チキンでもヒヨるなかれ
山樫 梢
チキンでもヒヨるなかれ
小さな森の中央に立派なケヤキが生えていた。冬を迎え自身の葉をすっかり落としきったその木の枝のあちこちに、
寄生植物はヤドリギと呼ばれており、ある種の者たちにとっては特別な意味を持つ存在であった。
幼い少女がケヤキに登り、やっとのことでヤドリギの茂みにたどり着く。少女はサロペットスカートのポケットからヒヨコのぬいぐるみを取り出すと、その体に花柄のハンカチを巻いた。
少女の顔は涙でぐしょぐしょに濡れている。今まさにハンカチを必要としているのはこの子の方であったろうに。
「かならずむかえにくるからね」
少女はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて頬に口づけを落とすと、ヤドリギの茂みの中に押し込んだ。落ちてしまわないように、しっかりと中央へ。
「ぜったいに、わたしのことまっててね。ピーちゃん」
作業を終えた少女は愛しいぬいぐるみに別れを告げ、そろそろと木から下りると、名残惜しげに何度も振り返りながら森を後にしていった。
◆★◆
広大な森の中にひっそりと
そのカウンターに突っ伏して、今日も今日とてひとりの
「どーせよー、オレなんてよー……」
鶏獣人はぐずぐずと自虐を続けながら、時折顔を上げては目の前の杯を翼の手で器用に持ち上げ、中の果実ジュースを
「おかわり!」
「ホントいいかげんにしなさいよね、アンタ」
常連の態度に怒るより呆れを
これがお説教の始まる前触れであると学習している鶏獣人は、再び頭を伏せ翼で
そこへ――
カラン カララン
ドアにつけられた木製のドアベルが音を立てる。
犬獣人の注意がそちらへ向くと、小言を締め出す構えだった鶏獣人も顔を向けた。
「お迎えが来たっす!」
喜び勇んで飛び込んできたのは熊獣人だ。満面にしまりのない笑顔を浮かべている。
「あらおめでとう、クマちゃん」
「クマちゃんじゃなくて『カムイ』っす! ご主人に名前を貰ったっす!」
「まあ、素敵なお名前じゃない」
犬獣人が祝福する一方、鶏獣人はゲップのような鳴き声をあげた。カムイと犬獣人は一瞬真顔になって鶏獣人を見たが、無視してすぐに会話に戻る。
挟まれた非礼もなんのその、カムイはすこぶる上機嫌だ。
犬獣人としばらく言葉を交わすと、カムイはぺこりと大きく頭を下げた。
「今までお世話になったっす! 犬さん、ついでに鶏さんも、早くお迎えが来るといいっすね!」
「ありがとう。ご主人様と仲良くね」
ぶんぶんと両手を振って別れを告げるカムイを見送ると、店の中は一気に静かになった。
「あいつに話してなかったのか?」
カムイが出ていった後、鶏獣人がぽつりと呟く。
「お前が捨てられたってこと」
「門出に水を差すことないでしょ。アタシの話なんてどうだっていいのよ」
無遠慮な鶏獣人の言葉に気分を害した様子もなく、犬獣人が肩を
「アンタこそ。捨てられてもいないくせに、いつまでここにいるつもり?」
犬獣人はじろりと鶏獣人を
「お前でさえ捨てられたんだぜ。オレが受け入れられるはずがねぇ」
「そんなの、会ってみなきゃ分からないでしょ」
鶏獣人は再びべしゃりと頭を伏せた。
「会わせる顔がねーよ。……あいつの可愛いヒヨコは、もうどこにもいねーんだ」
◆★◆
一般の人々にはただの寄生植物の一種でしかないヤドリギは、ある種の者たち――魔法使いにとって特別な植物である。
魔法使いとして一人前たりえる魔力を身につけた者は、獣を
魔法使いの魔力により人形は血と肉を備えた体となり、ヤドリギの実は魂を宿した
こうして魔法使いが
ヤドリギの実が魔核に変化し、
すなわち、魔法使いによって生まれ魔法使いのために生きるのが
鶏獣人は10年前に命を得た際、宿し手である魔法使いに会うことなく逃走していた。
鶏獣人の宿し手が宿魂の儀を成功させたのは、なんと6歳の時分。破格の若さは秀でた才能の証。が、その若さが故に問題は起きた。
そもそも
しかし鶏獣人の宿し手が選んだ
いかに魔法使いとしての資質が高かろうと、思考は子どものそれ。
宿し手の才によるものなのか、さして体積のない形体であったためか、ヒヨコのぬいぐるみの“ピーちゃん”は
この異例の早さがまた悲劇を生んだ。
ぬいぐるみのヒヨコは
くりくりとした黒目は
愛らしいヒヨコのぬいぐるみの面影など欠片もない。
成鳥した自らの姿を湖面に映して初めて目にした時のピーちゃんには絶望しかなかった。
かろうじて残った共通点といえば花柄のハンカチぐらいだが、ヒヨコには大きすぎたそれも成鳥後の体では鳥足に巻くのが精一杯という有様。
せめて
――
可愛いヒヨコ獣人に会うことを期待して訪れたあの子が、こんな姿を見たらどう思うだろう? きっと泣き出すに違いない。
ピーちゃんは宿し手の少女に拒絶されることを恐れて逃げ出した。それからずっと逃げ続けている。
◆★◆
犬獣人の宿し手は自分の
魔法使いの用意した
――
「どうなるかなんて実際に会って確かめなさいよ」
思考を読んだかのように犬獣人が
自分は捨てられたというのに、犬獣人はいつも鶏獣人に宿し手を捜すよう勧めてくる。それが同じ目に遭えという陰湿な巻き添え願望ではなく、純粋な気遣いからであるというのは理解しているのだが……。
「オレは見た目がこれな上に中身までこんなんなんだぜ」
ふわふわした体にふさわしいふわふわした魂を宿していたとしても、いつまでもピヨピヨしてはいられない。結局育てば鶏なのだ。
犬獣人の経た苦汁を知った時、鶏獣人は逃げ出して正解だったと確信した。
あの子も今頃16歳。分別のついた少女は過ちに気がつき、宿魂の儀をやり直したかもしれない。
今更のこのこと顔を出して、別の
この選択で間違いない。そう、思うのに。
<とまりぎ>がある森にはヤドリギの寄生した木が多く、ここでは他の
それでもヤドリギのある場所に居着いてしまうのは、
鶏獣人の態度に、犬獣人が見下げたように鼻を鳴らす。
「アンタってホントどうしようもないわ」
「どーせオレは
◆★◆
鶏獣人がいつものようにカウンターに突っ伏して愚痴っていた日のこと。
ガラン ガララン
乱暴にドアが開けられ、
「よぉ、久しぶりだなぁワン公」
どうも彼は犬獣人と顔見知りのようだが、店に入り浸っている鶏獣人には覚えがない。
カウンターに頭を乗せたままじろじろと様子を窺う視線を察して、狼獣人も鶏獣人に値踏みするような視線を返す。
「
「来ねーよ、んなもん」
「なんだ、
実際のところ鶏獣人は明確に捨てられたわけではないのだが、相手は鶏獣人を同類と受け取ったようだった。
狼獣人は顔色に邪悪さを浮かばせてにんまりと笑う。
「なら
「待って、この子は……」
犬獣人に割って入られ、狼獣人はやれやれとばかりに
「おいおいワン公。仲間外れにしちゃあ気の毒だろ? 心配すんな、今度の獲物は上玉だ。多少分けてやってもお釣りが来る。もっとも、取り分は働き次第だがなぁ」
なにやらきな臭い雰囲気に鶏獣人が半目になる。
「仲間って何のだよ?」
「決まってんだろ、魔法使い狩りよぉ」
狼獣人から出た予期せぬ言葉に、鶏獣人は大きく目を見開いた。
「魔法使い狩り!?」
「なんだ
鶏獣人の驚きに、狼獣人は冷笑を
「しょうがねぇ。俺様が説明してやらぁ」
狼獣人は鶏獣人の隣の席に腰を下ろして足を組む。鶏獣人が不作法な体勢を続けているのにも構わず、話を始めた。
「俺様たち
鶏獣人がカウンターに乗せたままの頭で頷くと、狼獣人が続けた。
「ヤドリギの実を魔核に変えたのは宿し手の魔力。それを維持するにも魔力が必要だ。契約すりゃあ宿し手から魔力が供給されるが、
「んなはず……」
頭を上げて否定しかけた鶏獣人の嘴を、カウンター越しに前足を伸ばしてきた犬獣人が押さえつける。
「ショックなのは分かるが、
「おいおい、何を渋ることがある? そのナリだ。どうせ
勘違いを続けたまま、狼獣人は忌々しげに自分の腰を叩く。
「俺様はなぁ、元は魔女に作られた人形だった。だが、そいつが半端に
語り口調こそ軽いものの、狼獣人の目は強い憎悪を浮かべてギラついていた。
過去を思い返して虚空を睨みつけていた狼獣人が、鶏獣人に視線を戻す。
「で、
つっぱねようにも、鶏獣人の嘴は犬獣人に押さえつけられたままだ。
「この子はいいわ。まだ気持ちの整理がつかないでしょうし」
見当違いの返事をして、犬獣人が狼獣人に確認する。
「獲物はどこに?」
「すぐそこの北の街道だ。森に入る前にやるぞ。契約された後だと面倒だからなぁ」
「後から行くわ。先に行っておいて」
「分け前が欲しけりゃさっさと来いよ」
狼獣人はドアを開けて外へ出ていく。
その姿が見えなくなってからようやく解放された鶏獣人は、飛び起きて犬獣人に向かい
「なんで好き勝手言わせてんだ!? あんなんデタラメだろ!! 契約せずに10年経ってもオレは死んでねー!!」
「アンタが死んでないのは、アンタの宿し手がアンタを見捨ててないからよ」
犬獣人が鶏獣人を睨み据えた。怒られたことなら何度もあるが、その眼光はかつてないほど冷ややかで鋭い。
「仮契約をそのまま残して、自分の傍に居もしないアンタの為に魔力を送ってくれてるの。何度も言ったでしょう? 会いに行くべきだって」
「なっ……」
「会ってどうなるかなんて分からないわ。アタシみたいに、内面が理由で捨てられるかもしれない。けれど、少なくともアンタには今もまだアンタを待っていてくれるご主人様がいるのよ」
「じゃ、じゃあお前は?」
<とまりぎ>がいつからあるのかは知らない。
少なくとも、鶏獣人がこの森に来てから既に5年。
「お前は……食ってんのか? 魔法使いを」
「……
鶏獣人は今になってようやく、犬獣人がなぜここに居を構えているのか理解した。魔法使いを狩るのであればヤドリギの側ほど適した場所はない。
自分の
鶏獣人の脳裏に、お迎えが来たとはしゃいでいたカムイの姿がよぎった。
「お前、まさか、熊の時も……?」
カムイだけではない。ここに来てから何人もの
「気に入ってる子やその宿し手を傷つけたりはしないわ。……少なくとも、アタシはね」
鶏獣人は先程までこの場にいた狼獣人の荒々しい姿を思い起こす。
捨てられた身の上は気の毒ではある。けれども、彼らが長らえるためにこれまで一体どれだけの無関係な魔法使いたちが犠牲になってきたのだろう。
呆然としている鶏獣人を置き去りに、犬獣人が店を出ていく。
◆★◆
ひとり店に残された鶏獣人は翼で顔を覆って苦悩する。
魔力を送ってくれているということは、あの子はまだ探しているんだろうか。いなくなってしまった“ピーちゃん”を。
――かならずむかえにくるからね。
あの言葉を何故信じることができなかったのか。
「鶏冠にくるぜ。オレはどうしようもねー
宿し手から見捨てられていないと知っても、どうすればいいやら。戻ろうにも
それよりも、差し迫った問題はあの
この森の中には、今か今かと宿し手の迎えを待つ
放っておけば犠牲が出てしまう。
かといって、行ったところで何になる?
けれども、狼獣人のような
これから起きることを看過して、いつかあの子と再会できた時に顔向けができるだろうか?
「くそっ、いつまでもヒヨってる場合じゃねー……!」
◆★◆
意を決した鶏獣人が駆けつけると、狼獣人が赤いローブを着た一人の魔法使いと
――
辺りを見回し、鶏獣人は魔法使いの背後の茂みに隠れている犬獣人の姿を見つける。隙をついて今にも襲撃する構え。
狼獣人に気を取られている魔法使いは気付いていないようだ。
「やめろ!!」
身を潜めていた犬獣人が踊りかかった
直後、
「アンタ……!」
鋭い歯で尾羽を食いちぎった犬獣人が
「おい、大丈夫か!?」
魔法使いが
恐怖で動けないのかもしれない。抱えて逃げられるだろうか。
「それ……」
呼びかけが耳に入らなかった様子で魔法使いが呟く。
相手が指差したのは、鶏獣人が左脚の
「ピーちゃん、なの?」
震えた声で呼びかけられて、鶏獣人の
誰にも明かしてこなかったその名を知る者はこの世に一人しかいない。
おそるおそるこちらを見上げてくる若草色の瞳。ローブのフードが外れ、
目の前の少女に、泣き虫だった女の子の面影が重なる。
「シャロン!?」
名を呼ばれた少女の顔がくしゃりと歪む。あの日のような涙――ではなく、浮かぶのは
「この、裏切り者!!」
シャロンは低い体勢のまま、器用に鶏獣人の右脚を蹴りつけた。
ただでさえ尾羽を失った尻が痛むのに、脚にまで容赦のない連撃をくらい、鶏獣人は堪らず悲鳴を上げた。
「おい! ちょっと! 待て!!」
「待っててって言ったのに! ずっと探してたのに!」
ふたりの様子を見て関係を察した狼獣人が、憎悪に満ちた唸り声を放つ。
「ちくしょうが!
鶏とはいえ
少しも怯むことなく、シャロンは立ち上がって狼獣人を睨みつけた。
「私は
「捨ててねー!」
鶏獣人は
逃げこそしたが捨てたつもりは毛頭ない。むしろ、捨てられるのではないのかと常に怯えて生きてきたのだ。全て宿し手を想うが故である。
――けれども、状況だけで判断するなら捨てたと思われても仕方がない、かもしれない。
「オレは……もうヒヨコじゃねー」
「だから何?」
シャロンは
「この通り、可愛くなんてねーんだぞ」
「別にあんたは可愛くなくてもいいでしょ。その分私が可愛くなったんだから」
鶏獣人は言葉を失い、胸を張ったシャロンを見つめる。
動物寄りの姿を持つ
確かに、幼い頃から愛らしかった少女の容姿は成長して更に磨きがかかっているように見える。宿し手への
しかし。
――性格の方は可愛げがなくなったな。
泣き虫で甘えんぼうだったあの頃のあどけなさは一体どこへ。
鶏獣人は嘴まで出かかった言葉を呑み込んだ。自分だって相手のことを言えたものではなかったので。
「私と契約する気はある?」
確認というよりは脅すような口調でシャロンが尋ねる。
「当たり前だろ」
剣幕にひよったからではなく、心からの言葉で鶏獣人が返す。
束の間睨み合うように見つめ合うと、シャロンは
宿し手が血を与えるのは、正式な契約の証。これにより
シャロンに触れられると、鶏獣人の中の
体を通して杖が引き出されたというのに、鶏獣人に痛みや違和感はない。胸を占めるのは、自分と宿し手との間にある目に見えない強固な繋がりだけ。
魔法使いは
それが
鶏獣人――ピーちゃんは抱え続けていた不安をとうとう乗り越えた。
成長してどんなに変わってしまっても、シャロンを捨てようだなんて思わない。その想いはお互い様。
今なら、今更ながら、迷いなく
シャロンはオレのもので、オレはシャロンのものだ。
こんな
◆★◆
護衛の必要などないのではないかというぐらいに、杖を得たシャロンの力は圧倒的だった。
狼獣人はあっけなく倒され、残るは
初撃でピーちゃんの尾羽を食いちぎって以降、犬獣人は戦意を
「なあ、お前……」
ピーちゃんが犬獣人に声をかけて近寄ろうとした瞬間、倒れていた狼獣人がぐばっと牙を剥きだし、ピーちゃんの腹部めがけて襲いかかってきた。
シャロンも対応しようのない不意打ち。
ピーちゃんは目と嘴を堅く閉じて覚悟を決めた。
が、いつになっても痛みも衝撃も訪れず――。
こわごわと目を開くと、そこには横腹を大きく食い破られた犬獣人の姿があった。一瞬思考が真っ白になったのち、庇われたのだと理解する。
狼獣人の方はそれで力を使い果たしたようで、歯噛みして悔しがるその体はぐずぐずと崩れていく。
ピーちゃんは犬獣人の傍にへたり込んだ。
「お前、なんで……」
「言った……でしょ。気に入ってる子……は、傷つけたり……しない、って」
「――っ、シャロン、こいつを……」
言わんとする先を察して、シャロンは力なく首を振る。
「だめ、治せない。魔法で
ピーちゃんは絶句した。
犬獣人は既に自分の魔法使いから契約を拒まれている。
よしんばシャロンに犬獣人を癒す力があったところで、その先も生き長らえさせようとすれば、他の魔法使いを犠牲にし続けるしかない。
その
「気にすること……ないわ。当然の……報い、だもの」
「お前……」
「アンタ……が、うら……やましい。アタシも……受け入れて、欲しかっ……」
ああ、こいつはどんなに。
ピーちゃんが肌身離さずハンカチを持ち続けていたように、犬獣人が身に着けているトゲつきの首輪も、まだ人形だった頃に魔法使いから贈られたものだという。
捨てられた犬獣人に唯一残された宿し手との繋がり。
なかなか迎えが現れず、<とまりぎ>にぼやきに来る
これまで迎えの来た
耐えがたい
シャロンが近寄ってきて、犬獣人の横にしゃがみこむ。
「あなた、名前は?」
「……グリム、よ。
シャロンがそっと触れると、犬獣人の体が淡く光を放つ。
「グリム」
名を呼ばれたグリムは
シャロンが手で撫でるようにグリムの目を閉じさせるやいなや、狼獣人と同様にグリムの体も崩れて消え去る。残されたのはヤドリギの実と首輪だけ。
シャロンはその首輪を拾うと、ピーちゃんに押しつけた。
一度魔力を帯びた種は強い生命力を秘めている。残された実をついばんだ鳥が運ぶことで、ヤドリギは生息域を拡大していく。
――これもまた、魔法使いとヤドリギの共生のあり方。
「墓でも作ってやるか……」
埋葬する体はないが、せめて首輪だけでも
『これ……どうなってるの?』
「首輪が喋った!?」
慌てたピーちゃんがわたわたと首輪を持て余すと、シャロンが溜め息をついた。
「グリムの魂を首輪に移したの。あの状態から
ピーちゃんは
『いいわ』
首輪から苦笑したようなグリムの声が返る。
『もうしばらくアンタたちにつき合ってあげる』
◆★◆
――私、従者を裸のまま連れ回す気なんてないから。
シャロンからそんな宣告を受けて注文した服が仕上がった。
『アンタって、オシャレのセンスがまるでないのねぇ』
「うるせー」
姿見の前でまじまじと服装を検分していたピーちゃんに、呆れたような声で
「んなもん無くて結構だ。お前を着けてる段階でオシャレもなんもねーだろ」
残念ながら、シャロンの魔法でも食いちぎられた尾羽は生えてこなかった。
このダボついた服装はそれを隠すためでもあるという文句が嘴まで出かかったが、ピーちゃんはかろうじて堪える。首輪になってしまった相手をそこまで責めるのもあんまりだろう。
「ちょっと、服どうだったの?」
ノックの音がしたかと思えば、返答も待たずにシャロンが部屋に入ってきた。
振り返ったピーちゃんは無言で両翼を広げて見せる。
シャロンの視線は、そのオーバーオールのデザインでひときわ目立つ胸当て部分のポケット――そこだけやや
何か言われるのではと身構えていたピーちゃんだが、シャロンは何も言わずに
ピーちゃんは緊張を追い出すように長く息を吐き出した。
『あの子、スキップしてたわね』
「言うなよ」
からかうように報告してくる
チキンでもヒヨるなかれ 山樫 梢 @bergeiche
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