第18話 ~湾曲~

朝早くに起き、目覚まし時計を止める。

昼寝の習慣がついてしまったため朝は早く起きてしまうのだ。

朝食を食べ、髪をセットする。そして一息ついて学校に行く。



学校に着くとクラスメイト半分位が集まっていた。

俺は席に鞄を置くと、先に来ていたあゆと雑談を始めた。

ホームルーム前のわずかな時間あゆと話すのが日課になっていた。


チャイムが鳴り出席を取ると、俺はもう寝た。

11時45分に目が覚めた。

ボーッと授業を聞いてるとチャイムが鳴る。

俺は弁当を食べるとOPTIONを観ていた。

すると柏が入ってきた。


「おぅ! 今日は何の用だ?」


「今日集会があるんで一緒にいかないかなぁと思い誘いにきました」


「まぁヒマだし言いたいこともあるから行ってもいいかな」


「じゃあ20時30分に迎えに行きます」


「おぅ。待ってるよ」

そして柏は一礼して教室を出て行った。


「あんたまだ暴走族とつるんでるの?」あゆがそう言った。


「まぁ。好きでつるんでるわけじゃないけどね。でもま~水曜日は夜ヒマだから行ってもいいかな~みたいな」


「そのうち他の不良達にも目つけられるわよ」


「もう目ぇ付けられてるからご安心を」


「バッカじゃない。暴走族なんて流行らないのよ」

ま~あゆが言う事も一理ある。この後暴走族は滅びゆく運命にあるのだから。

時代の移り変わり。最後の暴走族である。全盛期には数千人以上いた暴走族も今は1000人以下だ。その運命は変わらない。


あゆからノートを借りて授業の復習をした。

そして昼休みが終り6時限目の授業を聞いていた。

6時限目の授業が終り掃除当番で、教室を綺麗にしてから学校を出た。



家には原と真也がすでにいた。


「お前等学校は?」


「午前中でフケてきたよ。真也も。集会の日は午前中で帰ろうって2人で決めたんだ」


「授業真面目に受けないと留年するぞ」


「大丈夫。真吾ほどじゃないけど勉強もちゃんとやってるから」

原が意外な事を言った。

勉強してるだと?いつの間に。


「親が暴走族入るのいいけど、勉強ちゃんとするならって条件で皇帝エンペラー入ってるから」真也が言った。


「まぁ、お前等も勉強はちゃんとしろよ」


「真吾程頭良くなれないけど、頑張るよ」

そう原が答えた。

2人は仲良くゲームをしてる。

俺は大学受験のテキスト問題を暇つぶしに解いていた。

テキスト解きに飽きたら原と真也のゲームやってる姿を眺める。これの繰り返しだった。


「そういえば特攻服に刺繍いれたんだよ。ホラ」

背中を見せてくれる原と真也。

原は「暴走天使」

真也は「天下無敵」

特攻の拓読みすぎだろうと思った。


「暴走天使って、お前免許持ってないじゃん」


「誕生日1ヶ月前から免許の講習もう通ってるよ」

原が言う。


「俺も免許取りに行ってるよ」

真也もそう言う。


「お前等もついに免許取る日が近づいてきたのか。なんか考えられないな」


「誕生日きたらすぐに免許とれるように教本を勉強しまくってるんだぜ」

真也も頷く。


「なかなか標識とか覚えるの大変で、学校の授業より難しいよ」

真也が答える。


「そりゃそうだろ。一般常識なんだから最低限覚えてないとな」

たしか学科試験はテストの点数が90点以上ないと通らない気がした。

果たしてこのバカ共にそれだけの点数がとれるか甚だ疑問だった。


まぁ、柏ですら免許持ってるんだから問題ないか。そう自分に言い聞かせた。


「単車はどうするのよ?」


「もうバイクも見に行って来たよ。2人でCBX400Fヨンフォアにお揃いで乗ろうって話したんだ」


「もうそこまで話が進んでたのか。全然知らなかったよ。お揃いでヨンフォア乗れるといいな」


「うん。まずは免許取るの頑張るよ」

原が嬉しそうにそう言った。

しばらくゲームをしてると20時になった。


「そろそろ俺等は行くよ。真吾も何事も無ければいいな」

不吉な事を言って原と真也は窓から出て行く。

20時30分まで時間あるな。

そう思うと部屋を掃除機で綺麗にしたり、整理整頓していた。

すると外からV8サウンドが聞こえてきた。

もうこんな時間か。俺は外に向かう。


「お疲れ様です。今日は特に何もないと思うんですが気分転換に一緒に走りましょう」

俺は黙って頷くと、リンカーンマークVの助手席に乗り込んだ。

公園に着くともう宴会を始めてる奴等もいる。


近づいて「自分で出したゴミは持ち帰れよ」とマナーを言った。

そうすると「ウッス!わかりました!」と元気よく返事が返ってきた。

21時になるとかなりの台数が集まっていた。公園の駐車場は埋め尽くされている。


俺は柏にコーヒーを買ってこさせると1人ブランコでユラユラ揺らして遊んでた。

柏は皆を集めて気合を入れさせている。

しばらくすると綾がやってきた。


「昨日は迷惑かけてゴメンね」


「気にするなって。それよりいい話を思いついた。聞いてくれるか?」


綾は頭に『?』マークを浮かべた表情だった。


「高橋ぃ! ちょっと来い!」そう叫ぶと高橋が走ってきた。


「ハイ。何でしょう?」


「高橋ぃ。お前今彼女いるか?」


「居ませんけど何か?」


「お前綾と同じ学校だったよな?」


「はい。そうですけど」


「じゃあ、お前綾と付き合え」


「え~っ何言ってるの真吾」

綾が驚いたように言う。

高橋も驚いたような表情をしてる。


「高橋もそこそこ強い。しかもそこそこカッコイイから綾にはお似合いだと思う」


「ちょっと待って。あたしは真吾が好きなの」


「俺の彼女になるには危険すぎる。同じ学校の高橋なら安心だ」


本気マジで言ってるんですか?」

高橋が問いかけてくる。


本気マジだこれは命令だ。背く者これ神鬼没の敵とみなし、俺が鉄拳制裁を加えよう」


「真吾の事諦め切れないよ。楽しい時間いっぱい作ったし」


「楽しい事もいつかは終わる。今後は高橋と一緒に沢山思い出を作れ。俺の彼女にはしない。これは変わらない覚悟だ。これ以上綾を危険に晒すわけにはいかない」


「そう・・・・・・真吾がそこまで言うなら高橋と付き合うわ。でも真吾の事諦めてないんだからね」


「高橋もそれでいいだろ? お前綾を守ってやれ。これは命令だ」


「分かりました。江川と付き合います。守って見せます」

高橋が男気溢れる返事をした。


「高橋と付き合っても真吾の事諦めないんだからね」

綾はそう言った。


「裕子とも仲良くしてやれよ。同じレディースなんだし」


「うん。わかった♪」

綾にはレディースの隊長をやらせていた。裕子はその一員となったのだ。


「2人とも付いて来い!」そういって神鬼没の中心に行った。


「今後高橋と綾は付き合うことになった。皆で祝福してやれ!」

そういうとヒューヒューと口笛や「おめでとう!」といった掛け声が聞こえてきた。

柏が「祝いの走りに行くぞ~」と言った。

そして神埼が俺に申し出てきた。


「神鬼没に入っても俺等は走り屋。自由に暴走していいですか?」


「いいぞ。先陣切って好きなように走れ」


「ありがとうございます。感謝します」

神埼は元幽霊スペクターの連中を集め先頭を走ると伝えていた。

まぁ、走り屋には走り屋の流儀があるのだろう。

神崎達が走り出すと柏達もエンジンをかけ始めた。

俺はリンカーンマークVの助手席に乗った。


「裕子はリンカーンに乗せなくていいのか?」


「裕子はスクーターで走りたいと言ってました。意見を尊重します」

そういうと柏がクラクションを鳴らした。

そして一斉に走り出す。

ちょっと走ったらもの凄いスピードで神埼のバイクが対向車線をすり抜けて行った。

すると続いて70スープラや32GT-R等がもの凄いスピードで走り抜けてゆく。

本当にシャブやってないんだよな。そう思わせる危険な走りだった。


200km/h以上は軽く越えてる。そんなスピードの中に神埼は居た。

柏達がゆっくり走っているとケツから神埼のバイクがパッシングしてきた。


神鬼没達が左右に避けると中央をもの凄いスピードで神埼は走っていった。

まるでスピードの向こう側に魅せられるように・・・・・・

そしてしばらく走っているとバイクと車の凄い集団が対向車線を走ってくる。

皇帝エンペラーだ。

「よく走る車線被らないな~」と俺が呟くと柏がすかさず「族長会議で走る時間帯と車線打ち合わせしてますから」と言う。

暴走族には暴走族のルールがあるのかと知った。


皇帝エンペラーも元幽霊スペクター達に道を譲っている。

超高速で走り回る神埼達。俺は1度GT-Rにでも乗せてもらいたいなと考えていた。

神埼達が折り返して追い越そうとする時、柏がホーンを鳴らした。

そして神埼達も合流して公園に戻る。


公園の駐車場に停めると神埼に言った「本当にシャブやってないんだな?」

「これからは技術ウデで走ります。これでも音速の三皇さんこうの一人なんで」

音速の三皇さんこう初めて聞くな。


「他にも速い奴がいるのか?」そう聞くと「現在は1人事故で死んで2人ですが元は3人で最速を争ってました。そして巷で付けられた名前が音速の三皇さんこうです」っと神埼は言った。


「あと1人は誰だ?」予想はついていたが聞いてみた「竹内信介です。多分お聞きかと思いますが皇帝エンペラーの総長です」


「残り1人の死んだ奴は?」

俺は興味本位で聞いてみた。


「残り1人は武田誠です。丁度1年くらい前にトラックと衝突して死にました。元神鬼の一人です。誠が乗っていたCBX400Fはレストアされ神鬼没の高橋が乗ってると聞きます」


「そうか。お前は死ぬなよ。何があっても絶対にだ。これは命令だからな」


「ハイッ! 簡単に死ぬ気はありません。でもいつか竹内とはケリを付けなくてはいけません。誰が本当の最速なのかを・・・・・・」

そういって神埼は口を閉ざした。


「最速だけが目標じゃない。神鬼没の連中みたいにゆっくり流してお喋りするのも悪くないぞ」


「スピードの向こう側に取り憑かれた奴だからこそ最速になりたいんです。この街で最速を名乗れれば全国でも最速でしょうし。今はのろけた竹内に負ける気がしません」

少し笑顔で神埼は言った。


「事故だけは起こすなよ。他の人にも家族にも迷惑がかかる。絶対ゼッテーだぞ」


「ハイ、分かりました」


「じゃあ、みんなの輪の中に入ってお喋りでもしてこい。少しは気が晴れるだろうさ」

そういって神埼を送り出した。


「この中で1番速い車ってなんだ?」俺は輪の中に入って言った。


「そりゃもちろんGT-Rじゃないですかね」皆が口々にそう言った。


「そのGT-Rのドライバーはいるか?」


「はい。俺です。」GT-Rのドライバーは名乗りを上げた。


「少しGT-Rに乗せてもらいたいんだけどいいかな?」


「いいですけど免許持ってるんですか?」


「もちろん無免だよ。だけど車の運転は出来る」


「いいですよ。着いて来て下さい」


「お前の名前は?」

そういってGT-Rのドライバーに名前を聞いた。


「俺は谷本敦って言います。以後お見知りおき下さい」

そう話してるとGT-Rの前に来てキーを受け取った。


「谷本は助手席に乗ってくれ」

そうして俺はキーを回した。

6発RB26DETTの独特のいい音がした。

俺はちょっとエンジンを吹かしてみた。

どうやらフライホイールが軽量化されてるようだった。気持ちよく上まで一気に回る。

聞けば家はかなりの富豪らしくチューニング費用は全部親が払ったという。

アクセルを吹かしクラッチを繋ぐ。クラッチが異常に重い。


そして国道へ出ると一気に床までアクセルを踏んだ。

各速8000rpmまで伸ばしギアチェンジを繰り返す。

そして5速で床までアクセルを踏んだ。ブースト計を見たら1.5kgかかっている。

隣では谷本がビビッている。それでもアクセルを開け続け273km/hまで出した。

273km/h以上は出なかったのだ。谷本はドアを掴みこんでいる。


四輪ドリフトで国道をUターンするとまたアクセルを全開まで踏み込んだ。

「もういい。わかったから止めてくれ~」谷本が絶叫する。

油温、水温共に安定している。最高速トライをした。やはり273km/hしか出なかった。

そして公園へと戻ってゆく。


公園の駐車場に車を入れると谷本が皆の輪の中に入って興奮しながら話していた。

神埼が近寄ってくる。


「免許あれば、尾崎さんも入れて四天王だな。谷本からキレた走りっぷりは聞いたよ。やけに早く帰ってきたと思ったんだ」


「GT-Rはいい車だな。でももっと速くできるような気がする」

俺は平常心で言ったのだが、神埼には想像付かなかったらしい。


「今度俺を乗せて走ってくれないか?」そう言われた。


「お安い御用さ」俺がそう言うと神埼は満足そうに神鬼没の輪の中に消えていった。


俺は柏にコーヒーを買いに命じた。

するとすぐにコーヒーを持って柏がやって来た。


「特に用は無い。神鬼没の中に混じって話してくるといい」

そう伝えると一礼して神鬼没の輪の中に入っていった。

俺はブランコでコーヒーを飲んでいると裕子が近づいてきた。


「よぅ! 楽しくやってるか?」


「結構集会って楽しいのね。真吾も入れば? きっと楽しいよ」


「いや、俺はここでみんなが楽しそうにしてるのを見るのが好きなんだ」

そういうと裕子が話してきた。


「1人ぼっちじゃ寂しいわ。あたしが話し相手になってあげる」


「裕子も輪の中に入ってこいよ。みんなお酒飲んで楽しそうにしてるぞ」


「真吾と2人きりになれるこの時間が好き」

裕子がそう言ってきた。

裕子としばらく何でもない会話が続いた。

しばらくすると神鬼没が散ってゆく。

もう解散の時間か。そう思うと柏が近づいてきた。


「裕子の相手ありがとうございます。家までお送りします」

そう言って、俺はリンカーンマークVの助手席に乗り込んだ。

家に着くと柏は「退屈させてスミマセン。でも尾崎さんがいると安心できるんですよ」と言った。


「頭はお前なんだからしっかりしろよ」と言ってやった。


「短期間で少し規模が大きくなりすぎてどうしていいか迷ってるんです。みんなの顔と名前も一致しないし」と少し俯いていた。


「しっかりしろ。頭がそんなんでどうする。顔と名前はゆっくり覚えてけばいいじゃないか」そう励ました。


「そうですねこれからゆっくりとやっていきます。また集会に参加して下さいね」

そういい残し柏は帰って行った。

しばらくすると原と真也がやってきた。


「総長が今期中に神鬼没潰すと宣言したぞ。真吾どうする?」

真也が慌ててそう言ってきた。


「今すぐってわけじゃないだろう? そのうち考えるさ」


「そんな呑気な事言ってる場合じゃないぞ。戦争が勃発したらこの街で最大規模の武力衝突が起きる。俺も真吾とは敵対したくない」

原が珍しく真面目に言ってきた。


「もし戦争が始まったら2人共皇帝エンペラーから抜けろ。神鬼没側に付け」


「そんな簡単に裏切れないよ」

真也がそう言う。


「戦争が始まっちまったらどちらとも無傷ではいられない。より安全な方を選ぶべきだ。神鬼没には俺もいるしな」

そうして2人をなだめた。


「総長は近いうちに神埼さんとケリをつけるって言ってたぞ」

真也がそう言った。


「それは2人に任せればいいんじゃないかな。多分この街最速を決めるレースをするんだろう。まぁ今すぐどうこうって話じゃない、落ち着け」

そういって2人を落ち着かせた。


「まぁ、今日の所はもう遅いから帰れ。愚痴なら今度聞いてやる」

そう言って2人を追い出した。



皇帝エンペラーとの戦争か~。考えたくもねぇな。

そう思いながらシャワーを浴びパジャマに着替えベッドに潜り込んだ。

神埼と皇帝エンペラーの頭の勝負はちょっと見てみたい気がする。

そう思い爆睡した。



この後、また衝突があろうとは考えてもいなかった。



Coming soon!!

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