死体置き場

那須茄子

死体置き場

 月に羽虫たちが寄ってたかる、そんな夜。


 私は帰り道に、路地裏を選んだ。

 今日は珍しく帰路の道順を敢えて変えた。別に理由はない。ちょっとした気分転換にと思っただけだ。


 見飽きたというか見知ったというか──当然ながら路地裏は荒れ果てていて、人が通るには不快感が伴う。明らかに何年も使われていない通路。何かよくないものが棲みついていそうだった。


 ほどなくして異常が現れた。あちこちに散らばる血。腐りきった死の臭い。そのどれもが、人の死を連想させるテーマ。


 気付けば、走っていた。

 もうすでに、路地の奥底まで入り込んでいる。


 この先が、今まさに殺人の真っ最中なのだとしたら、間違いなく私も殺されるのだろう。

 運悪く迷い込んだ目撃者として、処分されるに違いないのだ。


 けれど、不思議と引き返そうとは全く思わない。いや、むしろ心が弾む。

 私は生の死体が見たいと望んでいる。


 

 走る走る走る。走る走る。走る。



 そこでやっと、続く先はなくなった。

 長い路地裏の底へ行き着いたみたい。

 

 ....嗚呼、ある。

 

 長い黒髪を垂れた何かが。

 白い手足を折り曲げられた何かが。

 ひしゃげた百合の花を思わせる何かが。


 横たわるようにして、ある。


 まるで肉食動物にでも、食い散らかされたみたいな有り様。

 血が、肉が、骨が、内臓が。

 ぐちゃっと、綺麗に並べられている。



 私は一目見て、嫌な感じがした。

 ほとんど直感と云ってもいいだろう。


 ここは、あのしたいを飾るためだけの置き場所だと──私は悟り──ここに来て始めて恐怖をおぼえた。

 


 



 

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