サターン11/13

 長話になるため、自然と会場もその準備に入る。

 キリリとした将校たちは立ったままだ、軍人たる者はこうでないと。

 俺は素直に感心した。


 二人の女子高生には椅子と飲み物が用意された。


 軍人たちは立ったままだ。まあそれも仕事だ、頑張れ。

 俺だって仕事ならそうする。


 だが、今回の俺はオフだ。休暇で来ているので付き合う理由は無い。 

 それに、午前中は買い物で何も食べていないしな。


 俺はボックス席に用意されたフカフカの椅子に座る。

 座り心地がとてもいい。


 少しリラックスしたのか俺のお腹からグゥ―っと音が鳴る。


 ……そう言えば、昼飯を食べていなかったな。

 腹が減っては何とやらだ。


「そうだ、アイちゃん、ここはVIP席だろ?

 なんか飲み物とか軽い食べ物くらいは出るはずだよね?」


『はい、もちろんです。ファーストフードになってしまいますが大抵のものはありますね』


「それでよし、ジャンクフードもこういったイベントなら美味しく感じるものだ。

 俺はホットドッグをたのむ。野菜マシマシ、ケチャップマスタードはからめで。あと、飲み物はコーラ。

 ミシェルさんはどうする?」


「私は先ほどアイスクリームを頂きましたので、暖かいコーヒーをお願いします」


「了解。おーい! サガ兄弟、何か食いたいものでもあるか?

 俺の買い物に付き合わせてしまったから何も食ってないだろ? 遠慮なく言ってくれ、プラチナチケットだからタダだぞ?」


「ならば、拙者はサンドウィッチで。カメラが汚れると嫌なので具はハムとチーズのみでお願いするでござる」

「私も同じもので、一口で食べれるように小さくカットしてください。ドリンクはアイスティーで、こぼれないように無重力仕様のストローでお願いします」


「お、おう。……忙しそうだな」


 サガ兄弟は、さっきから写真撮影で忙しい。


 彼らは自慢のカメラをとても大切に扱っているようだ。

 うん、オタクだな。感心感心。


 さっそく料理が届く。

 五分と待たなかった。さすがはファーストフード。


 だがそれだけではない、ここは3024年の最新鋭の宇宙戦艦の中なのだ。

 ファーストフードとて馬鹿にできない。


 テーブルに運ばれたそれは、蒸されたフカフカのパンにパリッとした焼き目のソーセージが挟まれたホットドッグ。

 そして新鮮なキャベツ、オニオン、レタスにパプリカ、色とりどりの野菜にかかったケチャップとマスタード。


 実に美味そうだ。さすがはプラチナ会員と言ったところだ。ファーストフードだけどジャンクではないのだ。


 同時に、綺麗に小さくカットされたサンドウィッチもテーブルに運ばれる。

 サガ兄弟用である。


「おーい、サガ兄弟。飯が来たぞー! 少し休憩だ」


 ずっと写真を撮っていたサガ兄弟だが、俺の声に撮影を中断する。


「ふう、あらかた主要メンバーのアップは取れたでござるな、セイジ、動画はばっちりか?」

「ふ、僕を誰だと思っているのですか? もちろん完璧ですよ」


 どうやら、兄のソウジが写真担当。弟のセイジが動画担当らしい。

 ちなみに、動画撮影中の俺達の会話は問題ないらしい。

 まあ、その辺は消しゴムマジック的な機能でもあるのだろう。

 いいカメラっぽいし。


「とりあえず飯でも食おう。……そういえば君達は軍事にも明るそうだな? ちょっと、今、話してる内容が頭に入らないんだが、分かりやすく解説してくれると嬉しいんだが?」


 そう、俺は艦隊司令官のスピーチが全く理解できなかった。

 専門用語が多すぎて何を言っているか分からない。


 こういう時はオタクに聞くのが一番だ。


「了解でござる。まずはジアース級の建造目的についてでござるか」


 俺は、野菜マシマシなホットドッグを頬張りながら彼らの話を聞く。


「かつて宇宙最強と言われた、全長1キロメートルの宇宙戦艦の代表であるアマテラス級戦艦。

 しかし、突如現れた宇宙怪獣であるスパモン相手には無力でござった……」


「兄さん、スパモンじゃないよ、『X01-ボイド』って正式名称で言わないと」


「セイジ、それはどうでもいい。海外のギーク達はスパモンと言っているのだ、それに敬意を払うべきでござる。

 まあ、名前はどうでもいいでござるが、ボイドとやらを倒せる超アマテラス級戦艦、つまり超ア級戦艦建造計画としてジアース級戦艦が建造されたのでござる」


 …………。


 なるほどな。さすがオタク、分かりやすい。


 だが疑問もある。


「そう言えば、そのスパモン、ボイドって奴が現れたのは100年以上前の話だろ? ちょっと時間が開き過ぎじゃね?」


 ソウジ君はサンドウィッチを口に運んでいたので、俺の質問に答えたのは弟のセイジだった。


「ふ、おっしゃる通り。まあ僕達はただのオタクなので正確かどうかは分かりませんが。

 それこそ100年前の話ですが、随分と軍部と議会が揉めたようですね。

 ボイドが次に現れる保障もないのに膨大な予算を出して良いのか、陰謀ではないか……などなど、予算委員会で捻じれに捻じれたそうですね」


 セイジはそう言いながら、サンドウィッチを片手に固定カメラを確認している。

 相変わらず、司令官のスピーチは続いている。


 俺はステージ脇に座っている女子高生二人を確認する。


 うむ、リラックスしているようで何よりだ。

 我関せずと、お付きの女性士官と女子会の様なムーブだ。


 さすがはギャル。校長先生の長話耐性スキルはカンストしているようだな。

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