シンドローム26/27

「スズキさん、当面はガトリング砲のみででいきましょう。

 リッチ程度なら数十発で余裕ですし。それにボス戦にはアロンダイトを使った便利な攻略法もありますので。

 ちなみにヤタガラスは詳しくありません。ダンジョンで使った場合はどうなりますか?」


 たしかに、ヤタガラスは上空に向けてミサイルを垂直発射する武器だ。

 普通に考えれば天井にぶつかって自爆してしまうなんて間抜けなことになるよな。


「えっと、ヤタガラス起動。

 ……うん? やはりダンジョン内では使用不可能って表示と、迷路みたいなマップが見えるな。

 あ! なるほど、この武器、ダンジョンだとたしかに使用不可能だけど、全体マップが確認できるぞ! 結構便利アイテムかも」


 ヤタガラスのターゲット画面である遥か上空の視点から、直下の地表、つまりダンジョンの天井をスルーし、このダンジョンの全体像、及び味方の居る場所からボスモンスターまで全て見通せてしまった。


 当然、ヤタガラス自体は使用不可能と表示されているため、ロックオンはできない。

 普通のプレイヤーならそんな使えない装備は事前に外して最適装備を付けてくるはず、だから誰も気付かなかったのだろう。


 ちなみに俺はオプション装備はこれしか持ってない。

 オプション装備はいずれもレア装備のカテゴリーであるので、手持ちがこれしかないのだ……。


 ステータスアップの効果は多少あるとしてもダンジョン内では使えない装備。

 だがどうだ、それ以上に広大な迷路ではチート級の価値があるといえるのではないだろうか。

 ダンジョン最短攻略に革命をもたらす大発見。

 そう、俺は廃人ゲーマー達にどやれるレベルの大発見をしてしまったのでは?


 ……いやまて、 冷静になれ。

 今、俺はまさにミイラ取りがミイラに……をロールプレイをするところだった。


 俺の仕事の重大さを忘れてはならない。

 比喩でもなんでもなく、まさに目の前の人の命が掛かっているのだから。


「インフィさん、ここから……そうですね。北側に向かって通路を歩いて、数フロア先にボスモンスターが居ました。

 ちなみにアイちゃん達は全員無事ですね。

 まあスサノオさんがいるんだから当然でしょうが。確実にボスが居る方角に向かっています。

 ヤタガラスは実はダンジョンでこそ最適な装備かもしれませんね」


「スズキさん、それは大発見ですね。新しい攻略方法です。

 ダンジョン探索型のマップでは使用不可能のミサイルロックオンシステムがまさかのチートの性能を持っているとは。

 ……まあ、ちょっとバグっぽいので直ぐに修正されるでしょうが。

 でも、これなら再びテレポーターに遭遇しても直ぐに場所が分かりますね。

 これは実にいいです。もしかしたら私達が先にボスモンスターを狩れるかもしれません。急ぎましょう!」


 そういうインフィは左手のショットガンで突如出現したリッチを一瞬で処理しながら、周囲の取り巻きスケルトンをタックルで薙ぎ払った。


「ちなみに、お返しと言っては何ですが、ここのボス討伐の攻略裏技を説明しましょう。

 実はボスの居る場所の一つ隣のフロアから、壁越しにボスに向かってアロンダイトを撃つとですね、アロンダイトの貫通属性のおかげか一方的にボスにダメージ与え続けることができるんですよ。

 まあ、アロンダイトの弾丸が高額なので効率は悪いのですが。ソロでも狩れることから、サクッとレアアイテムを狙うには有効な戦略なんですよ」


 リアルの話はいまいち歯切れが悪かったがゲームの話は饒舌になるインフィ。

 ここまで来たのだ、焦らず少しずつ信頼関係を築いていこう。


 ……俺達はゲームについての裏技や小ネタなどの雑談をしながら、道中現れるゾンビやスケルトンを処理しながら先を目指した。


 一時間程経つ。


「ふぅ、結構しんどいですね。

 このダンジョン、特にテレポーターが鬱陶しい。せっかくボスに近づいたのにまた遠ざかるとか……まったく、ついてない」


「うーん、たしかにですね。

 私も少し油断しました。ランカーが二人パーティーに居るせいでしょうか。難易度が上方修正されているようですね、運営の底意地の悪さを感じます」


 俺のガトリング砲の弾は残り500発を切った。

 数秒で撃ち尽くしてしまうだろう。

 ちなみにアロンダイトの残弾はゼロだ。


「それにしても、さっきのモンスターハウスはヤバかったですね。

 モンスターが大量に湧き出る罠、あれは本当にヤバかった。ミシェルンが居たら楽だったかもしれませんが」


「同感ですね。私もショットガンを全て撃ち尽くしてしまいました。うーん、今回はスサノオさん達に勝ちを譲るしかないですか。

 ビームソードの残り使用回数ではボスを倒すためには不安が残ります。アサルトアーマーで格闘もいいですが、やはり難しいですね。

 スズキさん。ヤタガラスでマップ確認お願いできますか?」


「もちろんです、ヤタガラス起動!」


 画面にはダンジョンの見取り図が浮かぶ。


「お! 今まさにボスのフロアに皆が居ますね。絶賛戦闘中ってところですか」


「なるほど、さすがですね。

 サンバ君はおそらく道中でレベルを上げ、罠解除スキルをカンストさせたのでしょう。

 彼らは完成されたパーティーですから、そうですね。攻略は一瞬でしょうね」


【ミッションコンプリート!】

【――おめでとうございます! ミシェラン★★★ 様はレアアイテム『マーリンズロッド』を手に入れました】


「おや? どうやらミシェランちゃんがボスにとどめを刺しましたね」


「そっか、ミシェルン、よくやったな。

 ……でも少し悔しいですね。俺はゲームの知識は無いけど、さすがに今回は結構頑張ったんですよ。

 インフィさん、明日もぜひ一緒にパーティー組んでくれるとうれしいです」


「ええ、そうですね。今回は私も消化不良です。次はチャプター3、地獄の大森林。フィールドに天井はありませんし、マシーンが活躍できるステージです。

 汚名返上ですね。では明日も同じ時刻にポータル前に集合……でいいですね? 」


「はい、お願いします。きっとミシェルンも喜びます!」


「こちらこそ。……でも子供をあまりゲームにハマらせると駄目ですよ? まあ、私が何をいっているのかって感じですが……いや、あ、いいえ、すみません。ではまた明日」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る