第14話 シコらせ系VTuberの引退理由なんて一つしかないじゃないですかー笑

「やっぱり、せんぱいにはうつ伏せが似合います……♪ キュンってしちゃいました……♪ 一生わたしを上から見下ろさないでほしいです……♪」

「おい、どういうことなんだよ、保科さん! 何でセレスティア・ティアラ以外のVTuberが、この声を……!」


 セレスティア・ティアラ同様、闇ノ宮やみのみや美夜みやも、通常時のその喋り声と、普段の京子の声との間にはまだ辛うじて隔たりがあるように思う。

 口調の違いのせいもあるかもしれないが、もしも何の情報も疑惑も持たぬまま、闇ノ宮美夜の配信を目にする機会があったとしても、俺の頭にこんな発想なんて浮かびもしなかっただろう。

 京子は普段、こんな鼻にかかったようなアニメ声では話さない。みゃーなんて言わない。


 しかし、喘ぎ声は別だ。闇ノ宮美夜の喘ぎ声と初期セレスティア・ティアラの喘ぎ声と白石京子の喘ぎ声は完全に一致してしまっている。


「だから言ってるじゃないですかー。半年前にデビューしたVTuber闇ノ宮美夜が、3か月前に引退し、そして転生。セレスティア・ティアラとして再デビューしたということです。あ、転生ってゆーのは、引退したVTuberの演者が新しいアバターを用意して全く別のVTuberとして活動を始めることを指すVTuber用語ですね」

「そ、そんな……じゃあ……!」

「そうです! 京子さんの様子がおかしくなった期間と、京子さんと似た声のVTuberが活動していた期間が、ぴったり一致するということです! 『京子さん=シコらせ系VTuber』説は問題Xの答えとして全く矛盾していないということになります! つまり!」

「つ、つまり……!?」


「せんぱいのご自慢の彼女さん、VTuberやってキモオタをシコらせまくってるってことです♪ はい、Q.E.D.♪ いえ、N.T.R.ですね♪ おめでとーございまーす♪」


「…………………………………………グミがないよ、ママ」

「丈太くんが全部食べちゃいましたからね♪」

「うぅ!! これじゃあ現実逃避もできねぇじゃねーか!! くそが! これも全部、内容量減らしてステルス値上げする製菓業界が悪いんだ!」

「シコらせ系VTuberとコラボしたお菓子とかうちの店でも結構並んでますしね。そう考えると確かに京子さんがキモオタシコらせ浮気をしているのも、お菓子業界の責任と言えるかもしれません」

「やめろおおおおおおおお! 言葉にして突き付けてくるなあああああああああ!!」


 京子が……! 京子が俺を裏切っていたなんて……!

 あの京子がだぞ!? 昨日だって今日だって、あんなにも俺を愛してくれた京子がだぞ!? 3日間、嘘ついて引きこもってたときだって、ずっと心配してくれていたんだぞ!? 俺が京子を疑っている間にも、ずっと京子は、俺を信じてくれていたんだ!


 信じたい……何とかして信じたい……! 何か、少しでもいいから、京子がセレスティア・ティアラでも闇ノ宮美夜でもないことを示す反証を……!


「な、なぁ保科さん。そもそもとして、セレスティア・ティアラと闇ノ宮美夜が同一人物だというのは、間違いのない事実、なのか?」

「はい、熱心なVオタの間では公然の秘密状態みたいですし。セレスティア・ティアラ本人も隠そうとはしていますが、隠し切れるものではないことも承知しているでしょう。一応徐々に闇ノ宮美夜とは違う、新しいキャラクターにしていこうという努力は見えますが――ってわたしの幼なじみが言ってました」


 セレスティア・ティアラの声が配信を重ねるごとに少しずつ変化していった――あれは、リアルな知り合いバレを防ぐためというより、前世バレを防いだり、前世からのモデルチェンジを意図した適応だったということか。

 まぁ、変わったのは声質だけで、配信内容はほぼほぼ同じようなものだったぽいけどな!


 でも、だからこそ気になることがある。


「でも、おかしくねぇか?」

「食い下がりますね」

「だって、意味わかんねーだろ。見たところ、闇ノ宮美夜のチャンネル登録者数はセレスティア・ティアラを上回ってるじゃねーか。VTuberの事務所ってのがどんなもんなのかは知らんが、こんな高クオリティの3D配信までさせてもらって、環境的にも個人でやるより恵まれてたんじゃねーの?」


 もちろんメリットばかりじゃないんだろうが、少なくとも3か月で見限るようなものでもないだろう。

 何よりも、見た目を変えたところで、結局やっていることは同じなのだ。転生なんていう労力を費やす必要性がよくわからない。


「そりゃ、闇ノ宮美夜として活動していくのが困難になったからに決まってるじゃないですかー」

「くそぉ、わからないことを聞く度にわからないことが増えていく……」

 もうVTuberなんて大嫌いだ。

「何なんだよ、闇ノ宮美夜として活動できなくなるような理由って……」


 俺の質問に、保科さんのクリッとした目がギラッと輝く。白い歯を見せて、頬を染めて、もはや恍惚といった表情だ。

 そして、あの俺を痛めつけるとき特有の歌うような声で、


「あなたのせいですよ、せんぱい♪」

「は……はぁ?」


 わけがわからない。こいつと出会って1か月、絡まれるようになって1週間。わけのわからないことの連続だったが、その中でも断トツわけのわからない言葉が飛び出てきた。


「闇ノ宮美夜の引退が、俺のせいだってことか? 闇ノ宮美夜の存在すらついさっき知った俺が、3か月前の引退・転生に関わってるって、もはやトンチかなぞなぞの類だろ」

「うぷぷ……あはっ♪ いいですか、丈太さん。闇ノ宮美夜に限らず、シコらせ系VTuberの突然の引退理由なんて、一つしかないんですよ♪」


「…………いや、待て。猛烈に嫌な予感がする。少し心の準備を――」


「彼氏バレです♪ 彼氏バレですよ、せんぱい♪ 丈太さんの存在が闇ノ宮美夜を引退に追い込み、そしてセレスティア・ティアラを生み出したんですよ♪」





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ここまでが第一章です! 第二章も毎日投稿していくので、引き続きお付き合いお願いします!

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