【KAC20241】に投降したショートストーリー

【お題】〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった。

 イチローには三分以内にやらなければならないことがあった。

 とにかくあったのだ。


 宇宙船の船内にいる俺としてはこの命題はなかなかに難問である。

 三分という時間がこの宇宙にとってどれだけの価値があると言うのだろうか。


 俺は考えることをやめ、相棒の霊子コンピュータAIのアイちゃんに相談することにした。


「なあアイちゃん、三分以内でやらなければならないことってなんかあったっけ?」


「おやマスター。随分と哲学的な話題ですね。残念ながら三分以内でやらなければならないことは今のところないかと」


「だよなぁ……。でもなんかやらないとって気がしないか? 例えば掃除、洗濯とか」


「それはもっと時間をかけてください……」


「じゃあ食事の準備とか?」


「カップ麺で済ますつもりですか。もっと時間をかけて料理してください」


「……うーむ。じゃあ、こういうのはどうだい? 例えばこの船の11次元効果バリアを解除して、地球時間との同期を外すとするだろ?

 で、三分間宇宙の旅をしよう、そうしたらフルコースの料理が出来てきたりしないだろうか?」


 そう、たしか特殊相対性理論においては時間とは不変ではないのだ。


「別に止めはしませんけど……後悔しますよ? マスターはただでさえお友達が少ないのですから。地球に着いたとき、お知り合いが全員お爺さんになっていたらどうします?」


「うーむ。その時はあれだ、玉手箱を開けて、俺もジジイになればいい……。あれ、なんか間違ってないか?」


「いいえ、浦島太郎のお話はそれで正解ですよ?」


「いや、そうじゃなくて。浦島太郎って若者から一気にすっ飛ばしてジジイになったんだろ? それってまるまる損してないか?

 だって乙姫さんところでちょっとはめをはずしたからって、40か50年くらい歳取らされるって、あんまりじゃないか……。

 さては浦島の奴、余程のそそうをやらかしたに違いない」


「マスター。おとぎ話に難癖はさすがにダメですよ。あくまで子供達の教育の為に作られたフィクションですから。

 子供たちの成長には必要な設定なんですよ」


「必要って……あの話のどこに必要性があるってんだよ」


「さあ、私はAIですから、その辺はマスターの方が詳しいんじゃないですか?」


「うーん、そうだな。亀を助けたのが原因なんだよな。

 そしたら竜宮城っていう、海が見える高級旅館で、新鮮な鯛やヒラメの活き造りに舌鼓を打ち。

 乙姫さまとあんなことやこんなこと……。


 そうか、作者が子供達に伝えたかったことは。通りすがりの人がいじめられても助けない!」


「……どうしてそうなるんですか」


「だって、そうだろ? 結局は損してるじゃないか。それにだ、現に日本人はいじめられてる人を見ても見ぬふりをするのが大半だろ?

 これはきっと浦島太郎を教訓にしてるんだと思うぜ」


「はあ、マスターがそう思うならそうなんでしょう。で、マスターは三分以内にやることは見つかりましたか?」


「うむ、こうしてアイちゃんと、馬鹿みたいな問答をすることかな」


 やるべきこと、それは小さなコミュニケーション。

 それは三分でもできるし、人生において毎日やるべきことなのだ。

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