第59話 なかよし喧嘩
「アンタ‼冷蔵庫に入れてた私のプリン食べたでしょ‼」
「俺の誕生日近いから、俺へのプレゼントかと思ったんだよ‼」
「バカか‼テメーの誕生日には別のもん用意するわ‼サプライズと共にな‼それでどうすんだよ⁉プリン買って来いよ‼」
「明日で良いだろ‼」
「バカヤロー‼アタシは今食べたいんだよ‼」
などと最早定番となった家での両親の喧嘩を、五歳になったばかりの息子のスバルはジーッと見つめている。
スバルは二人が仲睦まじいのを知っている。喧嘩した後は必ず仲直りして、「ごめんなさい」と言い合ってハグしているのを見ているからだ。
しかしながら、今回はとある疑問を二人に投げ掛けてみることにした。
「ねぇねぇ、パパ、ママ、どうして二人は喧嘩するのに仲が良いの?」
『えっ?』
重なる両親の声。息子の突然の質問に困惑していることは明白であった。
「ど、どうしたのスー君?そりゃあ夫婦だから仲が良いのは当り前よ」
「そ、そうだぞスバル。喧嘩するほど仲が良いって言うじゃないか」
息子の教育の為に喧嘩を一時中断して説明する両親だったが、それでもスバルは納得がいかなかった。
「でもね、タカシ君の家はよく喧嘩するけど、仲が悪くてもうすぐ離婚するかもしれないってタカシ君言ってたよ。どうして同じ喧嘩なのに僕の家は仲が良くて、タカシ君の家は仲が悪いの?」
幼稚園の友達であるタカシ君が辛そうな顔をしていたのが、スバルの目に焼き付いていた。幼稚園生にはまだ難しい問題だが、スバルのお父さんは暫く考えた後、こんな風に答えた。
「スバルには難しいことを言うかもしれないけど、相手への思いやりの差かな?俺はママに怒鳴りつけたりするけど、相手が本当に嫌がる事や、傷つくようなことは言わない。コミュニケーションの一環として喧嘩してるだけなんだよ。もしも傷付けることを言ってしまったにしても絶対に謝る様にしているよ」
「そうよスバル。それにしてもタカシ君の家が離婚かぁ……お節介かもしれないけど今度タカシ君のママにお話ししてみるわ」
「うん、それが良いかもな。離婚だなんてタカシ君が可哀想だ」
父の説明は難しくてスバルには半分も分からなかったが、二人がタカシのことを心配して行動してくれようとしているのは嬉しかった。本当に二人は仲が良いと再認識した。
「ありがとうパパ、ママ。それじゃあ喧嘩を続けて良いよ♪」
笑顔でスバルはそう言ったが、両親は戸惑ってしまう。もう喧嘩をする雰囲気では無くなってしまったからである。
「スバル、もうパパとママは仲良し時間よ」
「そう、手とか繋いだりしてテレビ見ちゃうぞ」
このあと二人は本当に手を繋いでテレビを見始め、スバルに向かって「そろそろ弟が欲しいんじゃないか?」と父が言ってきたので、スバルは素直な気持ちで「うん」と答えると、両親は顔を赤くし二人で顔を見合わせて「頑張ろっか」と言い合ったが、子供のスバルには二人が何を頑張るのか意味がよく分からなかった。
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