第26話 温かな魔剣
「ふう・・・しかし、これが魔剣ですか。
確かに、見ただけで分かります。ただのナイフなのに、異常だ。異常すぎる」
「でしょう」
「ただの名刀って所じゃないですね。格が違いすぎる。
カゲミツ様の三大胆とか・・・ああいう感じです」
「この魔剣も、雷とか出すんでしょうか?」
クレールが魔剣に顔を近付ける。
「もしかしたら、そうかもしれませんよ。気を付けて下さいね」
「だったらすごいですよね・・・
マツ様、あのカゲミツ様の刀、すごかったですよね」
「ええ。まるで、お父様の魔術みたいでしたね」
「そういえば、私が持たせてもらったあの刀、持ってると全然疲れなかったですが、抜くとすごく危ないって言ってましたけど、どんな力があったんでしょう?」
「ああ、真・月斗魔神ですね。
私は実際に見たことはないですけど、聞いたのが本当なら、あれは危なすぎます」
「どんな力なんですか?」
「色が変わったのは見たんですよね?」
「クレールさん、あれはすごく綺麗でしたね」
「ですね! 赤くなったり、白くなったり」
「赤い時に振ると、なんでも壊すような波動が出るとか」
「え!? 何でもですか!?」
「そんな危険な刀だったんですか!?」
「壊すというより、蝋燭がどろどろと早く溶けるような感じらしいですけど」
「ええー!?」
「あの、『赤い時』って・・・もしかして、白い時も何か・・・」
「ええ。羽のように軽くなるのに、岩も簡単に砕けちゃうそうです。
振りの速さで、刀の軌跡が分身の術みたいに見えるそうですよ。
ただ軽くなるだけじゃなくて、振りが速くなる力もあるんでしょうね」
「・・・」
「わ、わわ、私、そ、そ、そんな刀を持って走ってたんですか!?」
「ふふふ。私も聞いただけで、見たことはないんですが・・・
まあ、本当なんでしょうね」
「そ、そんな刀、どうやって作ったんでしょう・・・」
「オトサメっていう昔の刀鍛冶が、とんでもない魔力異常の地で、命と精神を削りながら打ったそうです。魔力異常もそうですが、ただただ力を求めた執念や狂気で、あんな力が宿ったんでしょうね。狂い死ぬ直前に出来た最後の作と言われているのが、父上が持っている真・月斗魔神です」
「へえ・・・」
「オトサメは何本か作を残してますが、見つかった物はどれも厳重に保管・・・
いや、保管というより、封印されています。表に出ることはまずありません。
個人でオトサメの作を持ってるのは、父上だけです」
「そんな物を持たせてくれたんですね・・・」
「羨ましいかぎりですよ」
「お父様(魔王)も持ってるんでしょうか?」
「魔王様がほとんどを持っているはずですよ。
オトサメの危険な作は、全部魔の国で打たれた物ですから」
「その、オトサメという方の刀って、他にはどんな?」
「色々ありますが、例えば振ると巨大な斧のようになったりする作とか。
重さは普通の刀なのに、岩も簡単に砕いちゃうそうです。
振り切った所で、すっと刀の形に戻るんですって」
「うぇええ・・・怖いですね・・・」
「そんな危険な物ばかりなので、厳重に封印されてるんですよ。
素人が適当に振り回すだけで、軽く100人は斬り殺せるものばかりですから。
どれも魔剣と変わりないですね」
「・・・」
「オトサメが、魔の国で打ったのが救いでした。
すぐに魔族の方々が回収して、封印してくれましたから・・・
もし人の国であれが作られていたら、今も戦争が続いていたかもしれません。
人の国にいた頃に打った作は、何の力もない名刀ばかりです」
「それでも、名刀を残してるんですね」
「あの、もし、ラディさんのお父上が、魔力異常の地で打ったりしたら・・・」
「ふふふ。新しい月斗魔神が生まれるかもしれませんね」
「・・・」
ふ、とアルマダが笑った。
「お二人共、カゲミツ様の刀を、美しい、綺麗だ、と感じませんでしたか?」
「ええ、すごく」
「きらきらしてたり、吸い込まれそうな黒だったり、色が変わったり・・・
どの刀も綺麗でしたね!」
「でも、美しいほど危険なんです。刀というのは、女性と同じなんですよ。
マツ様や、クレール様と同じです。綺麗なバラには棘があるって事ですよ」
こんなくさい台詞も、アルマダが言うとぴったり自然だ。
「まあ!」
「ええー!」
「ふふふ。だから、我々は刀が大好きなんですよ。ねえ? マサヒデさん」
「えっ」
「『えっ』てなんですか!?」
「マサヒデ様! 私達は美しくないんですか!?」
ぐ、と2人が前のめりになる。
「・・・確かに、お二人共、美しいですし、すごい力を持ってますけど」
「けど!?」「けど!?」
「優しいから、私は好きなんです」
ぽ、と2人の頬が赤くなる。
「ははは! 言いますね!」
「・・・」
すい、とマサヒデが魔剣に目を向ける。
「ここにある魔剣を見て下さい」
皆が、小さな魔剣に目を向ける。
「この魔剣。蓋を開けた時、何か前と違う感じがしたでしょう?」
「あ! しました!」
「ええ、なにか・・・うーん、上手く言えませんけど、感じました」
「ラディさんと、お父上が、気を失うほどに心を込めて・・・
きっと、宿ったんですよ。ラディさんと、お父上、お二人の魂が。
だから、前と違う感じがするんです」
「マサヒデ様が、ラディさんの名前をつけるって注文したからですね!」
「え? なんですって? マサヒデさん、聞いてませんよ」
「ああ、アルマダさんには言ってませんでしたか。
この魔剣、登録の際は『魔剣ラディスラヴァ』と申請するつもりです。
柄の、その握りの皮の下には、お父上とお母上の名が刻まれています」
「それは・・・お二人も気合が入るでしょうね。魂が宿っても、おかしくない」
「マサヒデ様、あのお二人は、この魔剣にどんな思いを込めたんでしょう?」
「きっと、嬉しいとか、そういう一言で表せるような気持ちじゃないですよね」
「少なくとも、オトサメのように、力を求めた執念のような、そういうものではありません。両親の名が刻まれ、娘の名が付く魔剣・・・きっと、色んな温かい気持ちがいっぱいに宿った魔剣になったはずです」
「温かい気持ちでいっぱいの魔剣・・・素敵な魔剣ですね・・・」
「ええ」
アルマダがふっと笑った。
「ふふ。マサヒデさんは、ホルニコヴァさんまで妻にするつもりなんですか?」
「・・・マツさんにも、同じ事を言われましたよ」
「ははは!」
くす、とマツとクレールが笑う。
「ふふふ、また新しい魔剣を見つけたら、今度は『マツ』とか『クレール』とか名付けましょうか?」
「うふふ。いいですね」
「どんな魔剣がいいですかねー。私はかっこいい刀がいいですね!」
「クレールさんは刀っていう感じじゃあないですね・・・
うん、刀はマツさんですね」
「美しいけど危険ですか? うふふ」
「じゃあ、私はどんな魔剣ですか?」
「そうですね・・・クレールさんは・・・
銀色に輝く懐刀とかどうです? 月明かりを浴びると、赤く光ったりして」
「わあ・・・」
「ははは! マサヒデさんは上手いですね!」
肘枕で転がっていたシズクが、ごろん、とこちらを向く。
「なあ、マサちゃん。私だったら何?」
「シズクさんは・・・ううむ・・・斧?」
「ええー!? 可愛くない!」
「アルマダさんはどう思います?」
「ふむ。シズクさんですか」
アルマダはぐいっと顔を突き出し、顎に手を当て、まじまじとシズクを見つめる。
「・・・」
「ちょ、ちょっと、ハワードさん、恥ずかしいよ・・・」
顔を近付けてじっと見つめられ、シズクは頬を染めて、目を逸らす。
いつも見ないシズクの反応に、皆がくすくすと小さく笑う。
「うむ・・・シズクさんは・・・」
「・・・」
「うん、斧槍(ハルバード)ですね。これしかない」
「やっぱりでかいやつなのー!?」
「ははははは!」
皆がげらげら笑い出す。
シズクは「もう!」と言って、また壁の方を向いて寝転がってしまった。
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