空色シリーズ

四季式部

第1話 初めての質問

もう7時というのに外はまだ明るい。

先にお風呂に入り、ビールを飲んでいた。暑い。今夜も熱帯夜だ。


「あっちーな」と三本目のビールを開けた瞬間タイトルコールが始まった。


もう0時になったらしい。MCの男は言う。


「はい。皆さん今晩はー。毎週金曜日の夜にお届けする完全アドリブラジオ『人間クエスト』が始まりましたー。進行を務めさせていただきます。新海芸能事務所タレントの水溜ソラと」


「駒込放送アナウンサーの川端美羽です」続けてMCの女が言う。


彼が「じゃあさっそくお便りコーナーと行きますか」なんて言うもんだから、川端さんが可愛らしく困っていた。


「えっ前回のはいいんですか」そういう彼女に「いいよ一週間前だし」という。じゃあ読みまーすと完全に彼のペースになった。


「はー」とため息を吐く隣で言う。


「ラジオネームゴミ箱泥棒さんこんばんは。初めての質問です。えーと、私はいま一軒家で独り暮らしをしています」


少しオカルトになりますが、この家は事故物件で家賃が安かったのです。私はもともと幽霊とか信じていません。


しかも事故物件と言っても動物たちを虐殺して自殺したという事でした。別に動物の霊ならいいやなんて考えて2年ほど前からこの物件を借りています。


ちょうど一週間前寝ているとキーキーと音がするんです。まるでブランコが揺れているみたいな音です。


その日から夜になるとコンコンとたたく音やカラカラと木材?が落ちる音がするんです。しかもラップ音というんでしょうか。「パキッ」や「ピシッ」という音もします。


天井裏に何かいるんじゃないかと思い両親を呼んでみてもらいまたが、なにもいなく綺麗でした。これは何が原因でしょうか教えていただけると幸いです。


長文失礼しました。


「なるほどー夏にぴったりなお便りを引きましたねー」と続けて言う彼に「よくこの番組今の今まで続いてますね」なんて彼女が笑う。


この番組「人間クエスト」はラジオ番組という常識を超えてくる。特にMCの男、水溜ソラは破天荒である。


質問コーナーやお便りコーナーのお便りを普通は始まる前にきちんと選別したりするだろうが、このラジオでは完全運らしい。


どんな内容でも運で読まれる。放送中に適当にお便りの山から選ぶらしいのだ。だからこそ人気がある。文才が無い人。普段は話されないであろう話すべてを運次第で選ぶらしい。


そして、さっきも言ったが、水溜ソラは破天荒である。


頭がいいのか、人とずれているだけなのか、こんな方法があったのかなんていう事を言う。そんな名探偵と振り回される川端さんのキャッチボールは聞いていてとても面白い。


まだ番組が始まって一年もたっていないのに神回が多くある。とある回では川端がぶちぎれて先に帰るときもあったし、暴走した時もあった。


一通のお便りから本当の殺人事件を解き明かしたこともあったし、警察沙汰になったこともあった。そんな神回はさらにこのラジオを光らせた。


俺は今日も神回になりそうだなとビールに口をつけた。

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