サターン8/13

 サガ兄弟に案内され、俺達は商業区画から三次元エレベーターに乗ること数分。


 フロアは違えど、ここも商業区画のようだ。

 さすがは巨大宇宙ステーションクロノスだ。


 たかが直径20キロメートルとて馬鹿にはできない。

 船と違って球状の宇宙ステーション、その容積は半端ではないのだ。

 人口100万人といえばその規模は分かるだろう。


 途中、エレベーターの窓から畑とか牧場が見えたし、ある程度の自給自足は可能のようだ。

 

「到着でござる! ようこそ我らアナザーディメンション第二の聖地へ!」


 ご機嫌のソウジ君に案内されるがままエレベーターを降りる。


 ……人通りの少ない場所だ、それになぜか陰気臭い、というか謎の薄気味悪さがある。


 もちろんゴーストタウンではない、人はまばらだが確かにいる。

 そう、地方都市の商店街程度の人通りはあるのだが、この薄気味悪さ……。

 

 俺はその理由がすぐに分かった、おそらくここにいる人達は全員オタクなのだ。

 しかもライト層では無くかなりディープよりの……。



【ネオ・アキハバラ。クロノス本店へようこそ。

 パソコン部品。アニメ・ミリタリーグッズ。アンドロイド。アダルトグッズ等。中古買取OK】


 看板にはそう書かれていた。


 懐かしい感じだ。

 そう、ここはかつてアキハバラにあった、ちょっとだけマニアックな家電量販店を思わせたのだ。


 どうやらここが目的地らしい。


 サガ兄弟は早速店内に入る。

 俺達もその後を続く。


 様々なオタクグッズが店内に綺麗に並んでいる。

 ここなら一日中時間を潰せるだろう。ほんとうに懐かしい……古き良きアキハバラだ。


 だが、サガ兄弟はそれらに目もくれず一直線で店の奥に進む。


「先輩! お久しぶりでござる!」

「先輩、お久しぶりですね」


 サガ兄弟はお店の奥のカウンターに向かって大きな声で挨拶をする。

 レジ? という訳ではないのだろうが、それっぽい構造のカウンターの奥から一人の男性が現れた。


「おう、サガ兄弟か! 久しぶりだな。さては戦艦サターンの竣工式を見に来たな?

 さすがはアナザーディメンションのリーダーだな、感心感心。

 オタクたる者、ミリタリーは必修科目よ。

 昔の偉い人は言った。軍艦は美少女でもあるのだと!」


 また強烈なキャラ登場だ。


 だが外見は普通のおっちゃんだ。ワイシャツにスラックスで、お店のロゴの入ったエプロンをつけている。


 これもなつかしい、いかにもアニメショップ店長って感じだな。 


 そのアニメ店長さんは俺に向けていった。

「おう、あんた。ホログラムでオタクに扮しているな。スパイは嫌いだぜ? それに隣のお嬢ちゃんもな」


 なに? 一瞬で俺達のホログラムを見抜いただと?


『ああ、霊子通信障害ですね。ここは通信環境が良くありません。マスターご武運を……』


 ババババ。俺のホログラムの服は消失。

 アイちゃんもホログラムを維持できずに消えてしまった。


「なに! まさか。ここはっ!」 


 くそっ。騙されたのか。通信が効かないこの状況では俺はあまりにも無防備だ。


「ああ、その通りさ……。

 ふっ、ここはクロノス居住区の中では霊子通信が入らない唯一のエリアだ。

 故に土地代が安い、お客さんも少ないがな……」


 え? それだけ? 


「まあ、もともとマニアックなお客向け故、何も問題は無いがな。

 にしても兄ちゃん、良い洋服着てるな、……うん? おいサガ兄弟! このお方はなぜここに来ている?」


 お方? 言い方が変わった。ああ、なるほどオタクファッションが解けたら、高そうなスーツを着ていたので当然の反応か。


「……先輩。相変わらずケチですね。電波の届く場所に移ればいいのに……。

 おっとそれはそれとして、こちらはイチロー殿でござる。

 ぜひとも真のサターンちゃん。アンドロイドの『ファイアフライ』をぜひ見たいってことでござる。

 拙者たちの仲間でござるよ」


「そうですよ、以前お話したじゃないですか、聖女クリステル様の従弟のイチロー・スズキ殿ですよ」


「おう、確かにそんなこと言ってたな。お前ら兄弟の変態トークに真顔で、しかも論理的に会話してくれた金髪の聖女様だったけか。

 てっきり、ファンタジーかと思ったが……。

 ふむ、なるほどね、金は持ってそう。冷やかしって訳でもなさそうだし。よし、良いだろう。

 ならば、店の奥へ。くれぐれも他言無用で。これは我らの秘密ってことでお願いしますぜ?

 その分、オプションパーツはサービスしますんでね。おっと、自己紹介が遅れました。俺はネオ・アキハバラ社長兼店長のエイタ・ホリだ」


「あ、これはご丁寧に、確かポケットに名刺が……」


「おっと、お客さん。名刺交換はご遠慮願えませんか? お客さんの個人情報は知りたくないんですぜ」


 ホリ店長はそう言う、確かにな。アングラっぽいしこれは俺が悪かった。


「まあ、さすがにお客さんが何者かは想像はつきますが……。想像まででとどめさせてくださいよ」


「なるほど、了解しました。では俺は今日はただのオタクってことでよろしく」


「おう、で『ファイアフライ』がご所望と言う事ですな。ぜひ見てってください。

 まあ、もともと趣味で作ってたんですがね。こうして見込みのあるお客さんには特別に納品してるんですよ」


 趣味でアンドロイド製作。今のメカオタクはここまで来ているのか。


 いや、それこそ千年前からメカオタクの夢は美少女アンドロイドを作ることだった。

 この時代で実を結んだと言えば、なんだかいい話に聞こえるな。


「イチロー殿、安心するでござる。先輩はこう見えて、MITで電脳アンドロイド工学で博士号を取得しているでござる」


「そうです。ワンオフなので値段は高いですが、超ハイスペックですのでご安心を」


 ふむ、なるほどな。ハイスペックならば、この前のクラゲ事件のような失態はないだろうか。


「ホリ店長。相談なんですが、カスタムとかできますか? 例えばハッキング対策とか……」


「おう、もちろん! だがハッキング対策は当然しているが……。ふむ、それじゃ物足りないようだな。よし、早速、仕様について打ち合わせをしようじゃないか。

 俺はアンドロイドに関しては天才だし、MITでは戦闘用アンドロイドの開発にも関わっていた。

 なんでも言ってくれ、ワイヤーソー・アサルトシステムとか、隠し腕マシンガンにグレネード。……あとアダルトパーツとかな!」


 ニッコリと笑うホリ店長。好きな話題には饒舌になるものだ。

 だが最後のは聞かなかったことにする。

 ……興味はあるが、今回の目的はそうじゃない。


 そう、アイちゃんにはもう一度アンドロイドとして、俺と一緒に外の世界を歩いてほしいのだ。


 その為なら多少お金がかかってもである。


 もちろん費用は俺の貯金から出す。それでなければプレゼントにはならないしな。

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