第19話 がっかりな魔剣?・3
「よ」
ぼん、と土で壁を作る。
「えい」
ぽすん、と上に屋根が出来る。
全員寝るのに十分な広さ。
5分もかからず、寝床が作れてしまった。
「マツ様、もう終わってしまいましたね」
「そうですねえ・・・どうしましょうか?」
「お風呂作りませんか? 穴掘って、石みたいに固めてしまって」
「あら、いいですね! 露天風呂ですか」
「ちゃんと壁も作っておきましょう。マサヒデ様が覗くかも」
「うふふ。私は覗かれても構いませんよ?」
「マツ様、カオルさんやラディさんも覗かれちゃいますよ?」
「あ! それはいけませんね! ちゃんと壁も作っておきましょう」
うきうきした2人の横で、ラディは悲しげに沈んでゆく夕陽を眺めている。
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ぴ! と棒手裏剣が刺さり、リスがびくっと震えて動かなくなった。
「ふっ・・・」
5匹目。
シズクは勝負だと言っていたが、あのがさつな女に負けるものか。
この周辺に大物はいないのだ。
「・・・」
そっと目を閉じ、静かに周囲の気配を探る。
・・・この辺りにはもういない・・・
少し動くか。
(いない鹿でも探してうろついているか? 迷子になるなよ。ふふふ)
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「ふんふーん。ふふーん」
がさがさと茂みを歩くシズク。
「何かいないかなー」
前に来た時は何もいなかったが、1匹くらい、鹿とか猪あたりがいたって・・・
がさがさ。
もうすぐ日が沈む。
何か見つけないと、カオルが捕まえてくるネズミと干し肉だけの夕食だ。
すん。
「むっ!」
シズクの鋭敏な嗅覚が、獲物の匂いを捉える。
これは・・・すんすん。
がさがさと匂いの方角に歩いて行く。
「おお! すげえ!」
わっさりと椎茸が生えている!
「やったね!」
袋を開け、ひょいひょいと中に放り込んでいく。
これだけ持っていけば、十分カオルに勝てる! 袋一杯だ!
帰りに何か見つけられたら、得点アップだ!
「ふふーん。もらったよ」
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乾いた枝を拾って、紐でまとめる。
あと2束もあれば十分か。
「マサヒデさん、あの魔剣の力、何とか使えませんかね?
使えないというのは、あまりにも勿体ない力です」
「弓とか、飛び道具ならいけますかね?」
「狙う方に集中しますし、無理じゃないですか?
それに、刀であれだけ切れ味がすごかったじゃないですか。
矢がどうなりますかね? どこまでも全てを貫通して・・・なんて」
「恐ろしすぎますね。流矢が大量の人を怪我させてしまいそうです」
「こう、居合のように一瞬だけとか・・・いや、余計難しいですか」
「一瞬だけ・・・」
ぴた、と長い枝を持ったマサヒデの手が止まる。
「一瞬か・・・」
「お、マサヒデさん、何か閃きましたか?」
「離れた所から、ものすごく長い槍なんか作ってみるのはどうですかね?
槍なら飛んで行かないし、間合いが離れていれば・・・どうでしょうか?
ぐんと伸ばすことが出来れば、強力な飛び道具と変わらない」
「ほう・・・中々良い案ですね。
しかし、実際に持ったことのない得物は、上手く作れますかね?」
「ううむ・・・思い浮かべてみるだけでいけるでしょうか?」
ぱき、と枝を折る。
難しそうだ。ぼんやりした像では、上手く形になるまい。
見た事があるか、実際に手に持ったことがなければ難しいだろう。
手に持った・・・?
「む・・・」
「どうしました?」
「アルマダさん、例えばですけど・・・
父上の刀のような、何か特殊な力を持った得物を思い浮かべた場合です。
その力も、再現することが出来るでしょうか?」
ぴた、とアルマダの手が止まる。
「・・・それは・・・」
「マツさんとクレールさんは、三大胆と月斗魔神を持たせてもらったそうです」
「・・・」
「そうだ。ラディさんは、三大胆、魔神剣、月斗魔神、3本を持ったはず」
「・・・試してもらいますか?」
「ラディさんなら、しっかりと像を浮かべる事が出来ると思います。が・・・」
「もし、月斗魔神のような危険な力が再現されたら・・・事ですね」
もし、あのような危険な刀の力を再現出来たらどうなるか。
それを、あの魔剣で使用出来る者がいたら・・・
あの魔剣の力を使用出来る者は、余程の達者しかいない。
そのような者が、あの危険な力を持った刀を持ったら。
悪意を持つような者であったら。
大量の人が死ぬ事は間違いない。
「危険ですね」
「ええ」
ばき、と太めの乾いた枝を木に立てかけて踏み折る。
「しかし、どちらにしてもはっきりしたことがあります。
この力は、祭の旅では使えません。魔力の補給として使うべきです。
使っている所を放映されたら、世界中に魔剣を持ってるってバレます」
「そうですね。使いこなせる人がいれば、怖ろしい事になり得る。
これじゃあ、どこから狙われても・・・」
ば、とアルマダが立ち上がり、ぱさ、と手に持った薪が落ちた。
祭。私達は、勇者祭の参加者。
ゆっくりと、マサヒデの方を見る。
目が恐怖を浮かべている。
「マサヒデさん、私、すっかり忘れていました。
我々には、目付けの帯がついていますよね」
はっ! とマサヒデも気付く。魔剣に浮かれ、すっかり忘れていた。
祭の参加者には、目付けの帯が付いている。
常時監視されているようなものだ。
ほとんどは、戦っている者を見ているだろうが・・・
見られない場所は、マツの、あの空間に閉じ込める魔術だけだ。
「今の会話、聞かれていなかったでしょうね?
どんな危険な力も、再現出来てしまう可能性がある、と・・・」
つー・・・と、マサヒデの額を汗が垂れていく。
今の会話を聞かれていたら・・・
まずい。それはまずい。
可能性がある、というだけでも、狙うには十分だ。必ず狙われる。
役所に魔剣登録の申請を出しても、数日はかかる。
申請が通るのをのんびり待っていては、その間に・・・
国王陛下か。いや、魔王様に緊急連絡をして、即封印してもらわねば。
「もし聞かれていたら・・・今夜にでも来ますね」
「ええ。近いうちに必ず来ます」
2人の顔が厳しい顔に変わる。
す、す、と周りを見回し、気配を探り、警戒する。
「・・・数日は、警戒した方が良いですね。
しばらく何もなければ、気付かれていない・・・と思いますが」
「私もそう思います」
「しまった・・・新しい魔剣の調査なんて、軽率にすぎました・・・」
「マサヒデさん、過ぎたことです。気付かなかった我々全員が、軽率だった。
見られていなかった、気付かれなかった事を祈るしかありませんね。
ホルニコヴァさんには、後々試してもらいましょう」
アルマダが木々の隙間から、沈む夕陽を見る。
「日が沈みます。そろそろ、行きましょうか」
「ええ。薪は十分でしょう」
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野営の場所に戻ろうと木々の間を抜けると、大きな建物が出来ていた。
マサヒデもアルマダも、足を止めてしまう。
「う。マサヒデさん、あれは・・・」
「マツさん・・・また調子に乗ってしまったみたいですね」
「ま、広いにこしたことはありませんよ。ありがたい事です」
「ふう。今夜はゆっくり休めそうです」
2人は建物に近付いてゆく。
建物の前で、ぐったりと壁に持たれかかるラディ。
裏からは、きゃいきゃいとマツとクレールの声。
ラディには話しておこうか。
まだ、がっかりして気の抜けた顔だが、話しておくべきだ、と思う。
彼女は、この魔剣を手掛けた者なのだから。
ばさっと薪の束を置く。
「ラディさん。ちょっとお話が」
ちら、とアルマダがマサヒデを見る。
小さくマサヒデが頷く。アルマダも頷く。
ぼんやりとした顔で、ラディがマサヒデを見つめる。
「立って。少し、話があります。向こうで。
この魔剣についてです。誰にも聞かれたくない話です」
魔剣・・・力を使うことが出来ない魔剣。
マサヒデの顔は真剣だ。
誰にも聞かれたくない話? 何かあるのか?
ラディはよろっと立ち上がり、マサヒデの後に付いて行った。
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