3月6日

 家を出たら霧雨が降っていた。空には重たそうな灰色をした低い雲。


 折りたたみ傘を鞄から出して、駅までの道程を急いだ。途中でマスクを忘れてきたことに気づき、駅の入口でごそごそする。大井町線は、目の前でドアを閉めて走り去ってしまった。


 会社に着いて鏡を見ると、ヘアアイロンで仕上げた外ハネがきれいになくなっていた。ふだんは勝手に内巻きになる髪が、ただのストレートになっただけだった。よほど気にして見なければ、その差に気づくことはないだろう。


 それでも、このあいだ染めて少しだけトーンが変わったことに気付いて声をかけてくる人はいるものだから、案外気にされているのかもしれないと思った。


 その人が、最近同棲を始めたということを知らなければ、きっともっと喜んでいたんだろうな、と思った。

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