シンドローム25/27

「まあ、散々言いましたけど、現状は我々が孤立している形になりますか。

 実はマシーンのみのパーティーにも攻略の糸口はあります。

 先程、高レベルのローグが居ない場合は、割り切って同一の職業で固める、そうすればテレポーターはただのショートカットになるといいましたね。


 その場合で最も攻略に向いているのがマシーンなんですよ。

 この先遭遇するであろう即死や麻痺の毒ガスなどはマシーンには無効です。


 次点ではテンプラーやクレリックになりますか。神聖魔法によりある程度の対策が可能です。


 ちなみに、一度だけモンスターオンリーで攻略したパーティーを見たことがあります。

 まあ、あれはトップランカーのお遊びみたいなのもので参考にはなりませんが……」


 相変わらず饒舌に語るインフィ。


 好きな話題にはつい早口になってしまうのはどの界隈も同じか。

 しかし終始丁寧な口調はなかなかに好感が持てる。オタクのござる口調はさすがにきついからな。


 でも、奴は犯罪者だ。

 ……いや、まだ捕まったわけではないし。推定無罪ということで俺は俺の立場で接するべきだろう。


 そう、自然な感じで、せっかく二人になったんだ。もう少し踏み切ってもいいだろう。


「あの、インフィさんは普段は何してるんでしょうか?」


「え? そりゃヘルゲート攻略ですね。この間は日本神話イベントで何回かヤマタノオロチ討伐をスサノオさんとやりましが。

 マシーン専用装備がミサイルだと知ってからは、あまり興味が持てませんでしたね。遠距離装備は確かに良いのですが、どうもこだわりというか……」


「いや、そうじゃなくて、俺が言ったのは普段。あ、そうか、リアルは何してるんですか? 学生さんですか? それとも社会人ですか?」


 そう、俺はかなり踏み込んだ。

 ネトゲ廃人にリアル情報を聞くのは無作法というもの、プロックされても何も言えない。


 だが、今までに築いた人間関係は無駄ではないと信じたい。



 インフィはなにも答えない。



 やはり警戒されたか。



 俺は急いで話題を逸らす。


「あ、すいません。いきなりリアル情報は御法度でしたっけ。

 何分ネトゲは初心者なもので。ほんとすいません。


 そうだ、ミシェル……いや。ミシェランが今度バーベキューをしようと言いまして。

 なんと先日、ブラックロッククラブというアーススリーで有名な固有種の蟹が手に入りましてね。


 バーベキューか鍋のどちらかで悩んでたんですよ。

 あいつは蟹が好きでね。「蟹になりたいね」って普段から言ってたくらいですよ。

 でもなぜか蜘蛛のモンスターに進化したから最初はあばれてたんですよ。ハハハ」


 …………。


「ぷっ。なるほど、ミシェランちゃんらしいですね。

 なるほど蟹になりたかったんですね。

 蟹モンスターは少ないですし、最上位でもデスキャンサー止まりですからね。もっと蟹モンスターを増やすように運営に要望をだしてもいいかもですね」


 ふう、沈黙は免れた。


 なんとか自然にリアル情報を聞きつつ、相談に持ち込めれば御の字。

 欲をかいて相手を激高させてはいけない。なんとか穏便に済ませたいものだ。


 何度も言うが、俺はいくら犯罪者だとしても。いや、まだ未遂の段階で死んでほしいとは思わないのだ。


 もちろん、一般市民を巻き込んだ場合は話は別だが、現状、犯人は詰んでいるのだ。

 軍事衛星は常に犯人をロックオンしているのだから……。


「しかしブラックロッククラブとは豪華ですね。スズキさんはアーススリー出身なんですか?」


 よし、自然にこちらのリアル情報に興味を持たせることに成功した。


「いいえ、実は俺は福祉事業団体の社員でして。先日アーススリーの小学生達と修学旅行をしましてね。

 その子供達から冷凍の蟹が送られてきたんですよ。蟹なんて一年ぶりですから。テンションが上がりまして」


 そう、嘘はついていない。

 交渉においては嘘を吐くと途端に破綻するものだ。

 特に素人の俺がでまかせで嘘を吐いたらそっからボロが出るだろう。


 だから全て真実で話をするのだ。


「それでですね。ぶしつけですが、オフ会なんてどうでしょう。と、思いまして。うちのミシェル……ああ、失礼ミシェランがインフィさんも誘ってくださいですーって」


「あはは、なるほど。お父さんは大変ですね。ミシェルちゃんですか? だめですよ、娘さんのリアルネームをばらしたら。

 でも……そうですね。ミシェルちゃんとは実際会ってみたいかも……でも、すみません。それは出来ません」


「そうですか、残念です。まあネトゲで知り合った人とリアルで合うなんてちょっと失礼でしたね。すいません。ミシェル……あ、ミシェランには後でいっておきます」


 再び沈黙が訪れる。

 やはりオフ会の話は引きこもりにはハードルが高いか……。


 それに爆弾の件もある。


 くそ、どうすれば武装解除してくれるんだろう。

 交渉術なんて俺にはない。

 それに、まさかこんなところで二人っきりになるなんて思ってなかったんだ。


「……バーベキュー。ブラックロッククラブは焼くと最高においしいです。

 鍋もいいですが、まずは素焼きで堪能してください。実は私も蟹は好きなんです」


「え?」


「さて! ダンジョン攻略はまだまだです。そろそろ下級悪魔がでてきて欲しいところですね。ボスの近くには下級悪魔が出現するようですし。スズキさんはボス用にアロンダイトは温存してください」


 そう言うとインフィはフロア奥から出現した十数体のスケルトンに、ラグビー選手のような体当たりをお見舞いした。


 一瞬で砕け散る骨の残骸。

 アサルトアーマーの効果とブースターの加速は相性が抜群のようだ。


 よし、今回はここまで、後はゲーム攻略をしよう。

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