3
アーランドの通った道をたどるシルシエは、砕けた壁から見える大きなアメジオールを見つけ指で触れる。
「魂に刻まれた映像よりも広がっているね」
そう呟くと辺りを見回し、周囲に武器や道具の袋が散らばっているのを見つける。
「なるほど、まあこんなに高価な鉱石を他の冒険者が見逃すはずないもんね」
そう言って後ろに下がったシルシエは腰から抜いた短剣を振るう。
薄暗い空間に火花が飛び散り、上から落ちてきたストーンスネークの顔が照らされる。
「高価な鉱石をエサにして人間を捕食する。初めは偶然だったかもしれないけど、なかなか賢いね君」
シルシエの話しなど聞く気はないとストーンスネークが下半身を土台に、上半身を振りながら牙で攻撃してくるのをシルシエが短剣で弾いて対抗する。
宙に数回火花が散ったのち、シルシエの手から短剣が落ち、地面を滑っていく。
それを好機と見たストーンスネークが体を反らし、反動をつけると上半身を振り、シルシエに牙を突刺そうと襲いかかる。
ストーンスネークの攻撃を一回転しながら避けつつ、背中側の腰に装備していた別の短剣で受け流す。
その短剣は飾り気のない無骨な見た目をしており、握り手のグリップ部には動物性の皮が乱雑に巻かれている。
特徴的なのはガードの部分が太く左右非対称であること、そして刀身に刃がないことである。
シルシエは避けたまま、ステップを踏み、距離を取りながら腰にぶら下がっている袋から虹色に光る石を取り出すと、短剣のガードの長い方の端に光る石を押し込む。
その瞬間短剣のグリップ部からガードにかけて虹色の光があふれ出したかと思うと、白い光が刀身を包み込む。
刀身が伸び光の剣となったそれを両手で握り再び襲いかかってくるストーンスネークに向かって振るう。
首の辺りに剣閃が走り、一拍間を置いたあと、ゆっくりとストーンスネークの頭がずれ落ちて鈍い音を立てる。
「ふぅ、モンスターコア一個使わされるとはなかなか強敵だったね。さて色々と運ぶ物が増えちゃったけど頑張らないと」
もとに戻った短剣を戻すと、落とした短剣を拾いストーンスネークからモンスターコアを引っ張り出す。
そして壁に埋まっているアメジオールを見て、笑みを浮べる。
***
シルシエのいたダンジョンからすぐ近くにある町の名はルウボアという。
古くから農業を中心にして細々と生活していた小さな村であったが、十数年前、山にダンジョンの入口が発見されて一気に栄えた町である。
町の中央にある冒険者ギルドと呼ばれる建物の前に、シルシエが荷車を引いてやって来ると、扉を守っている鎧に身を包む兵が近づいてくる。
「すいません、依頼のあったご遺体を連れて来たんですけど」
「ご苦労様です。依頼受領書はお持ちですか?」
兵は敬礼するとシルシエがポシェットから取り出した書類に目を通し、それをシルシエに返却する。
「確認が取れました。遺体の方は我々で運びますので、こちらの番号札と受け取り書を受付に提出してください」
「ありがとうございます」
兵は別の兵が持ってきた書類にサインすると、二枚ある番号札の一つと一緒にシルシエに手渡す。
もう一方の番号札を遺体を確認していた兵に手渡し、巻いてあった布に取り付けさせる。
「あ、そうだ」
シルシエは番号札をポシェットへ入れ、手に書類を握ったまま遺体のもとに駆け寄ると、荷車に置いてあった大きな包みを持ち上げる。
そして目をつぶったままのアーランドを見て微笑むと、包みを抱えてギルドの建物の中へと入っていく。
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