第三章 ~『カインの告白と魔女』~


 アンドレアの屋敷を後にし、カインと二人で馬車に揺られていた。これでもうアイスビレッジ公爵領を訪れることもないだろう。見納めである。


(色々とありましたね……)


 魔女だと畏怖され、婚約も破棄もされたが、楽しい思い出がなかったわけでない。名残惜しさを感じていると、カインが微笑みかける。


「アンドレアとの別れが寂しいのかい?」

「まさか。あの人にはもう思い入れはありませんから」

「でも治療はしたんだろ?」

「一応、改心したようですから……命だけは助けてあげないと可哀想ですしね」


 素直になれない反応に、カインは小さく笑みを零す。


「君はやっぱり凄いよ。改心したとは言え、婚約破棄した男の命を救うのは簡単ではないからね」


 カインの言葉は大袈裟ではない。婚約破棄された貴族令嬢は社交界で傷物扱いされる。今後のキャリアの大きな足枷となるのだ。


 それほどの仕打ちを受けながらも、メアリーは許したのだ。誰にでもできることではない。


「それはきっと私が結婚に強い憧れを持っていないからでしょうね……」

「なら、これからも独身を貫くつもりかい?」

「そうなるかもしれませんね」


 好きな相手との結婚ならともかく、家のための政略結婚はもうこりごりだ。その返答を受け止めたカインは、真剣な面持ちで目線を向ける。


「君の気持ちは分かったよ。だから僕の想いも聞いてほしい」


 カインは手を震わせて緊張していた。彼らしくない反応に驚きながら、続く言葉を待つ。


「僕は君が好きだ。心の底から愛している」

「友人としてではなく、異性として私のことが好きだと?」

「ああ。君がたまらなく好きだ。生涯、尽くし続けることを約束する。だから……僕の想いに応えてほしい」


 カインが手を差し出す。その手を握り返したい。心はそう主張しているのに、また捨てられたらどうしようかという不安でもう一歩が踏み出せない。


「メアリー、僕を信じてほしい」

「カイン様……私は魔女と恐れられた女ですよ」

「知っている」

「あとから私との結婚を後悔しても知りませんよ」

「するはずがないよ。なにせ僕らは幼馴染だ。君のことなら何だって知っているからね」


 それはメアリーも同様だ。長い付き合いだからこそ、カインが誠実な人だと誰よりも知っていた。


 彼の真っ直ぐな瞳を信じてみよう。そう決意し、差し伸べられた手を握り返すと、カインの口元に笑顔の花が咲いた。


「ありがとう、絶対に幸せにするから!」


 メアリーの勇気に感謝し、カインはギュッと彼女を抱きしめる。伝わる温かさと共に、彼の愛を感じるのだった。

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