アンプラグド2/5
俺は宇宙服ユニクロを手早く着ると船の外に出る。
さすがは最新型の宇宙服ユニバーサルクロークである。重力二倍と聞いていたがアシスト機能があるのか体の軽さはいつも通りである。
しいて言えば、せっかくの地球型惑星だから外の空気を吸いたいけれど、アイちゃんに止められた。
後に精密検査を受けることになるのだ。仕事終わりにいちいち健康診断なんて受けたくない。
それに気圧差で呼吸困難になる可能性もあるそうだ。フルフェイスのマスクはやや窮屈だが呼吸は良好。
21世紀の宇宙服とは違ってかなりの軽装なので感謝しないといけない。
福祉船アマテラスほどの大型船が寄港できる場所はアースシックスでも限られた首都近郊の宇宙船ドックのみだ。
俺はそこからエレベーターを使い地上に降りる。
ここまでに遭遇した人間はいない。
すごい、無人駅にも程があると言うものだ。いや、機械化がすすんだ結果なのだろう。俺の地元の田舎の駅ではないのだ。
「アイちゃん聞こえる? 地表に降りたけどここからどうするの? 無人すぎてちょっと心細いんだけど……」
『はい、ここからはタクシーを手配しておりますので、それにのって都心まで向かってください』
アイちゃんとの通信は良好だ。一人だけど一人じゃない。俺には完璧で究極のAIが付いているんだ、頑張らないと。
すると目の前にはタクシーが到着した。これも無人の車。
一つ気付いたことがある。車っぽいけどタイヤが無いのだ。
「うお、すごい、浮いてる車だ! 初めて見た。というか地球の車はまだタイヤだったよな。どういうこと?」
『簡単ですよ。ここ、アースシックスは気圧が4倍以上ありますので浮力を稼ぎやすいのです。それに大地は岩石だらけで道路を整備するのもコストがかかります。
人口過多の地球では道路を整備するのは経済的な利点がありましたが、アースシックスでは道路を整備するよりも空飛ぶ車のほうがコストパフォーマンスに優れているのです』
なるほどね、よくわからんが目の前の車は翼のない飛行機というか奇抜なスポーツカーのような外観だった。
とにかく、見た感じ飛べそうなデザインなので何も文句はない。郷に入っては郷に従え。俺はビビることなくこのタクシーに乗ることにした。
空飛ぶタクシーに乗ること二十分。
外の景色は岩山に渓谷。アメリカの真ん中あたりにこんな感じの砂漠はあった気がする。
あれをスケールアップした感じなんだろうなと窓の外の絶景を堪能するばかりだ。
やがて首都につく。今度は廃墟に近い薄汚いビルが建ち並ぶ居住区にきた。まさにゴーストタウン。本当に人がいるのか不安だ。
ちなみにこの惑星は自転周期が地球よりも長いのでまだ数日は夜だそうだ。
月は無い。
その代わりにベヒモス座アルファ恒星系に属するこの惑星は夜空がとても明るい。
例えるならシャッタースピードを遅くして撮影した星空写真のように星の明るさだけで地球での満月以上の明るさがあるのだ。
『マスター。そろそろ着きますよ。ちなみに街全体が暗いのは明るくする必要が無いのです。ここに住む人達は全てブーステッドヒューマンですので照明が必要ありません』
「おいおい、それはあれだろ? サイボーグは夜目が効くってあれか? じゃあ俺はどうするんだよ……」
『マスター。サイボーグは差別用語ですので気を付けてください。ちなみにユニクロにも暗視装置はありますのでご安心を。ちなみに彼等も暗闇が好きなわけではありません。
これから行く酒場はとても明るいです。ほら。見えるでしょ?』
タクシーはゴーストタウンの中央へ進む。
まるでそこだけ夜空の満月のように光る一つの建物があった。
酒場……か。
ウエスタンをイメージした飲食店。まさに酒場だ。ここだけは明るかった。
俺は店内に入る、ガヤガヤとしていたのに俺が入ると少し静かになる。
店内のひそひそ話を無視してカウンターまで真っすぐ歩く。
あれだろう? 今、俺は荒野のごろつき共に値踏みされているんだろう、よそ者とかそんな感じかな。
だが、俺のバックをなめてもらうなよ。
福祉団体フリーボート。俺のボスは地球の上院議員だ。
俺を舐めると酷いことになるぜ。
……お願いだから何もしてくれるなよ。俺ははっきり言って弱い。
『マスター。あのカウンター二番目の席に座っている、黒いロングコートに帽子を被った男性が今回の護衛を依頼した方です』
カウンター席に座る男……なるほど。
がっちりとした広い肩幅、座ってはいるがかなりの長身だと言うことは分かる。
それに英国紳士が被るような黒い帽子。洋画でよくみる凄腕のエージェントのような格好だ。
テーブルには琥珀色の蒸留酒が入ったグラス、そして隣の席には寄り添うような格好で金髪ロングの幼女が座っている。
彼の娘さんだろうか。
これから用心棒の依頼をするのに子ずれとは随分と仕事をなめてないか?
いや父子家庭かもしれない。余計なことは言わないでおこう。わけありなのは間違いないのだ。
「やあ、俺はイチロー・スズキ。フリーボートの社員だ。話はアイちゃんから聞いてるだろう?」
俺は気さくに話しかけてみる。ビビってるけど第一印象は大事だ。
「ほう、もっと長身のスポーツマンをイメージしていたが随分と違うな……。
いや失礼。俺の名はマードック。フリーの始末屋。依頼内容は君のAIから聞いている。
護衛任務にしては実入りがいい。フリーボートには感謝してるよ、では早速行こうか……」
「ちょっと、マードック。私のことを無視してないかしら? 男同士カッコつけたいのは分かるけど? 相棒を忘れてもらっちゃこまるわね。ぷんぷんだわ」
隣の席に座る幼女は俺達の会話に割って入った。
幼女にしては随分と饒舌だった。見た目10歳以下にしか見えないんだけど。
……いや、待てよ。この子は人間じゃない。
「おっと、失礼した。彼女はアンドロイドのマリー。俺の相棒だ。こんななりだが実力は本物だ」
「まったく。こんななりとは、泣き虫マードックの癖にほんと失礼しちゃう。
おっと、お客さんの前だと言うのに失礼したわね。
ミスター・スズキ、私はマリーよ、よろしくね。
見た通りアンドロイドよ。旧式だけど戦闘力としてはこの星ではかなり上のほうよ」
俺は饒舌にしゃべる幼女に驚いた。
ああ、これが未来のアンドロイドか。
中の人などいない。純粋な機械だけど本当に生きているようだ。おっと、それを言ったらアイちゃんだって機械なんだっけ。
偏見はよくない。
「それにしても貴方、見るからに弱そうね。そのクロークを外したら針金しか残ってないんじゃないの?
実はあんたもアンドロイドだったり? ――痛っ! なに!」
マリーは急に頭を押さえる。
『失礼なアンドロイドです。マスターは正真正銘の21世紀の日本人男性です。次にマスターを侮辱したらその電脳、焼き切ってあげましょうか?』
「ちっ。私の電脳をこうも簡単にハッキングするなんて。さすがは最新鋭の霊子コンピューターね。
……ふう、ごめんなさい。悪かったわ。でも21世紀の人間だなんて初めて見たわね。
うん? スズキ? イッチロー? あなたレーザービームが撃てるんでしょ? 凄いじゃない!」
それは誤解だ。
まったく、欧米系の人は本当に好きだよな。全く無関係のオタク陰キャの俺には迷惑だって言うのに。
まあ覚えやすい名前ってところはありがたいっちゃありがたいが。
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