「私に紡ぎを! 人騙しを! それが⋯趣味という名の仕事ですから。」
明日いう
第1話 「今宵は面白いと良いのですが。」
私はずっと! ずーっと! 今日を待ち侘びていました!
さぁ、皆さん! もっと戸惑い嘲笑い、私に紡がせて下さいな。この素敵で美しい空間を!
ん゙! 突然、失礼を。つい興奮が抑えきれなかったもので。私は人騙しを趣味としている唯の趣味人で御座います。
私が何故興奮しているのか! まぁ、賢い皆さんならもうお気付きでしょう。
それでは、どうぞ私のだーいすきな人騙しを今宵も最後までお楽しみ下さいな!
▽
「き、君ってやつは⋯! 何故だ、何故今そんな顔が出来る!」
「あぁ、それはあなたが余りにも可哀想で。」
「か、可哀想だと⋯! こ、この僕が可哀想に見えるというのか!」
「えぇ。可哀想ですね。」
すると周りからざわめきが大きくなるではありませんか! まぁ、そりゃそうでしょう。それに比べて⋯、今のあなたの反応は二点。
あ、そうですね! やはり此処は場を面白くしなくては、私の名が
「何故と仰られましたね?」
「あぁ、言ったさ⋯。き―――」
「あなたこそ先週、何をしていたか自覚がないと⋯?」
「先週⋯⋯あ、いやそれは! ま、待ってくれ! 欲しいのは金か! 金なら幾らでも! あっ!」
あら、自分から罠に転がり落ちるとは随分とつまらないお方。あぁ、この方は失敗ですね。
案の定、周りは
「今、金と言ったか?」
「えぇ、そう聞こえました。」
「私たちにはお金を支払わないというのに。」
「あぁ! それでどれだけ苦しい思いをしているのか知らないんじゃないのか!」
「な、それが本当ならあいつは許しちゃいかん!」
うーん! 皆さんご立腹の様子。さぁ、この方は裏切られたという顔をされています! ですがそれだけでは足りませんの。
よって今宵の私が渡すフィナーレは!
沢山の絶望で御座います。
さぁ! 先ずは信頼している人からの乗っ取り。
「あ、あれはなんでしょう?」
「は、今はそんなの―――」
と、言うのも予想済みです。なので、思いっ切り顔を向かせます。
「な、なにをし、て」
と、目を大きく見開かれるつまらないお方。
「あ、なん、で⋯。」
さぁ! 次はあなたが大事にしていらしたこれを。
「あ、これはなーんでしょうね。」
「そ、それに触るな!」
「これを今から変えてみせましょう。」
「3」
「やめ」
「2」
「あ」
「1」
「はい、どうでしょう! 変わっていますよね?」
と、私が言うと周りの方は
「ほ、本当だ!」 「あんた、何者だ!」
などと
私が最も好きなのは人騙しと良い反応。それからこの趣味という名の仕事だけですから。
えっ? 先程と言っていることが少し違う⋯? そうでしょうか?
細かいことはさて置き、そろそろ最後に移りましょう!
「も、もう辞めてくれ。」
「私に辞めてと言う前にあなたにはやるべきことがあります。」
「そ、それは何だ!」
うーん、この方、いえこの男。
「口が少々なっていないかと。」
「な! ⋯⋯う、何をすれば良いですか?」
「まぁまぁですね。ですが! 今宵の最後が終わってはいません! さぁ、お手を取って。」
「は、誰が―――」
「お手を。3度目はありませんよ。」
「わ、分かった。」
「はぁ。さて、それでは皆さん! 今からこの男が謝ると、突然この男は消え、皆さんの元には支払われなかったお金が現れます。」
「ほ、本当なのか?」
「持ち逃げとかじゃないだろうな!」
「えぇ、本当で御座いますよ。さぁ皆さん! この男に謝罪を求めるのです! さすればこの男は謝罪し、皆さんのお金は元通り! 瞬く間にハッピーとなるでしょう!」
「うーん、怪しいぞ。」
「いや、でもさっき物を変えてただろ。」
「それはそうだが、あいつが謝罪するわけがない。」
「じゃあ試しに誰か言えば良いじゃないの!」
「お前が言えよ。」
と、口々に反応が。疑いも時には必要ですよね。などと考えていると
「わ、分かったわよ。」
うん、決まったようですね!
「⋯謝罪して! 私たちに!」
さて、それでは皆様じっくりとご覧下さい。
「誰が!」
と勿論、抵抗するこの男に糸を使い
「な、口が―――ご、ご、ごめん、なさ、い」
「え、本当に謝罪を―――」
「おい、あれ見ろ! あいつがいねぇ!」
よし、急いで言わなければいけません!
「皆さん! 財布をご確認下さい。」
「財布⋯? 今日は百円しか持って―――え、あれ? 凄い額が入ってる!」
「本当だ! 俺の財布もパンパンに入ってやがる!」
そろそろお暇しなくては。次はどんな人でしょうか。ふふっ、楽しみですね。あ、その前に報告でした。
「さぁフィナーレも終わったところで私も消えるとしましょう! それでは皆さん、ご機嫌よう。」
「あ、ちょ」
▽
んー、この後は先程述べたように報告。まぁ、今回の仕事は暫く頑張ったかいも少しはありましたし、良しとしましょう。それにしては何か重いような⋯
「き、聞いて下さい! 苦し⋯」
え、声がしますね。へ、変です⋯。
「くる」
う、後ろからします。そう思い、私が振り向きますと
⋯え、あーなるほど。目が可笑しくなったんですのね、きっと。
「ぐぇ」
な、なんか聞こえてはいけないような声がしますね。つまり、目の錯覚じゃない?! ど、どうしましょう!
「い、今助けますね!」
なんで仕掛けの糸に絡みついているんですか! この方は! というかこの方はどなたですか! と、悪態を付きつつも糸を解くしかないご様子。
うぅ、心做しか暴れるから余計に絡みついていく気が⋯
う、仕方ありません。私、糸の扱いは苦手ですので。あ、そうです! 姉さんに解いて貰えば良いではありませんか。
そう思い経つと私は、彼を特製の糸で持ち上げ、姉さんがいらっしゃる仕事場まで一直線に駆け抜けます。
姉さんならきっと! そう時間も経たずに解けちゃいますよ。
「ぐぅ」
わ、急がないとです! 人殺しをしたい訳ではありませんので。
一層急ぎ足になる私。これで間に合うのでしょうか。と、不安になりつつももうすぐです。
「ん? あ、姉さんー!」
運良く姉さんが外にいました!
「あ! ⋯⋯んん? 何だ、その糸に絡みついている輩は。」
「そうなんです! この方の絡みついている糸を取って貰いたくて私は此処に急いで来たのです。」
「なぁ、そいつ。息はあるか?」
「はい、多少は。」
「そうか、なら急いで解くぞ。」
と、言い姉さんは大急ぎで解いていきます。
流石姉さん! 早いお方です。
「終わったぞ。どうだ、息は出来るか?」
「っ、はぁー。し、死ぬかと思った⋯。」
「あのなんであなたは糸に⋯?」
「あ、あぁ。あんたが変わってることやってるのが気になってな。咄嗟に糸を掴んだらこのザマだ⋯。勝手にすまなかったな。」
なるほど。
「いえ。あなた、行動力が凄いんですね!」
「いや俺、お前らみたいな職業見たことなくてよ! つい興味心でやったというか⋯」
「なんで職業だと思ったんだ⋯?」
「だってよ、男が隠し持ってた大金をどうやって手に入れたんだ? しかも口振りからして男は気付いていなかった。」
「そうか、それでお前はそんなことが出来るのはと考えたのか?」
「あぁ、そうだな。」
「職業は合っていますね。でも、大金は内緒です。」
「そ、そうか。ならさ! 俺を入れて―――」
「駄目です!」
「え、な、何でだよ。」
「そうですね、あなたが役に立てるという根拠は?」
「それは⋯」
「良いか、あたしたちの職業は目立ちはするが秘匿されているものなんだ。」
「え、秘匿されて⋯? 確かに聞いたことがない。⋯⋯でも、俺は気になるんだ!」
「そこまで言うならこれを触って下さい。」
と、言い布を渡してみることにしました。
「な、それは―――」
「何だよ、これ。」
「せいぜい絞められないようご注意を。」
「は、何急に―――ぐっ、な、何だこいつ苦し⋯」
「え」
「ないですね、この方は。行動力があってもこの方は今絞められて気絶していますし。」
適正があれば威嚇されずに済むようになっています。ですが、結果はこうです。はぁ、今宵はつまらないようですね⋯。
「ま、待て。俺はまだ気絶していない。」
「だから、何だと言うんです? こんなに威嚇されてるのに⋯⋯。」
と、言いながら布を撫でます。
「こ、これから威嚇されずに済むかもしれないだろ!」
「へぇ、いつですか?」
「それは⋯、い、いつかだ!」
「そんなに入りたいとは⋯、分かりました。
ではこうしましょう! これから一ヶ月で威嚇されないようになって下さいね。」
「おい、それは流石に上に!」
「私がその上ですよ?」
と、そちらを見た私は、にっこり笑って言いました。余計な口出しは、避けて貰いたいのです。
「は、あ! だからその布を⋯!」
「姉さん―――」
「待て待て、すっごく待っってくれ! お前、偉かったの!? え、聞いてない、聞いてない。」
と、突如会話に入り込む先程の方。今、大事な話の途中だったのですが⋯。と、思いつつも返事をします。
「言う必要性がありませんでしたから。」
「え、えー。あ、あと一ヶ月は短いって! せいぜい数ヶ月とかさー。」
聞いても屈しないとは、なかなか楽しそうな方と認識を改めざるを得ませんね。
「ふふっ、そうですか。それでは特別に三ヶ月に延ばしましょう!」
「い、良いのか! いやでも急に何で⋯」
「私があなたに興味を持ったからですよ?」
「あ、え! きょ、興味?!」
「⋯⋯。」
心做しか姉さんが驚いています。
「はい! 興味です!」
「な、何故俺に興味をお持ちで⋯?」
「それは―――」
「あ、あぁ! やっぱり良い! あ、後で聞くから。」
と、何故かキリッとした表情で言われました。
「そうだ、仕事場は入っても良いのか?」
「はい、構いませんよ。人のを見て学べば
「う、それは言わないでくれぇ。」
「あ、あと糸にも絡ま―――」
「そ! それも! 言わないでくれ⋯。」
と、今度は更に
「それじゃあ、明日また此処に来て下さいな。」
「あぁ、勿論!」
と、先程の萎れていた姿が嘘のように元気になりました。
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