サイバーパンクな日本で俺が生き残る日々、或いは俺の苦労譚
@navi-gate
第1話@サイバーな世界と俺と
俺が自身が転生者であるということを理解したのは、ケミカルなポッドの中から世界にこんにちは、した時だった、最初は当然のように混乱した。当然である、だって目を覚ましたらわけわからん液体の中にin、これなら俺はいい年こいておねしょをした方がマシだとすら思った。しかしどっこい現実が覆ることはない、いくら頬をつねろうと、ステータスオープンと叫ぼうと俺に何かが起こることはない。
精神を(無理矢理)切り替えて周囲を見渡すことにした、どうも廃棄された研究所、それも日本のものらしい、それを理解できたのは日本語だったという事実。しかしどうも小難しい言葉ばかりが使われていたせいで半分も理解できなかったが、幸か不幸かこの乗り移った体はナノマシン強化被検体と言う面白ボディだったことである、この体は実に強い、体内に投与してある寄生機械群が戦闘を主要目的としあらゆる戦いに対応できるように調整されているのだそうだ、デメリットは死ぬほど金がかかるということである。どれくらい金がかかるというと、成人男性の平均必用摂取カロリーが大体2000キロカロリーを数百越えるところを俺は最低でも6000、つまりー…最低3倍、水泳選手と一緒だね、やったー!
ばかじゃねーの?ねぇ、何その糞燃費、苛立ちまぎれに机に打撃、一撃でひしゃげる、殴った右手には傷一つ憑かない、唖然とするバカみたいな俺、わーいちーとらー!やめてくれ…俺はこんなの必要としていない…のだが、どうにもそれは許されないようだった、はい、この糞厄介なボディを抱えて俺はこの世界でいきること確定しました……神様と言う存在がいたらこう言ってあげよう……ファッキュー!……と、嘆きを口に出しながらその謎の研究施設で過ごすこと数週間……おそらく1ヵ月は経っていないはずだが、この新しい体を慣らし続けた、幸運なことに相手はたくさんいた、戦闘用習熟人型ドローン・練習君と毎日のように組手を行った、馬鹿みたいな名前だが、俺のような産まれたてホカホカの被検体に対して徹底的に戦闘能力をしみこませることを目的としているから実に強い。
そもそも俺の体は一通り戦闘をこなすことができる、と言うのもそれは俺の脳みそに軍人の戦闘技能をインプリンティングしてあるからだ、インスタント技能習熟装置は実に未来なテクノロジーだ、もちろんこう言ったものには言語用だのなんだのと複数種類が存在する。今はそれはいい、とにかく俺の脳みそには幾重もの戦闘技能を機械で強制刷り込みしてあるということ、だが、よく言うだろう、理解すること会得することは、知ると言う事だけとは違うのだ。
最初の戦闘訓練はとにもかくにもインプリンティングされた技能と戦闘用ナノマシンに振り回されて何の戦いにもならなかった、ドローンにぼこぼこにされては床にへばる毎日。つ、つらい……自分の血と吐瀉物にまみれては気絶し、カロリーだと栄養素だけが取り柄の謎チューブで腹を満たす毎日、クソクソクソうんこ……おっと、いけない、俺の口は悪い子!おファック!!……ともかくこの謎の体を己のものにするだけの毎日だったと言えるだろう。
しかしそんな中でも少しだけわかったことがある、この施設がどういうものかと言えば、軍に戻った自衛隊が促成で兵士を作り上げるための研究を行っていたらしい、俺はその研究の一端、人間の平均値より上にステータスがスペシャルな…文武両道の精子を強制採取し、何人もの女性の卵子と共生受精…俺クローンじゃなかったのかな?ま、それはいいとして、そう言ったデザイナーズベビーに投薬機械処理あらゆる人間的倫理を逸した処理を行い、生き残ったボディが俺なのだ、ちなみに他のボディは既にカラカラ…比喩にあらず出会った、怖いわ、マジで……一歩間違えればこの体もそうだったのだろう。ともかく、そう言った軍用の施設であったがゆえに過剰なほどの戦闘力を持ち得ていたわけである、これだけで今の日本のお先が真っ暗だと言うのがわかる。平和だったらいらねーもんな、こんなパワー。
他にも面白かったのは、実験の一端で俺たちは殺し合いをしていたと言うのもあるらしい、脳内に流れる微弱な電気を常にサンプリングし、常に戦いの優勢をモニタする、それで勝ち負け問わずに得たサンプルをどういったケースでこうなったか、をパターンとして教育するという目的らしい。い、嫌な実験だなぁ…が、それもまた俺の戦力の一端、むべなるかな。
そんなこんなで毎日毎日ボコされてはだんだんとボコせるようになり、だんだんとドローン相手に勝ち越すようになり、食料がなくなってきたころに…俺は外に出ることとなった。
こんにちは東京、地獄の都市、ネオンと悪臭に包まれた大地よ!…と、格好つけては見たものにこれは実に酷かった、と言うより俺のいたところ東京なのね、西東京は青梅の山奥にあったは、あの施設…で、町を歩けばおのぼりさんと間違われては色々とむしられそうになった、なんだぁ…この治安は!これのどこが東京だぁ……?と言いたくはなったが、考え見たら個々の世界はもう俺のいたころの日本じゃない、令和な日本にあんなヤバ施設があってたまるものかよ。
しかしてこの東京…言ってもいいのか、そんな東京は実に熱気に包まれていた、かつての現代日本人が忘れたバイタリティを生首と一緒に増やしたようだった、道を行けば違法屋台がはびこり、謎の飯を売っぱらう、少し道をはずれれば違法サイバネティックやらサイバーウェアを売る商店が合ったり、それと癒着する違法クリニックがごまんとある、ふえええ…戦後の闇市のほうがまだお行儀がいいよぉ…歴史の授業でしか知らないけど……。
他にも目を疑うのは、ヤクザが道を我が物顔で闊歩し、サイバーサムライなる存在がおり、ついでにサイバーニンジャも存在するといったものだ、なんだ、今度は外国人の考える謎日本だったのだろうか……いや、サイバーな世界における日本なんてこんなものだよな、俺知ってるよ、だってこんな世界だもん。
とは言え嘆いてばかりもいられない、愚痴の一つも言いつつ食い扶持を見つけなければならない、研究所からかっぱらってきた食料はあるが、それだって何時まで持つかわからない、やっぱりいきるのに必要なのは食料で、それを手に入れるにはおぜぜなわけである、世知辛い……なんでこんな時代でも働かなあかんのか、おかしいだろ!テクノロジーの発達で人間は働かなくていいんじゃないのか!?やはりセクトで革命を…と言うのは流石に冗談だが、やっぱり食い扶持は絶対的に必要になってしまうのだった……。
向かった先は口入屋、要するに日雇いバイト斡旋所である、ちなみに平和な時代を思うと目玉が飛び出る、いや、普通の仕事はあるにはあるが、他にも殺しの依頼やら売春の依頼やら……治安が悪いにもほどがある、堂々と殺人斡旋するな…あ、売春も普通にダメだろ…今更言っても仕方ないのだが。
ともかく俺は仕事を漁る、敵対ヤクザ抹殺、ゲイむけポルノムービー求人、工事の人足……最後だけ普通だな、と、思い手に取る。安かった。とんでもなく賃金が安い。今の日本の通貨は新圓(ニューエン)なのだが、これはかつての円を十分の一した程度、大体100円=10新圓と考えればいい、なので工事のお助け1回は100新圓、前世基準で1000円である……時給じゃなくて1回の参加で……やすぅいっ……馬鹿じゃないの?なんでこんなに安いの?と思い発注元を調べてみれば、会社名なんぞどうでもよく、上の上は日本政府……つまりお国からの依頼であり、この発注の間にいくつもの子会社が受けて……はい、お分かりだろう、ザ・中抜きである。こんなんじゃ仕事になるわけないわ!勿論こんなゴミ依頼に人は集まらない、ちなみに公共事業ができない分の復旧を誰がしているかと言えば……企業、それとヤクザ屋さんである、末法ここに極まれり、政府当てにならないの怖すぎだろ……そして金のある依頼と言えば何か、金持ちからく以来となり、殺しだのクラックだ売春だのと言った聞くに堪えない仕事の数々が高給になり、一発逆転を狙ったおバカさんたちが目をくらませてそれにひっかかり、年に馬鹿みたいな数の人間がいの位置を男女問わず落とすわけである。悲しいだろこの世界の日本…。
なんでこうなったかを考えるのは今はどうでもいいが、とにもかくにも今は俺の食い扶持である、お願いです…できればちょっとでもまともな依頼…あれ、あれ!神様頼んだ……!!
この世に神様なんていなかった、バカンスに行っらっしゃるようだ、あるいは岩戸の中で引きこもってパーティータイムか、まとものまのじもありゃーねー!馬鹿!なんで大体物騒なんだ!……しょうがないので選んだのはボディーガードだった、能動的に殺さなくていいと言うのがギリギリマシな話だからである。
依頼主は日本電脳コーポレーション、この日本におけるサイバーセキュリティ企業で、いわゆる暗黒メガコーポである、どうしてあんな木っ端口入屋に依頼が入ってきたのか、簡単な話だが依頼主の立場が危ういという極めて悲しい事実。つまり社内政治で脅かされて挽回をしなければならないのだが、その際依頼主を徹底的に貶めるために刺客を送られるかもしれないらしい、しかし既に弱っちい存在になり下がった依頼主にはまともなボディーガードを雇うだけの財力がない、何とか挽回のための根回しで大半の資金を使いきったのだそうだ、なので依頼料は30万新圓、かつてのお値段で300万円……命を懸けるには安すぎるのだが、それに文句を言ってはいられなかった。
合流場所は東京歌舞伎町の入ビルだった、暗がりの中に顔色の悪い男がいた、背丈はひょろ長くやせ型、その上栄養が足りていないらしくふらついている、どことなくおびえているからか周囲をびくびくと観察し、物音ひとつで飛び上がるように驚く始末だった。
「あんたが…依頼主?」
「ああ…お、おまえが…俺を守るロウニンか?」
ロウニン……浪人は主を持たないサイバーサムライの別称、或いは蔑称で、実質的な傭兵稼業を行っている人間を差す。なんでこう一々恰好を付けるのかな、と思ったが、前世でもそう言った不条理な命名謎色々あったしそう言うものなのだろう。
「ああ今回は俺があんたを護衛する」
「口の利き方に気をつけろ……ロウニン風情が……」
うわぁ、守る気うせちゃーうっ!でも頑張るけどね、初仕事だもん。
「信用できないなら結構だ、しかし当てはないんだろ?」
「……」
「だんまり、それが答えだな」
と、偉そうに言ってみる、依頼主の男の額に青筋が沸く。
「ま、金がもらえりゃなんだっていい、そろそろ詳細な説明を行ってもらう」
「……そうだな、だがその前にお前が敵対企業のスパイじゃないか知りたい、スキャンさせろ」
「ぶち殺すぞ」
スキャン、とは情報の読み取り行為なのだが、これは多岐にわたる、例えば情報媒体くらいなら何の問題もないが、お前を、つまり人間をスキャンとは当然であるが個人情報からくだらないものまで幅広くの情報を丸裸にさせろと言っているようなもの。だから普通は人にスキャンさせろなんて言えない、これはお前を信用できないと言っているようなもの…関係の構築を拒んでいるようなもの…らしい、一応これでもこの世界の常識はインプットしてあるのだ。
「俺が信用できないなら結構、わざわざここまで来たが下りるからな」
「ま、まて、わかった……糞っ…こんな奴に」
うわー、文句タラタラ、最初から頼まなきゃよかったのに……と、思いたいが無理なのだろう、だから落ちぶれている。
男が一枚のチップを手渡してくる。
「依頼内容だ……読め」
言われ、チップの端子に集中、ナノマシンに読み取りを開始させる。
「?なんだ、ポートは入れてないのか?」
「悪いかよ」
ポートは神経接続した情報端末接続装置のことでありダイレクトにチップの情報を読み取ることができるようになる、当然だが今時はこれを備えていない人間のほうが少ないので俺のほうが骨とう品と言えるだろう。俺の場合はナノマシンによる電気信号スキャニング方式、肉体に入れず微弱な電波を使いチップの情報を読み取り、ナノマシンを介して脳みそにその情報を投影する。
内容はこうだ、旧24区千代田区高級住宅街在住、名前はマスダ・コウキ、日本電脳コーポレーション電脳情報解析部部長、彼にはヤクザ組織とつながりがあり、内部情報を横流ししているとされている、証拠のようなものはあるが限りなく黒に近いグレー、しかし内部情報を漏洩しているという確かな情報さえあれば追い落としが可能であるだろうという目算らしい。
「まぁ、理解したけど……なんでお前自身が?」
「……腕の立つオンミョウジは高いんだよ!」
オンミョウジは一般的にネットランナーを差すスラング、西がウィザードなら東のオンミョウジだろう、と言う雑な理屈だが、要するにスーパーなハッカー様のことである。当然だが腕が経つならどんな存在でも支払い費用が高くつくのは当然の話だ。
「で、依頼主さんが出張ると……」
「なんだ…これでも電脳情報のプロフェッショナルだ、最初から脆弱性のある部分なんてわかってる、だがな、それを盗むためのガードが硬いんだ」
「はいはい…それじゃ早速だけど仕事にとりかかろう、準備は?」
「いいに決まってるだろう、それじゃさっさと向かうぞ」
現金な依頼主様だ。
千代田区の閑静な住宅街、そこにアレな男が2人歩いている、俺と依頼主様である。
目立つとも目立たぬとも言える格好ではあったが、しかし千代田区高級住宅街ではやや浮いていると言えるだろう。何事もなければいいのだが……。
「ここだ」
依頼主が指を差す、高級住宅街の一角だけあって、実に豪勢なお屋敷がそこには建っていた、2階建て和風家屋庭付き、これを維持するためにはどれだけの費用が、と思うほどの物件だ。
「奴のメインターミナルにこのマルウェアを仕込んでくれ、こいつは……いや、技術云々は関係ないが、とにかくこれを仕込めば情報がこちらに流れてくる」
そう言ってチップを渡される、良くある普通の市販品だ。
「あいよ……任せておきな」
「い、言っておくが私の進退がかかっているんだからしくじるんじゃないぞ!!」
わかってる、と言って俺は仕事に取り掛かる。俺のボディは特別製、そして脳内インプリンティング情報は軍事系列、つまりステルスについての技巧もきっちり仕込んであるわけである。これくらいはお茶の子さいさいだ。
「さて……ナノマシン起動、情報解析ツールon、シンクロスペースくん…頼んだぜ?」
脳内に火花が上がる感覚を覚える、それはナノマシンが記録しているソフトウェアが起動したということを知らせる、シンクロスペースはいわばソナーのようなもの、機械類が発する微弱な電波を探知し、物がどこにあるかを教えてくれる。十数秒でそれはヒットした、脳内に具体的な地図が映し出される、こういったものはアンチソフトで対策されるのが常だ、と言うのものそもそもシンクロスペースは研究所にあった市販ソフトであり特別製ではないのだ、が、そこは研究所、軍事カスタマイズは施されていた、と、言っても多少でしかない。一つを除けば、行ってしまえば命令系統に置いて一段優先されるということ、要するに俺のシンクロスペースがアンチソフトより優先的に処理されるという事実、ちなみに俺はオンミョウジではないのだが、この情報が垂れ流れてしまえば破滅らしいので別にいいとのことだった。
場所がわかった以上はそこに向かうだけだ、抜き足差し足でゆっくりとすすみ監視カメラを解除しつつ目的の部屋にすすんでいく。途中、その家には子供たちがいた、女がいる、家主の妻だろう……少しだけ心が痛んだ、今から彼らを地獄に叩き落すのだ、ああ、憐れ、だが俺の食い扶持のために……死んでくれ。
前世に持っていた人間的善良性をかなぐり捨てながら仕事にかかる。
目的の場所についた、おそらくは書斎と思われる部屋、誰もいない中で起動している端末だけがある。この家の官吏サーバーだろう、これを介して家のネットが存在するのだ、スロットを探してチップをイン、これで俺の仕事はおしまいだ。
少しだけ後味が……悪い。
終わった後、出迎えたのは依頼主だった、飛びあがりそうなほどに喜んでいた。
「よくやってくれた!お前は……思った以上に有能だったんだな!」
「そりゃどーも」
今、俺はそんなことより酒が飲みたかった、後は飯だ。カロリーがほしい、ナノマシンを起動すると消費電力もあって余計にカロリーが使われる、ふらつきそうな体に喝を入れて目の前の男に相対している。
「よくやってくれた以上ちゃんと依頼料を払おう」
そう言って俺の電子口座に料金が送金される。ちなみに違法講座だ、研究所からかっぱらってきた謎のテックを裏でうっぱらい用意してもらったのだがこの程度はもはや日常茶飯事なので誰も何も言わない。
「……OK、確認した」
しめて30万新圓、俺の新しい世界における初仕事の代金だ、人を地獄に叩き落すその料金でもある。もちろん気に病むことではないことはわかっている、少しばかりだが、依頼の前に排除対象を調べた、当然だが悪いこともごまんとやっている、だから蹴落とされる番を俺が送っただけだ、だがナイーブになる。まだこの世界では数日の赤子のようなもの、当然だが……前世のもらるなんて抜けきらない。
「いや、いい仕事をしてくれた、名前を教えてくれ、また何かあったら頼みたい」
「俺の名前?」
そう言えば俺の名前は何だっただろうか……前世の名前が霞がかる、もう不要なタグだとでも言うように…だから少しだけ逡巡して、脳裏に浮かんだ言葉を言う。
「零一」
ぜろ、いち、俺が飛び出たカプセルに書いてあった記号、この世界での俺の名前にする。空っぽな俺の記号のようなありさまにピッタリな気がした。
「レイイチね……いいだろう、覚えよう、では失礼する、入ってきた情報を垂れこまないとな」
「道中には気を付けな」
「馬鹿め、本社も千代田区だよ」
流石メガコーポ様、と、おれは肩をすくめる。
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