第49話 葬式にて
はい、花の女子高生 有森 凛子(ありもり りんこ)と言います。
今日はお葬式に来ていて、この厳かで静まり返った雰囲気が何とも言えませんね。こういう雰囲気はぶち壊したくなるのですが、まぁ、黙ってお目当ての人物が来るまで待つとしますか。
暫く待っていると、あの仏頂面の男がやって来ました。同じクラスの黒岩 圭吾(くろいわ けいご)君です。彼はいつもの様に目が目をキラリと輝かせ、親族の人たちに一礼した後、棺の前に立ちました。
そうして亡くなった人の顔を覗き込むと、ハッと目を見開いてお焼香もせずに、ドタバタと走り去っていきました。一体何処に行くつもりでしょうか?
私が彼の後を追うと、彼はトイレに入りました。私は入っても良いのだろうかと一瞬ためらいましたが、まぁ良いかと思い、そのまま彼の後を追いました。すると一番奥の個室から彼の何とも言えない声が聞こえてきます。私がエイッと中に入ると彼がズボンを下ろさず便器に座り、ボロボロと涙を流してました。
彼が泣いているところなんて初めて見ましたが、醜態を晒さない様にトイレで泣くなんて彼らしいです。
「こ、こんなことなら・・・もっと好きだって言えば良かった。」
うんうん、それはそうだね。後悔したって遅いけど、よく出来ましたと撫でてあげましょう。よしよし。
私が撫でても彼は一向に気付く気配はありません。やっぱり鈍い人は霊感も無いようです。もう、お気づきの人は居るかもしれませんが今日の主役は私。そう私が亡くなったのです。まさか生身の体で男子トイレに入り、あまつさえ鍵のしまった個室に入る頭のいかれた女子と思っている人は居ないでしょうね?
私は自分の彼氏が心配で男子トイレに入ったのです。やましい気持ちなんて一切ありません。こう見えて彼とはフレンチ・キスしかしたことありませんし。まぁ、こんなことになるなら、もう少し踏み込んだお付き合いをしていても良かったかと思いますけどね・・・おっと、後悔したって仕方ないです。
「うぅ・・・。」
私は泣いている彼を抱き締めました。きっとこんな自分の彼女が抱き締めていたなんて、彼はずーっと気付かないのでしょうけど、私の気持ちの問題です。可愛い彼氏を放っては置けないのです。
私は抱き締めると同時に彼にある恐ろしい呪いをかけました。それは早く他の人を好きになって、私のことを忘れてしまう呪いです。死んだ人のことなんて忘れて、早く別の恋を見つけなさい。そして死んだ後に私のことを思い出してイチャイチャしましょうね。
ふふっ、ただでは引き下がらないのが私の頭の良い所です♪
葬式が終わるまではこの辺をうろうろします。なにせ最後の現世ですからね、この両の眼に色んなものを焼き付けて、あの世に居る人への土産話にしたいと思います。
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