器用なやつだ……」
音は聞こえないが大型の翼竜、ワイバーン(仮)が獲物の羽を両手でむしる様子に、俺の脳内ではブシュル、ブシュルという効果音が補完された。
それくらいにリアルな野生動物の弱肉強食の世界に俺は釘付けだった。
『マスター、そろそろ三時のおやつの時間ですよ』
「おっと、もうそんな時間か。そういえば、いつもならミシェルンがお菓子とコーヒーを運んでくるはずなのに……」
おそらくはミシェルさんに付き合っているのだろう。あの二人は仲良しだからな。
一生懸命なのはいい傾向だが根を詰めてもしょうがない、そんな時は周りが支えないとな。
「よし、休憩にしよう。ミシェルさんは倉庫に居るよな」
『はい、そのようです。ミシェルン……調理ロボットだというのに仕事を放棄するとは感心しませんね、注意しましょうか?』
「いやいや、それはいいよ。おそらくミシェルさんに付きっきりなのだろうから。
こういう関係は尊重したい。技術者はチームワークがあってこそだ。
それに彼女たちは一生懸命で時間を忘れてるんだろう、だから俺みたいな暇な奴が休憩に誘うのが丁度いいのだよ。
ちょっと様子見がてらに声を掛けてくるよ」
ふむ、頭を使ったときは甘いチョコレートなんかがいいかもな。
そんなことを思いながら、倉庫に向かう。
扉が開くと、まるで工事現場の様な音が聞こえてきた。
『警告! そのデバイスは地上攻撃用の兵器を搭載しています。シースパーダーは海洋調査ロボットとして開発されました。
そのようなオプションパーツの装着についてはコジマ重工のコンプライアンス委員会において――』
「うるさいっす! 安全装置の解除コードを喰らうといいっす! ぐへへ、シースパイダーは大人しく俺っちの改造を受け入れるっすよ」
うーむ、なんか凄い場面に遭遇してしまった。
ロボットがロボットを改造するシーン。
いや工場でロボットが製品を作るのは昔から見ている。でも喋るロボット同士ってのはちょっとショッキングなだけだ。
ちなみにシースパイダーには人工知能が無い。あくまで機械といった位置づけだ。
オプションパーツはサードパーティー製でコジマ重工と提携している軍事会社が開発した物のようだった。
軍用品の使用感をレポートしてくれって無茶振りが過ぎるが、まあ使わなくても実際に装備して動かすだけでも充分レポートにはなるだろう。
「やあ皆、随分と精が出るなー。だが君達、もう三時だし休憩の時間だぞー」
「アイアイさーっす。でも俺っちはコジマ重工製の――」
「ベストセラーお掃除ロボットなんだろ? 休憩が必要ないのは分かるけど、まあ何事もほどほどにな。ところでミシェルさんは居るかい?」
シースパイダーのハッチが開き、中からミシェルさんが顔を出す。
「あ、はい、ここに居ます。でも調整に少し手こずっていまして……脳波パッシブセンサー、ミシェルンちゃんと一緒に調整してるんですけど。
人間と他の生物との脳波の識別が上手く行かないんですよ。いえ、識別自体は出来ているんですけど。
地上のデータとの整合性が取れなくてですね。うーん、何がいけないんだろう……」
「そうなのですー。脳波パッシブセンサーは問題ないはずですー。もう、地上にいる知的生命体は千人でいいと思うのですー」
「おいおい、ミシェルン。やっつけ仕事はよくないぞ、地上にいる人間は百人だよ。
実は恐竜は人間並みに頭がいいってんなら話は別だけどな。
それよりミシェルさん、休憩時間ですよ。おやつを食べましょう、ミシェルン準備よろしく!」
「はいですー。今日は準備が出来ませんでしたので作り置きで申し訳ないですが、チョコレートのバームクーヘンでどうですー?」
「お! いいね、そういうので良いんだよ。頭を休めるには甘いお菓子に苦いコーヒーこそが至高なのだ。
じゃあブリッジまで運んでくれ。
ちなみにミシェルさん、約束したよね。ちゃんと休憩は取ることって」
「……はい、ごめんなさい」
◇◇◇
うーん甘い、このバームクーヘンは脳に突き刺すような甘さがある。
これが本場ヨーロッパ基準なのか……よく分からないが濃く抽出されたエスプレッソの苦味と相まってこれはこれでよい。
疲れが一気に吹き飛ぶようだ。
「しかし、驚いたよ。ミシェルさんはロボットに興味があるようだね。将来は科学者になりたいのかい?」
「いいえ、そこまで具体的な事は考えてないですし。高校中退の私だと大学進学は無理かなと……それに私は前科がありますし」
「いや、それは関係ないよ。ミシェルさんは裁判の結果、ボランティア活動をすることで罪は無くなるんだ。だからここでの活動が終わったら次を考えなきゃいけないんだよ」
そう、人間誰でもやり直すことができる。もっともそれは理想論で、そうではない事例もあることは知ってる。
でもミシェルさんなら、やり直すことは絶対にできると俺は確信している。
「そうですね……。ロボットは好きです。ミシェルンちゃんとも仲良くなれたし、専門的に勉強すればもっと仲良くなれるかも……」
「うん、その通りだ。もし、その気があるなら俺はミシェルさんの支援を約束するよ」
『はい、スズキ財団は大学へ多額の支援金を毎年おこなっております。その血縁者であるマスターが推薦すれば、ほぼフリーパスでしょう』
「おいおい、まるで俺が裏口入学をあっせんしてるみたいだぞ! もちろんミシェルさんの学力が一定基準に達しているのが条件だけどね」
まあ、俺としては裏口だろうが協力できるなら何でもするつもりだがな。
『うふふ、ということです。お勉強頑張ってくださいね。ちなみに理系女子はモテモテらしいので頑張ったら頑張っただけの恩恵はあると思いますよ?』
「あ、そういうのは興味がないです……。でも勉強は頑張ります!」
ミシェルさんの表情は分かりやすかった。
彼女はこれからの未来に向けて希望を見出したのだろう。
福祉事業の喜びとはまさにこれなのだ。
うん、俺だって確かに頑張っていると、そう実感できる瞬間だ。
『……さてと、マスターはこれからお仕事ですよ? 溜まってた報告書の作成をしないといけません』
「お、おう。そうだったな。地上の監視はミシェルさんにお願いしようかな」
「はい! 了解しました!」
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