サターン12/13
ズズズーッ!
ストローからコーラを吸い込む。
「うーん、久しぶりに飲んだが、昔から変わらない味ってあるよな」
やはりあれだな、ホットドッグにはコーラが合う。
アメリカの偉大な発明品の一つと言ってもいいかもしれない。
「しかし、ほんと長いよな。そろそろ一時間だぜ? ……全然終わる気配がない。
今どんな感じなんだ? サガ兄弟、説明たのむぜ!」
彼等は難しい話を分かりやすく解説してくれる。
さすがはオタクサークルのリーダーなだけはある。
「そうでござるな。今の司令官殿の話は、紆余曲折を得て無事に予算の承認が下りた事。
あとは、開発中だった、スーパータキオンエンジンの納期が遅れに遅れて計画の練り直しになったことなど、……話に熱がこもっているでござるな。
聞いてるこちらも目頭が熱くなるでござる」
ソウジ君はそう言うと、サンドウィッチを一つ摘まみ口に放り込む。
今度はセイジ君の番だ、会話のバトンタッチ。双子とはこうも便利なのか。
いや、全ての双子が仲がいいとは限らないし、こいつらが特別なのだろう。
国民的仲良し姉妹と言われていた、ナマカナも実は……ってこともあったくらいだしな。
あ、そう言えば、こいつらエロ漫画の表現規制で言い争ってたな。サークルを二分してまで……。
まあ仲直りしてよかった。これもクリステルさんのおかげだな。
セイジの話は続く。
「スーパータキオンエンジンの開発の遅れ、これは致命的でした。
搭載兵器の遅れならば代用はいくらでも効きます。
しかし、船の心臓部であるエンジンの遅延は計画全体の見直しを要するほどに致命的でした。
ちなみに妥協案として、現行のタキオンエンジンを複数個連結させることでギリギリ要求仕様の推力を確保したのが、ジアース級の一番艦ジアース。
続いて同型艦であるマーキュリー、ヴィーナス、マーズ、ジュピターが建造されました」
「まったくお笑いでござる。計画通りにできないなら白紙に戻せばよかったのでござる。
スーパータキオンエンジンの積んでない宇宙戦艦など所詮は旧式。
最新技術で旧式戦艦を作ってしまったと、我々の業界では笑い話でござる」
どの業界だよ……おっと、ミリオタ業界か。
セイジ君は兄のソウジ君にバトンタッチ。
飲みにくそうなストロー、セイジ君は無重力仕様のドリンクパックからアイスティーをチュウチュウとすする。
当然だがここには重力がある。
大事なカメラに水滴がこぼれるのが嫌だと言ったが。まあ、遊びというかオタクのこだわりがそこにはあるのだろう。
「紆余曲折を経て、ついに六番艦のサターンからは完成予定のスーパータキオンエンジンが搭載されるはずでござった……」
「ござった? ああ、なるほどね。エンジンが完成しなかったから七番艦、八番艦が先に完成して、この六番艦が最後になったんだな」
「そうでござる、スーパータキオンエンジン搭載を見越して設計されていた六番艦サターンの船体はほぼほぼ完成していた為、建造は延期。
まだまだ変更の余地がある七番艦ウラヌスや、八番艦ネプチューンは計画を変更し現行エンジンで完成にこぎつけたってところでござる」
「なるほどねー。なら開発中止とまでは言わないけど、せめて七番艦と八番艦は延期すればよかったじゃん。
サガ兄弟が言う旧式戦艦ってのを作り続けても意味ないでしょ? アイちゃん。先輩としてはどう思う?」
『そうですね。戦力的には疑問は残りますが。
もし中止してしまったら。ジアース級戦艦の規模からして……そうですね。
納品できないとなると造船会社としてはとんでもない負債を抱えてしまいますね。下手したら倒産とか。
それに、装備や内装品などの関連メーカーも同じく損害を被るでしょう。
おそらくですが、ギリギリだったんじゃないでしょうか?』
「ふむ、なるほどね。経済的な事情が絡むと、妙にチグハグな開発状況に納得がいく。
あ、そういえばこの前、オーストラリアに行ったじゃん。
たしか、そこにはスーパータキオンエンジンの実験艦があったし。
なるほど、つまり、ようやく開発に成功したってことだな」
『はい、タイミング的には合いますね』
「そうでござる。このジアース級六番艦、サターンこそが唯一のスーパータキオンエンジンの搭載艦として、計画から100年。
ついに完全体として完成したのでござるよ!」
「あー、なるほど。だから竣工式がこんなに盛大なんだ。
このお祭り騒ぎにも納得だ」
…………。
【タチバナ司令官。ありがとうございました。
少し長い話でしたね。ですが100年の紆余曲折した開発計画を一時間程にまとめてくれました。
さて、硬い話で皆さますっかり疲れてしまったでしょう。
でも、ご安心ください。
戦艦サターンのイメージキャラである『サターンちゃん』の絵を描いてくれました、 フレッシュな二人の賞状授与式に移ります――】
おや、ついに校長先生の長すぎる話が終わったか。
俺は一時間ぶりにステージに目を向ける。
「おっ! ギャルコンビの登場だ、ミシェルンさん。起きてる?」
「……あ! はい。コーヒーを頂きましたので何とか……」
ミシェルさんはたぶん寝ていた。
まあ、あの長話だから何も言うまい。
女子高生の二人組、シズカとシズネはステージの中央にいた。
先ほどの校長先生、いや、タチバナ司令官だっけ。その人が、賞状を読み上げる。
今回は短い、一分と経たなかった。
シズカは賞状を受け取ると一礼する。
次に『サターンちゃん』という二人がデザインしたマスコットキャラの着ぐるみがトロフィーをシズネに授与する。
拍手喝采。
「うふふ、二人とも体に針金が入ってるみたい。緊張してるんだね……」
ミシェルさんはひと際大きな拍手をする。
【ありがとうございました。さて、サンジョウ・シズカさん、カスガ・シズネさん。
今のお気持ちはどうですか?】
司会の人からマイクを渡される二人。
【あ、あー。アタシ。その、小学生のときにこの絵を描いたって言うか。その時の記憶は具体的にはないんですけどー。
その、嬉しいです。光栄です。だよね、シズネッチ】
【ちょ、ちょっと。シズカちゃん、打ち合わせと違うって。もっと話すこと考えてたでしょ】
【あはは、ごめーん、忘れちゃったー。でも司令官さんがこれでもかって位に話してくれたし、アタシたちの話はどうでもいいかなーって。
あ、でもサターンちゃんの絵を描いたときは何も考えてなかったけど、今こうしてその船に乗るの色んな人の思いがあるんだなーって。
ちょっとわかっちゃったかも?】
【シズカちゃん、そこ疑問形じゃないでしょ。ああ、私、ツッコミみたいになってる。恥ずかしい……】
会場は先ほどの静けさとは打って変わり、大爆笑の渦。
……やるな、先程までのお堅い話の拷問で、お通夜状態だった会場にこれは効く。
癒しの効果は絶大だ。
さすがはギャルと言わざるを得ないか……。
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