第6話:恩師
マルケルとエマが話し合っていると、ふと後ろから声をかける者がいた。
「やぁ!君たち。」
その少し鼻につく、いかにもお坊ちゃんみたいな声をした奴は…。
「…なんだ?カルム。」
「う、うわぁ!首席様だ!」
エマも流石は女。カルムの美貌には目を奪われる。そして、神でも見るような目でその男の頭から爪先迄を何度も見るのだ。
「次席君もどうやら、新しい"奴隷"…いや君にとっては、"手下"か!それを手に入れたらしいね。そこの女だろう?」
「まぁ一応そうだが。」
エマはなんのことやらと言った感じでマルケルとカルムを交互に見る。
「それで、何の要なんだ?首席様直々に話しかけに来るとは、そんな世間話をしたいだけではないだろう?」
「よくぞ、お気づきで!」
マルケルは、溜め息をついて姿勢をカルムに向けた。
「で?」
「ほらー、僕たち怠慢をするだろう?しかも、もうすぐ。」
「あぁ、するね。」
「もし、この怠慢で…まぁ、ないだろうけど。君が勝ったら、僕は君の手下になり、僕が"当たり前"だけど、君に勝ったら、君は僕の奴隷になってくれるんだよね?」
「…あぁ。」
マルケルは段々イライラしてきたが、ぐっと堪えた。
「だから、その後の関係性を円滑に進めるためにも、"同じ講義を選択する"と言うのはどうかな?」
「……あ?」
マルケルは嫌すぎた。仮にこいつに勝っても負けても一緒に居たくなんてない。ウザイし、キモイし……何より女子に好かれ過ぎだし…。とにかく、こいつといるとろくなことはない。マルケル自身もこれから戦う上での戦力として、カルムを手下にしたいだけで、それ以外での関わりは絶ちたい。
「それにだ…。」
「…まだあるのか?」
「そう嫌そうな顔するなよ~。」
カルムはこちらの都合も露知らず、一方的に話してくる。
「そこの女!マルケルの手下の君だよ。」
「…私ですか?」
「そうだよ。もしマルケルが負けたら、君も僕の奴隷となるよ。」
「…。」
エマはいかにも何を言っているのか分からないと言った顔をする。当然だ。首席と次席が怠慢をすると言うことは知れ渡っていても、その勝敗によってどの様な
「存じ上げてません…。」
「あれー?聞いてないのかい?まぁいいやじゃぁ、教えてあげる。」
カルムがそう言ってマルケルたちの
「…まぁつまり、君はマルケル側なんだから、マルケルが奴隷になれば、自動的に君も僕の奴隷になるってことさ。」
「…え?」
エマは、急にそんなこと言われても、と言った顔をしている。
「…エマは関係ないだろう?」
「この女、エマって言うのか。関係あるさ!マルケル、君がこの子を手下にしたのが悪い。この子も道連れにしたんだよ。」
「俺とお前の契約に彼女を持ち込むな。」
「ふふっ…。まぁそんなこと関係ないね。少なくとも僕が勝ったらエマまでもが奴隷だ。それでね、エマ。提案がある。」
「なんですか?」
「もし今から主人をマルケルから僕に鞍替えするって言うなら、奴隷にはしないであげる。君が今なってる手下にしてあげるよ。」
「…。」
ここに来てカルムはエマに提案を始めたのである。ここで仮にエマがカルムの方へ行けば、マルケルにはこれからの戦力的な面や精神的な面でも今より劣ることとなる。それを見越してカルムは提案しているのだ。
「さぁ、どうかな?」
「私は…カルム君の手下にはなりません!」
意外な発言をした彼女。カルムは勿論、マルケル自身も驚いた。エマはどうせカルムの方へ行く。その方がメリットが多すぎるのだ。まず、女子全員が大好きなカルムとお近づきになれる。それに、カルムは首席だ。学校が始まってまだそれ程経っていないのにも関わらず、怠慢をするとなると、カルムが勝つだろうと考えるのが当然なのだ。つまり、マルケル側についていたら、奴隷になる可能性が高まる。それなのにエマはマルケルを選んだ。
「マルケル君と先に約束したので!それに、マルケル君には恩があります。だから、提案は飲めません。」
エマかこんな回答をするとは思わなかったのだろう。カルムは歯軋りをしていた。
「良いよ。その代わり君にはマルケルよりもーーっと辛い思いをさせてやるからな。」
カルムはそう言い捨て、何処かへ去った。結局同じ講義を取ろうとか言う提案もなし崩しになった。カルムのプライドがズタズタに引き裂かれたのだ。カルムは恐らく今までその美貌と家の金で、困ったことなどなかったのだろう。それに、女に対して提案するとなると尚更、皆ペコペコして、カルムについて来ていたはずだ。それが今回の場合は違う。マルケルは、カルムに同情までするようになった。
「…ありがとな。まさか俺についてくるとは思わなかったよ。」
そうマルケルが言うとエマは微笑んだ。
「だって、マルケル君優しいし、一緒に居て楽しいから!」
エマのその真っ直ぐな瞳にマルケルは照れくさくなり、咳払いを一回すると共に
「講義がこれで良いか再確認をしよう。」
と言った。その声色に喜びの感情を交えて。
✣ ✣ ✣
無事講義決めが終わり、放課後。エマと別れたマルケルは、グラウンドで1人、魔法を唱えていた。
「
そうマルケルが言っても、魔法は出ない。あの試験の時に余程の確率を引いたらしい。自分の運の良さを改めて痛感する。そして、何故マルケルが魔法を唱え続けているのか。それは唱え続けることによって、魔法が強化されやすいからである。魔法を撃つ回数を増やすと自然と身体がどの様に唱え、杖を動かすと良いか等を覚える。試験の時にカルムが唱えた
「取り敢えず闇雲にやってるが、こんなんで本当に身体が覚えるのか?」
半信半疑でマルケルは魔法を唱え続けた。その時だった。
「よぉ、喧嘩大好き少年。」
マルケルが辺りを見渡しても喧嘩が好きそうな少年は見当たらなかったため、仕方なく振り替えるとそこには一人の男が立っていた。無精髭を生やし、黒色のダボダボなジャージを着ている。
「誰ですか?」
「俺の名前は、メルトス・フォレスト。知らないか?」
「知りません。」
「そうか…。まぁ、ここベルトラム魔法学園の体育科教師をやっている者だ。」
「はぁ、そうですか。」
そして、マルケルは疑問に思っていたことを口にする。
「あの…"喧嘩大好き少年"って、なんのことですか?」
「え?お前さんのことだよ。」
「何故?」
「何故って…。お前さん首席と怠慢、するんだろ?」
「え…まぁ…はい。」
「俺は先程も言ったように体育科教師。お前さん達みたいな喧嘩っぱやい少年共が申し込む学校公認の怠慢を管理しているのもこの俺なんでね。お前さんの情報は既に入ってきているよ。マルケル・ラフエンテ。」
「はぁ。」
マルケルは、そう答えるしかなかった。
「それで、お前さん魔法を唱えていたな。確か…
「一応…。」
「ふむ。その魔法構成だと…
そう言うとメルトスは舌で音を鳴らし、指をマルケルには向けた。
「そう…ですね。」
異様な距離感の詰め方に戸惑ったマルケルだが、このメルトスと言う中年男は、どうやら魔法に詳しいらしいと判断した為、軽蔑し、離れないようにしようと決意した。
「ただ…。」
「…ただ?」
「お前さんのその魔法の出し方じゃレベルアップはできないぞ?」
「え?」
「闇雲に魔法を出すだけでは、意味がない。しっかり、1回1回意識するんだ。身体はどの様に動くのか。どうやって魔法が自分に付与されるのか。そう言ったことを意識しないと一生魔法は強化できない。なら、試しに俺の成果を見せてやろうか?」
「…お願いします。」
「…
そうメルトスが言った途端、メルトスに赤い炎のようなものが纏った。少し離れていても覇気を感じる。もうそこに居たのはさっきのだらしない中年男ではない。
「
そう言った瞬間に高速な何かがメルトスの持つ鉄砲の杖のようなものから飛び出し、木1本を撃ち抜いた。撃たれた木は貫通し、その穴から次第にひびが入る。数秒後、木は倒れた。よく見ると、撃たれた木の奥にあった木にも銃弾のようなものが届いていることが分かった。杖の先端と貫通している部分には、煙がたっている。
「じゅ、銃?」
「あぁ、
「5…5%!?」
「だが、威力がものすごく高い。だから、代々のフォレスト家は、いざという時に使いたいと思うわけだ。」
「はぁ。」
「そこで、俺が発明した魔法
「やはり、確率の低い魔法を使うだけあって、
その後もメルトスは、色々なことを語っていたが、よく分からず、マルケルはただひたすら彼の話を聴いていた。そして、思った。「この人に弟子にしてもらおう」と。この人なら俺の願いを叶えてくれる。そう思った。
「あの、メルケル先生!」
「…ん?どうした?」
「俺に教えてください!
「ほぉ?俺の初弟子か!良いだろう!みっちり教えてやる!」
マルケルの秘密の特訓が恩師と共に始まった。
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