マンインザミラー5/5

「よーし、ミシェルンよ。俺は肉と野菜を串にさしていく係をしようじゃないか。さあ、楽しいバーベキューの始まりだぞー」


「アイアイサーですー。ほらほら子供達も船長さんにならって一緒にバーベキューを楽しむですよー」


 ご機嫌なミシェルンに子供達も各々バーベキューの準備に取り掛かる。


 ストライキとか別に最初からやらなくてよかったのでは? と、俺は思う。

 だが同時に、理不尽なこともやらなければならないのが文化なのだと再認識する。


 軽々に「それって意味なくないっすか?」なんて、場の空気を読まずにひょうひょうと言う奴は俺は嫌いだ。


 サンバは子供達の為にバーベキュー用のコンロを設置し、次々と火を起こしている。当然直火ではない。

 さすがはお掃除ロボット。燃えカスが散らからないように耐熱シートを敷いている。

 ゴミ箱だって、いつの間にやら四方に設置されていた。


 サンバの指示で新たに火を起こしていく子供達。

 100人分なのでコンロの数もそれなりにある。


 男の子たちは火を起こすのに夢中だ。

 分かる、焚火はいいものだ。


 そしてもくもくと上る煙。

 宇宙船で火を焚くという暴挙よ。


 だがここは未来、頼むぜコジマクリーナー。


 ちなみにサンバとミシェルンの蜘蛛型ロボットには基本スペックに大きな違いは無い。

 サンバだって掃除以外の仕事はできる。


 だが、お掃除ロボットが調理をするというのはさすがに衛生面というか違和感があるので、あえて分けているというメーカー側の都合もあるようだ。


 まあ、二台買った方がお得ですよプランに乗ってこの二体を買っただけだが、コジマ重工の営業さんのプレゼン能力はさすがだった。


 実際サンバとミシェルンはいいコンビだ、見ていて飽きない。

 時には営業さんの言うとおりに物を買うのも正解なのだ。 


 乗組員が俺一人のこの船で、お掃除ロボットと調理ロボットの二台を買う理由について、少しクリステルさんに苦言を言われたが、それはそれ。

 こうして仕事の役に立っている。結果オーライってやつだ。


 …………。


 ……。


 宴は始まる。

 もちろん子供達ばかりなのでアルコールはない。


 まあ、俺も酒は強くないからジュースでいい。


「ふははは。我はコジマ重工製、ベストセラーお掃除ロボットのサンバである! ギュイーン! この八本の万能マニピュレーターの前に落とせぬ汚れはない!」


「うふふふー。同じくコジマ重工製、ベストセラー調理ロボットのミシェルンですー。キュイーン! この八本の万能マニピュレーターの前に作れない料理は無いですー。あ、もちろん素材が無いと無理ですけどー」


 ご機嫌なロボット達のパフォーマンスを前に子供たちは皆大声を出して笑い、次々と出される香ばしく焼かれた肉や野菜を堪能した。


 俺とアイちゃんは肉焼き当番だ。

 ロボットたちのストライキを許可しているのだから、料理は俺達がやるのが当然なのだ。


 まあ、これはこれで楽しいし、ロボットが仕事をせずに遊んでる姿を見るのも面白い。

 これはあるべき多様性の姿なのだと思った。


「さーて、こんな蜘蛛型ロボットよりも、私のような美少女アンドロイドをごらんあそばせ? このワイヤーを使っていろんなプレイができるのよー? うふふ」


 ……マリーさん、さすがにやり過ぎだ。子供達を誘惑するつもりか?


 マリーさんは、ワイヤーを空中に張り巡らし、怪しく踊る。

 蜘蛛型ロボットに嫉妬したのか、ワイヤーは蜘蛛の巣の様な美しい図形を描く。足は二本だがクネクネと糸を操る姿は美しい。


 そして……見えそうで見えない。


 いかん、マリーさんの魅力は小学六年生の男の子に取り返しのつかない癖を植え付けてしまう。


「おい、マリー。ふざけるのはやめろ」


 俺が止める前に、マードックさんのげんこつがマリーさんにお見舞いされる。


「痛ったー! マードックだって見てたでしょ? なんでダメなのよ」


「ああ、見たよ。だから俺以外に見せるな……嫉妬するだろ?」


「……もう、しょうがない子ね。うふふ」


 マリーさんは大人しくマードックさんのたくましい右腕に抱き上げられた。


 あー。リア充だ……くそ。俺は何を見せられているんだ。


「おやおや、マスター、よそ見してたら焼き過ぎてしまいましたね。そのお肉は少し硬くなってしまいました。

 マスター、責任をもって食べてくださいね。ほら、私があーんしてあげますから。ほら口を開けてください」


 アンドロイドのアイちゃんは俺の口に熱々の肉を押し込む、……いや適温だった。


「ほら、フーフーして冷ましましたからちょうどいい温度でしょ?」


 ……ほんと、未来のロボットは凄いよな。俺の嫉妬心は適温の甘い肉汁で、すっかり溶けてしまった。


「よーし、子供達よ。今日は親もいないんだ、少しくらい夜更かししてもいいんだぞ? そうだ、パジャマパーティーでもして、ラブアンドピースについて語り合おうじゃないか!」


「なるほど、マスター、それはとても素敵な提案ですね。

 普段ではできない体験を提供するのがフリーボートの在り方ですので。ちょっと夜更かししたりするのもいいかもしれません。

 親へのちょっとした後ろめたさと、友達とのより親密な交流。これが大人への第一歩なのですから」


 

 こうして修学旅行一日目の日程は夜遅くまで続くのだった。


 -----終わり-----


 あとがき。

 お読みいただきありがとうございます。


 前回とはうって今回から数話に分けて変わり修学旅行編になります。


 続きが気になる。面白いと思って下さった方は♡や★★★いただけると励みになります。 

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