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 ━━お元気でしょうか? って書くのも変な感じね。こんな手紙いつ書いたかって? それは秘密にしておきましょう。


 いざあなたに手紙を書くとなると、なんと書いていいのか分からないものね。


 冒険者を引退したあなたが、私が冒険者であり続けることを許してくれたこと。そして帰ってきたとき、誰よりも喜んでくれて私の他愛のない聴き飽きたであろう冒険談を、ずっと聴いてくれたこと、とても嬉しかった。


 もっともっとたくさん伝えたいことはあるけど、全部書ききれる自信がないわ。だから一つだけ、誰よりもあなたのことを愛していたわ。


 ミナモ・ミナーラ


 追伸:いろいろあって透明の花はあまり好きになれないかも。だからね、スミレの花がいいわ。それもとびっきり青いやつをうーんとたくさんね━━



 手紙に書かれた文字を見てマルコイは、目に溜まった涙を押さえることができずにボロボロとこぼしてしまう。


 乾いた地面に落ちる涙がシミを作るその前には、真新しい墓石がある。


「あぁ~みっともない姿を見せたな。年をとると涙もろくなるって本当だな」


 腕で涙を拭ったマルコイが、青いスミレの花束を墓石の上に置く。


「どうだ? とびっきり青いだろ? 花屋に無理言って探してもらったんだからな」


 墓石に向かってマルコイは話しかける。


「シルシエって子が、透明の花だけでなく。ミナモのことを探してくれて、連れて帰ってくれたんだ。感謝してもしきれないな。おかげでこうしてミナモと話すことができた。それになによりも、この手紙。宿り亀のドクロの中から出てきたって言うじゃないか。そんな嘘みたいな話があるかって言いたいところだが、これは間違いなくミナモの筆跡だ。確率とか、奇跡とかそんなことよりも、今この手にミナモの言葉がある。それが全てだ……」


 再びこぼれ落ちる涙を拭うと、マルコイは立ち上がる。


「早くこの世から去って、ミナモを探そうと思ったときもあった。今でも正直そっちに行きたい気持ちはある。だが、今行ったら絶対にミナモは言うだろ? 『スミレの花が全然足りない! たくさんって言ったでしょ』って。それで口を聴いてくれなくなるんだ。分かってるさ。そいつだけは勘弁だから、『もういらない』って言うまで花を送り続けるからな。覚悟してくれよ」


 マルコイは、泣きながら笑う。



 ***



 探求者ギルドにあった色あせた依頼書が、受け付けの女性によって剥がされる。


 ところどころ糊で補修したり、消えかかった文字を上からなぞった跡のある依頼書を見て、受け付けの女性は優しく微笑む。





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