クァンタムマインド4/7
朝食は所謂ビュッフェ形式だった。
ラジオ体操としてはかなりハードなメニューだったのか俺は少し食欲がない。だが、さすがに子供達は食欲旺盛だった。
列を作る子供達に出来立ての卵料理を振舞うミシェルン。
「ミシェルンさん。僕、目玉焼きがすきなんだ、できる?」
「もちろんですー。目玉焼きですねー。焼き加減はどうしますかー? ……はいですー。半熟ですねー」
なるほどな。多脚ロボットのマニピュレーターは器用に複数のフライパンを操る。
目玉焼きのほかにはオムレツにスクランブルエッグ。同時進行で実に器用だ。
腕が二本の人型アンドロイドではできない芸当だろう。
ちなみにアマテラスにある卵は量子真空パックという謎のハイテク梱包で、宇宙でも卵かけ御飯が食べられる鮮度である。
さすが未来だ。俺は炊き立てのご飯の上から、生卵を割る。
だし醤油を少々垂らせば完成。究極のメニューだ。
「マスター。コーヒーをお持ちしました」
アイちゃんはいつの間にか体操服からメイド服に着替えていた。
やはりメイド服は良い、心が落ち着く。
俺が遠征でアキバの劇場に行ったときはかならずメイド喫茶によったものだ。
「おや、マスターは先ほどの体操服はお好みではありませんでしたか? マスターの時代のデザインを再現したつもりでしたが……残念です。気分が悪くなったのならすぐに処分いたしますが」
アイちゃんはこの時代の浦島太郎である俺のメンタルケアをしてくれている。だからか俺の時代に合わせていろいろと気遣ってくれてはいるが……。
あの体操服はさすがにやりすぎだ……。
なぜだろう、シンプルなデザインなのになぜかムラムラと湧き上がる劣情……。
――っ! それでか。
思い出した。あれは俺の中学校の体操服だったのだ。
きっとノスタルジーだろう。中一の運動会のときに、三年生の先輩の女子の体操服姿を見て、不覚にも俺は初めて性の芽生えを感じたのだ。
俺の下半身が誤作動したのもそのせいだろう。
「アイちゃんよ。あの体操服はちょっと……いろいろとな。まああれだ、せっかく作ったのだし捨てることはない。俺もクリステルさんにならってジムでトレーニングすることもあるだろう。
その時にアイちゃんも着ればいいだろう……。うん、思い出したぞ、あれは俺の青春時代でな、夏になると汗で下着が透けて……先輩はもう大人なんだなぁと……こほん。なんでもない。
とにかく、俺は大丈夫だから。あっはっは」
「先輩ですか? なるほど、でしたら今度はブルマーを発注しましょうか? マスターはお好きでしょ?」
……ごくり。
聞いたことがある。俺よりもさらに上の先輩方は普通にブルマーだったらしい。
「おいおい、アイちゃん。あれは黒歴史だろ。ブルーマー先生だってまさかあんな形に進化するなんて思ってなかったはずだ!」
「おや、マスター。ブルマーの歴史にお詳しいですね」
そう、俺は詳しい。
当時そういった知識に飢えていた俺はネットで調べたのだ。今は完全に消滅した文化遺産。
いや、マニアックな映像作品では今だに現役のブルマー。
その歴史的背景。女性解放運動から起きたあの衣服が、皮肉にも女性活動家から忌避され糾弾されるべき記号と化している現実を。
歴史は残酷である。
「こほん、ま、まあな、歴史は俺の趣味だしな。でも、3024年の今にブルマーがあるはずがない。
まあ、アイちゃんがどうしても着たいって言うなら歴史的価値として許可せざるを得ないが……」
俺だって現役でみたことが無い。体操服はスパッツだったのだ。
だから、まさか……ね。
「あ、ガンジスにありましたね。マスターは紺色か赤色どちらがお好きですか?」
大手通販サイト、ガンジスにまさかそんなアイテムが売っているとは思わなかった。
「あるんかい! …………じゃ、じゃあ。クラシックな紺色で。あ、せっかくだから赤もいいんじゃない? ……そう、せっかくだからマリーさんにも買ってあげたら喜ぶんじゃないかな……いや、俺じゃなくてマードックさんが……」
「なるほど、確かに赤はマリーさんにお似合いですね。それにセットだと割引が出来ますし。……マスターも金髪ロリブルマーを見られてお得ですね?」
「おい、言い方! ……ま、まあ。あれだ、それはそれ。おっと、子供達も朝食を終えたようだ。先生方と今日の日程について確認しないとな、ははは」
マリーさんの赤ブルマーか……ごくり。
いやいや、言っておくが俺はロリコンではない。ただ、……ロリも良いかなと思う程度だ。
そう、健全な男子なのだ、なにも問題ない。
おっと、これ以上アイちゃんに俺の性癖を探られるのもあれだし。朝食を食べたら仕事モード。
「よし。皆! 今日は古の箱舟にいくぞ! 昔の宇宙船を見て学ぶことも多い。若い君達には少々きついかもしれないが、知らないことの方がつらい。
何を見て何を学ぶか、後でディスカッションをしよう。じゃあアイちゃん。移民船ロナルドトランプまでレッツゴー」
「はいはい。了解しました」
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