第67話 手ブラ阿修羅

 俺は戦士タルタル。パーティなんか組まずに一匹狼の戦士である俺は、今日も一人流離い歩く。

 とある町で強い女の魔物の話を聞いた。その名も人呼んで【手ブラ阿修羅】。三メートルを超える巨体に、全身筋肉に覆われた、人型最強の魔物と言われている。

 魔術なんか使わず己の肉体のみで挑戦者を叩きのめすという戦闘スタイルらしく、自他共に認める脳筋戦士の俺にとっては申し分のない相手である。

 しかし、手ブラというのは一体どういう意味だろう?……もしや武器など持たずに素手で戦うから手ブラ阿修羅というワケだろうか?それなら納得がいく、きっとそういうことだろう。

 自分を納得させて【手ブラ阿修羅】の居着いているという廃墟に向かう俺。途中に出て来るモンスターも手練ればかりで苦労させられたが、脳筋らしく力任せに叩き潰し、前にドンドンと進んだ。

 すると廃墟の最深部に一際大きなヤツを見た。

 美しいスカイブルーの体に、何処を見ても好きの無い完璧な筋肉、三つ目の鋭い眼光、背中から生えた四本の剛腕もさることながら、俺が注目したのは胸である。別にいやらしい意味ではない。ただ手ブラの意味がようやく分かった。

 阿修羅の手は合計で六本あり、俺達の腕に相当する二本の腕で自分の胸をガッシリ掴んでいるのである。胸が大き過ぎて手では収まりきらない感じだが、これは立派な手ブラである。


「よく来たな冒険者よ。私の名前は阿修羅。人は私のことをこう呼ぶ【手ブラの阿修羅】と」


 ギザギザの歯を見せながらニカッと笑う【手ブラ阿修羅】。流石にこの状況で、すぐに戦うというワケにはいかない。手ブラの理由を聞かなくては、大体手ブラをしたままでは文字通り手を抜かれている様ではないか。

 【手ブラ阿修羅】は下も腰布一つといった軽装だが、トップレスなのはサキュバスとか、妖艶な女型の魔物の専売特許の筈だ。誇り高き戦士であるところの阿修羅がその様な格好で居る意味が分からなかった……よし、とりあえず聞いてみよう。それが一番手っ取り早い。


「俺の名前はタルタル‼【手ブラ阿修羅】よ‼手ブラの理由を聞かせてくれ‼理由を聞くまでは気になって戦いに集中出来そうも無い‼」


 俺が大きな声でそう聞くと、【手ブラ阿修羅】もその質問は想定内だったらしく、大きな声でこう返して来た。


「無論聞かせるつもりだった‼これは昔、とある魔術師と戦った時に掛けられた呪いでな‼上半身に何も装備出来なくさせられたのだ‼魔術師は倒したが呪いは解かれず‼したがって手ブラになったわけだ‼」


 なるほど、これで合点がいった。もっともらしい理由である。だがそうなると、こんなことも聞いてみたくなった。


「二本の腕を使って隠すということは、お前の様な強者でも乳首を見られるのは恥ずかしいのだな‼そうなのだな‼」


 この質問は想定外だったらしく、【手ブラ阿修羅】は青い顔を赤く染めて、三つの目の挙動がおかしくなる。


「そ、そりゃそうだろ‼……乳首は恥ずかしい」


 最強の女が乳首を見られることに羞恥を感じるとは、これはギャップ萌えである。こうなると俄然乳首が見たくなるのが男の性というものだ。


「決めた‼俺はお前を倒して手ブラを外させる‼そしてお前を俺の女にするのだ‼」


「な、何を言っている‼」


 これが一種の一目惚れというものだろうか?不純な一目惚れだが、男が女を好きになるのに綺麗も汚いも関係無いだろう。


「うおおおおおおお‼手をどけろぉおおおおおおお‼」


「ふ、ふざけるなぁあああああああああ‼」


 こうして俺と【阿修羅】の手に乳……いや手に汗握る戦いは始まった。


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