第十八話 フェイタルフェイト
フェイタルフェイト1/31
アマテラス貨物搬入デッキにて……。
「こんな宇宙の果てだと言うのに毎度ご苦労様です」
「いえいえ、仕事ですから!」
そう言うと爽やかな笑顔を残し『シロネコムサシ』の配達員のお兄さんは一礼すると、再び超光速輸送船に乗り混み一瞬で宇宙の彼方に消えた。
やはり大手運送会社はいつの時代も配送が早いし便利だ。シェアを獲得するにはやはりこのスピード感が肝なんだろうな。
そう、先日、宇宙ステーション『クロノス』で買った特注アンドロイドが完成したとのメールを受けての翌日配送である。
小型の民間船ながらも超光速輸送船のスピードはアマテラスの最大戦速並みだといえるだろう。
「船長さん! 荷物ですかい! 俺っちが船長室に運搬しておくっす!」
「おう、サンバ君たのんだぜ。……しかしタイミングが悪いよな。今は団体客で忙しいし、開封の儀は当分お預けかな……」
蜘蛛型お掃除ロボットのサンバはマニピュレーターを器用に動かしながらコンテナを分解する。
しかし宇宙仕様のコンテナはいつも過剰梱包だよな。現物よりも緩衝材の方が大きいんじゃないだろうか。
まあ、お掃除ロボットのサンバは過剰梱包された貨物の分解作業が好きなようだが。
俺としてもガチガチに梱包されたコンテナを、鼻歌を歌いながら解いていくサンバを見るのは楽しい。
「……しかし船長さん。
こんな、いかにもアンドロイドが一体入ってそうな棺桶の中身が、品目『パソコン部品』って無理がありますぜ?」
緩衝材を全て取り除くと、人が一人、入れそうな棺桶の様な内箱が出てきた。
サンバが内箱を棺桶といったのは、黒い箱にパッケージデザインなどが一切無く、ただ小さくパソコン部品と書かれているからだ。
店長さんの気遣いなのだろうか……。
だが、それはバレバレだ。
ミシェルさんが居なくてよかった。見え見えの隠ぺい工作……余計に説明できないからな。
「……ふっ、そう言うなよ。何事も様式美ってやつさ……。
それにパソコン部品といっても、そこまで嘘って訳でもないないだろ? ほら、起動前は脆弱って書いてあるから慎重に運搬たのむぜ!」
「アイアイサーっす!」
サンバが『パソコン部品』と書かれた内箱を持ち上げようとした瞬間。
船内スピーカーからお馴染みの間の抜けた声が響く。
『船長さーん。そろそろ戻ってきてくださいですー。今日は歓迎会のパーティーですので、船長さんの挨拶が無いと始まらないですー』
「ふむ、ミシェルンの料理が出来たか。ご苦労さん、すぐに行くよ」
今日は豪華な立食パーティーだ。
今回のアマテラスのお客は団体さんだしな……。
そう、久しぶりに大人の団体さんだ。
宿泊施設には余裕があるが普段は静かなこの船がいつもよりも騒がしい。
彼等はお酒も飲むし、これから大変だな……。
もっとも実作業はサンバとミシェルンが行うが……それでも精神的に大変なのだ。
俺は宿泊施設の大フロアに入ると、待ちかねたとばかりに100名程の大人の男性たちの視線が俺に移る。
見渡す限り女性はいないようだ。
まあ、結構過激派だと聞くし、腕っぷしの良い男達しか居ないのだろう。
大学生のコンパではないのだ。
「おいおいなんだよ、この船の船長さんは兄ちゃんか……。アマテラスって聞いてたから、てっきりべっぴんさんの女船長を想像してたぜ! がっはっは」
いきなり声のデカい中年のおっさんが失礼な事を言ってきた。
その風貌はスキンヘッドに黒い眼帯。
片方の目は鋭い。まるでファンタジー世界の盗賊のお頭ってかんじだ。
ギザギザノースリーブから覗く上腕は筋骨隆々。
そしてギザギザノースリーブの胸元には赤色のドワーフをモチーフにしたワッペンが縫い付けられている。
他のメンバーはデザインこそ同じだが普通に長袖である。
おそらくギザギザノースリーブはリーダーにのみ許された伝統的なファッションなのだろう。
色々突っ込みたいが、まあ似合ってるから良しとしよう。怖いし……。
――自然保護団体『レッドドワーフ』
彼等は自然を愛する暴りょく……いや、情熱的な人達だ。
俺の時代にも似たような団体はいたが、やはりこの時代にもいる。
千年は長いようで短い、生物が大きく進化するには数万年が必要なのだろう。
まあ、ちょっと世間に迷惑は掛けるけど、その情熱は本物の熱い奴らだ……。
それに彼らの大枠の理念は正しい。
俺達、福祉事業団体としては彼等の様な非政府組織は積極的に助けなければならないのだ。
彼らはギリギリだが犯罪組織ではない。
それに彼等と敵対しているのは利益の為に自然を破壊する輩で、間違いなく犯罪者である。
現状、宇宙をまたにかける密猟者に対抗するために軍隊を出動させるのは議会の承認が必要だしコストがかかる。
警察は地域の治安を維持するのが目的である為、管轄外である。
だから彼らのような自由な武装組織が現在も存在するのである。
今回の俺達の仕事は彼等『レッドドワーフ』の送迎任務である。
彼等は長距離恒星間航行が出来る船を持っていない。
彼等の活動は大気圏内にあるためだ。
よって、彼等の持つ惑星探査船や車両、人員を運び、宇宙での活動を快適に支援するのが今回の俺達の仕事である。
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