サターン9/13
「ミシェルさーん! 一緒に写真とりましょう! ほら、ちょうど窓から土星が見えるし? 土星をバックにダブルピースとか良い感じっしょ!」
ギャルの女子高生、サンジョウ・シズカはリアルな土星が見えるカフェではしゃぐ。
「シズカちゃん。お店の中ではしゃぎすぎだよ。……恥ずかしい。
これじゃ田舎者丸出しだよ……」
そう答えるのは同級生のカスガ・シズネ。ちなみに彼女はギャルではない。
少なくとも自分はそうは思っていない。やや引っ込み思案だが、普通の女子高生と思っている。
二人は小学生からの親友である。
以前、ネットゲーム『ヘルゲート・アヴァロン』をプレイしていた頃に、トラブルに巻き込まれた際、伝説のランカー、ミシェルに助けられたのだ。
以来ゲームとはいえ、かなりの時間をお世話になったし、ユーザー比率では少なめな、同じ女性プレイヤーということですっかり意気投合したのだった。
もちろん、それは彼女たちの勝手な思い込みかもしれない。だが、実際にミシェルに会ってみて、彼女たちは思い込みではないことが分かった。
「もう、しょうがないなー。シズカちゃん、一緒に写真撮るから、もう少し声を抑えよ? ギャルはうるさいっていう評判が広まったら駄目だよ」
「えへへー。ミシェルさんに怒られちゃった。
っていうか、懐かしいねー。ゲームと同じだね、私達初心者だったからさ、こうして色々教えてもらったよねー。シズネッチなんかは特にねー」
「もう、シズカちゃん。その話はしないでよー。でもミシェルさん……ほんとによかった。ぐすん」
「わー、待った待った! シズネッチ。
泣くのはいいけど、せめて写真撮ってからにして。泣き顔ダブルピースは色々とだめだって!」
『はい、そうですね。シズネ様。泣き顔ダブルピースは色々と誤解を招きます。自重して下さい』
突如現れるホログラム。アマテラスのAI、アイであった。
「わっ! びっくりしました。アイさん。どうされたんですか? イチローさんと一緒にいたと思ったんですが……」
ミシェルの問いに、アイは答える。
『どうやら、マスターは電波の届かないエリアに侵入してしまいまして。困りましたねぇ……』
「事件ですか? 大変です! 警察に連絡を……」
『いいえ、事件ではないです。
しかし、男性だけで、パソコン部品やアンドロイドが売っているショップに入るのはどうかと思いまして……少し心配ではあります。
私という者がありながら……』
「あっ! それって、絶対エッチなやつっしょ! パソコン部品とアンドロイドって、それは自白してるようなもんだし?
それにあのオタク兄弟が同伴してるってことは間違いない! きっと高額なダッチ〇イフを買うに違いない!」
ギャルのシズカは興味があるのか声高に言う。
「ちょ! シズカちゃん! 声が大きいって! でもダッチワイフって何? 普通のアンドロイドとは何か違うの?」
ギャルではないシズカの友達、シズネは友達のはしたない言動を止めようとするが墓穴を掘る。
『うふふ。シズネ様も充分声が大きいですよ? それに乙女が言っていい言葉ではありませんね。
周りの人達の視線が若干こちらに向いているようです。
……まあ、それは置いといて、お写真を撮るんですよね?
カメラはお持ちですか? 私が撮りましょうか?』
「あー、カメラはないんだけどねー、この携帯端末で……。正直、オタク兄弟のカメラは凄かったからさ、こんなのだとダサいっしょ」
シズカは汎用携帯デバイスのカメラ機能で記念撮影をしようとしていた。
『まあ、たしかに、サガ兄弟様が持っていたのは最新のアナログカメラでしたね。さすがにアレの解像度には及びませんが。
せっかく霊子通信容量無制限ですので、ここは頑張ってみましょう』
「あの、アイさん、ホログラムは物は持てませんよね? 写真とか取れるんですか?」
『はい、もちろん物は持てません。ですので霊子通信カメラを使います。
クロノス監視用のシステムの一部ですが。記念撮影にも使えるのですよ。
もちろん、一般のチケットだと追加料金がかかりますが、容量無制限ですのでご安心を。
では皆さん並んで下さい。土星が中心でよろしいですか?』
「あ! はーい! アイさんお願いします! ミシェルさんはセンターで、シズネッチ! カニのポーズだよ!」
「えー、シズカちゃん。小学生みたいじゃん。私達高校生だよ?」
「いいっていいって。私達の思い出はカニにあり! カニはアーススリーの名産品だよ?
それに、ほらゲームでもいたじゃん。凶悪な即死カニモンスター。ですーとデスで韻を踏む謎のユニークボスとか」
「うーん、そうだね。でも、真面目な写真も取ろうよ。
あのー、アイさん。何回か撮ってもらってもいいですか?」
『はい、シズネ様、もちろんです、では行きますよー! はい、チーズッ!』
…………。
……。
いろんなポーズで写真を撮る三人。
途中からアイも混ざって四人で撮ることもあった。
記念撮影を終えると今度はパフェやアイスなどのスイーツを撮影。
彼女たちの談笑は止まらなかった。
終始笑顔で会話するセーラー服の少女たち。
『ところで、お二方、お時間はよろしいのですか? 式典まであと一時間ですが』
「あ、いっけなーい! シズカちゃん。急がないと!」
「げ、マジ? しまった、映えを優先してまだ半分しか食べれてない!」
シズカが注文したのは期間限定メニュー『サターンパフェ』。
巨大なアイスクリームの球体に土星の環をもしたバームクーヘンが乗っかった見た目重視で食べにくい形状。
だがアイスクリームにはキャラメルやチョコレートでガス状惑星の模様がリアルに描かれており、見た目以外に味も大変良いのだ。
「もう、遅刻しちゃう方が大変だよ! パフェはまた後でゆっくり食べようよ!」
シズカは名残惜しいのか、アイスクリームを一周しているバームクーヘンを少しちぎると、一気に口に押し込んだ。
「ちょっと、シズカちゃん行儀悪い!」
「もぐもぐ……ん。ごくっ……ふう、大丈夫。この場にパパやママはいない。シズネッチが黙ってれば何も問題ないのだ!
じゃ、ミシェルさん。私達授賞式でちょっとだけ挨拶するから見ててよね! じゃあ、また後でー!」
シズカとシズネは急いで、戦艦サターンから近いゲートへと走っていった。
『うふふ、元気ですね。さて、ミシェル様、我々もマスター達と合流しましょう』
ミシェルは二人の後ろ姿を見ながら、少し目に涙を溜めながら言った。
「うん、ありがとう。私、イチローさんになんてお礼を言ったらいいか……」
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