第9話 FPSと悪霊

「がぁーーーーーーー‼」


テレビから出てきた悪霊がそんな風に僕に襲い掛かりそうになった時、僕は両手に持ったスマホの画面を見ながらこう言い放った。


「あっ、すいません。いまFPSのゲームでランクマッチしてるんで、あとで良いですか?抜けると他の人に迷惑掛かるんで。」


「がぁ?」


意味が分かっているか分からないが、とりあえず悪霊の動きは止まった。

まさか友達から借りた呪いのDVDから本当に白装束の女の幽霊が出てくるとは思っておらず、FPSのゲームでランクマしながら映像を見ていたのがいけなかった。そのせいで悪霊が出てきても良いリアクションをすることが出来なかったのが悔やまれる。


「がぁー。」


おっと悪霊さんが僕の後ろからスマホの画面を見てきているぞ。きっと昔の人だからゲームに興味津々なのだろう。

にしても、相手のチームの動きがおかしい。壁をすり抜けたり、ヘッドショットでも死ななかったり、動きが早過ぎる。これはもしかして、いやもしかしなくてもチーターだろう。チーターとはゲームのシステムを勝手に弄って、普通では出来ない動きや、あり得ないことをさせる違反行為を繰り返す輩のことである。


「あぁもう、こういう奴らが居るからゲームの価値が下がっちゃうんだよな。ランクが上がるところだったのに。」


はぁと溜息を僕がついていると、ポムと悪霊さんが僕の右肩を叩き、私に任せろと言わんばかりにニコッと笑った後、スマホの画面の中に吸い込まれる様に入って行った。

悪霊さんもバージョンアップして近代社会に馴染むようになったものだと感心していると、スマホの画面内ではチーターたちのキャラ達の首の骨をへし折ったり、アイアンクローをしたまま地面に叩きつけたりと悪霊さん無双が始まっていた。

目には目を歯には歯を、チーターには悪霊を。

こうしてランクマッチは僕らのチームの勝利に終わった。

ゲームが終わると悪霊さんはスマホの画面からこっちに戻って来て、グッと親指を立てて再び笑顔を見せてくれた。今気が付いたのだが、目がクリっとしていて意外と可愛い顔をしているじゃないか。


「悪霊さん、ありがとうございます。じゃあもう呪って下さい。」


ここまでしてくれたのだ。呪ってもらわないと罰が当たる。

しかし、悪霊さんは予想外のことを口にした。


「呪わない代わりに、私にそのゲームのやり方教えてくれない。メチャクチャ楽しそうじゃん。」


「あっ、普通に喋れるんですね。」


この後、悪霊さんと僕はメキメキとFPSの腕前を上げ、全国大会に出て優勝することになるのだが、それはまた別の話である。

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