エピローグ 呪いの王になる男
アンリエッサが宿屋を襲おうとしたギャングを叩き潰してから、一ヵ月が経った。
この町に巣食っていたギャング達。
彼らは王家の直轄地であったゴールドリヴァーの代官を殺害して、岩塩を盗掘していた。
法に照らしても問答無用で死罪となるのは間違いない。ウィルフレッドのことも殺そうとしていたことだし……アンリエッサとしても、容赦をする必要はなかった。
「父上にこの町の現状について報告しておいたよ。代官がいなくなっていたこと、ギャングが岩塩の盗掘をしていたことについても。ただ……犯人であるギャングが消えていたのは仕方がないよね」
騒動が終わって、ウィルフレッドが溜息交じりに言う。
場所は新築されたばかりの領主の屋敷である。
代官が使っていた屋敷の廃墟を壊して、新しく立て直したものだった。
資金はギャングのアジトから押収した金品である。
逃げることに必死だったのだろうが……行方不明になったギャング達がかなりの金額を残していったため、それらは丸ごと領主であるウィルフレッドの物となっていた。
バラまくように金を使ったら、予想外に短期間で屋敷を立て直すことができた。
金を受け取ったゴールドリヴァーの住民達が、みんなで手伝ってくれたためである。
「これから、この町は変わるよ……とても豊かになるだろう」
領主の屋敷。執務室の机について、ウィルフレッドが言う。
その傍らには、アンリエッサの姿もあった。
「町を出ていった人達がどんどん戻ってきているみたいだよ。岩塩が見つかったおかげだね」
「そうですね……きっと、賑やかな町になるでしょう」
ゴールドリヴァーの近くの山で岩塩が見つかったことについても、すでに発表されている。
海から遠いこの地域において、岩塩は金塊にも匹敵しかねない価値があった。
大勢の人々がゴールドリヴァーにやってきており、岩塩の鉱脈では大規模な採掘も始まっている。
ギャング達が隠れて採掘しなくてはいけなかったのに対して、ウィルフレッドには遠慮する必要がない。
採掘すればするほどに金になる。この町は再び、賑やかになることだろう。
「たぶん、とっても忙しくなるだろうね。アンリ……これからも僕を支えてくれるかな?」
「もちろんですわ、ウィル様」
アンリエッサは一も二もなく頷いた。
拒否する理由がない。惚れた弱みである。
(ウィル様……これからも、私は貴方を守ります。たとえどんなに巨大な敵が立ちふさがろうとも……絶対にです!)
岩塩の発見により、ゴールドリヴァーの町は息を吹き返している。
だが……それはこの町が見捨てられた場所ではなく、金のなる木になったということでもあった。
きっと、これからこの町を狙う人間がウゾウゾと出てくることだろう。
それこそ……死体に涌くウジのように。
「潰していかないといけませんね……一匹残らず」
「ん? アンリ、何か言ったかな?」
「いいえ、何も言っておりませんわ」
首を傾げるウィルフレッドに、アンリエッサが向日葵のような笑顔で言う。
「これから、ウィル様のことをお支えいたしますわ……婚約者として」
『呪いの女王』はここにいる。
たとえ、誰が立ちふさがろうとも……ウィルフレッドに危害を加える人間は許すまじ。
(何人でも、何十人でも呪殺してあげます。私の愛しい婚約者を傷つける人間は一人残らず、地獄に落ちてもらいましょう……)
アンリエッサが笑う。
その明るい笑顔とは裏腹に、彼女の背後からはどす黒い呪力が溢れ出ていたのであった。
第十三王子ウィルフレッド・ヴァイサマー。
王家の末席。玉座からもっとも遠いはずの少年が国王となるのは、それから十年後のことである。
兄弟や親類の大部分が不審な死を遂げており、後世の歴史家から『呪いの王』と呼ばれることになる彼の傍らには、どんな時も三つ年上の妃が寄り添っていたのであった。
――――――――――
これにて、物語完結となります。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、別の作品でお会いできることを心より願っております。
呪いの女王ですが家族に殺されたら最高の婚約者ができました。 レオナールD @dontokoifuta0605
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